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私、世界中の中で、一番大切な人がいます。
私の一方通行だけど、でも、好きっていう気持ちは、誰にも負けない。
いつも、私一人が逆上せ上がってしまって、それでも、彼は、私に気が付きません。
一方通行なんて、もうイヤ。
でも、告白する勇気もない。
どうしたらいいの?
私、橘なぎさ、高二。
私が好きな人は、一つ上の大沢克俊先輩。
何時も、彼の事ばかり考えてる。
友達には。
「諦めなさいよ。大沢先輩、倍率高いんだよ」
何て言われる。だけど、そんなに簡単に諦めることなんて、私にはできないよ。
好きな気持ちは、隠せない。
だけど、直ぐに諦めたくもない!
先輩の事。
こんなにも好きなのに……。
心蔵が破裂しそうな位好きなのに……。
どうやったら、諦めることができるの?
私には、わからない。
わからないよーーー。
「なぎさ。外、大沢先輩がシュートするよ」
後ろの席の未久ちゃんに小声で言われる。
「わかってる」
私も小声で返す。
授業中にも関わらず、外でサッカーをしている先輩を見ていた。
先輩が放ったシュートが見事にゴールネットを揺らす。
「やったー!!」
静かな教室に私の声が響き渡る。
「こら!橘。今は、授業中だぞ、よそ見なんかして、この英文を訳してみろ」
教壇から、先生が怒鳴る。
うへーー。
今は、私が大の苦手としてる英語の授業。
どうしよう……。
おたおたしてる私に。
「なぎさ。これ」
って、未久ちゃんがノートを貸してくれる。
私は、それを借りて、答えた。
「よろしい。もう、余所見するなよ!」
て語尾を強調する。
「はい」
私は、素直に返事を返すしかできなかった。
「ありがとう。未久ちゃん」
授業が終わり、後ろの席の未久ちゃんにお礼を言う。
「どういたしまして。なぎさったら、本当大沢先輩の事好きなんだね」
大沢先輩の事を言われると、途端に顔が火照る。
「赤くなってる」
真奈にまで言われてしまう。
未久ちゃんこと、槙村未久。
真奈こと、大沢真奈。
真奈は、大沢先輩の妹でもある。
「お兄ちゃんになぎさの事紹介しようか?」
突然、真奈が言い出した。
その言葉に益々顔が熱くなっていくのを感じながら、首を横に振る。
「なぎさって、臆病だね」
何とでも言って。
私は、ただ見てるだけでいい。
それだけで、満たされるから…。
「なぎさ。今、お兄ちゃんフリーなんだよ。アタックするなら、今なんだよ。ただでさえ倍率高いのに見てるだけだなんて、もったいないよ」
真奈が、私に冷たい視線を送りながら、チャンスなんだからね。って送ってくる。
「いいの。私は、見ているだけで満足だもん」
私は、そう言いきった。
「そんなこと言っても、何時かはお兄ちゃんに彼女が出来る。それを見ていかなくちゃいけなくなるんだよ。それでも平気なの?」
真奈の意見は、最もだと思う。
「そうだよ。先輩に彼女が出来たらなぎさ、何も出来なくなるんだよ」
未久ちゃんも、真奈の意見に同意する。
「ううん、いいの。もう少し、遠くから見ていたいの」
「なぎさがそう言うならねぇ」
「なぎさ。いつでも家に来ていいんだよ」
真奈が、真顔で言う。
「うん。ありがとう」
私は、グランドの隅の水飲み場に居る大沢先輩の姿を見ていた。
大沢先輩。
私は、世界中の誰よりもあなたが好きです。
こんな気持ち、初めてなんです。
誰かを好きになるって、苦しいんですね。
心の中が、パンクしそうです。
私には、先輩の彼女になる資格なんて、ありません。




