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第7話:寄生体の覚醒

第一部:帽子の下の「眼」

鎖の痛みに悶えながらも、虚無の異形は強欲に突き動かされて立ち上がった。ウィスタートの一撃は致命的だったが、その力が欲しかったのだ。


「あのガキ……見たこともない力を持っていやがる」異形は意識を失ったウィスタートに歩み寄った。「この帽子、いただいていくぞ。価値がありそうだ」


だが、帽子を持ち上げた瞬間、世界が止まった。帽子の暗闇から一つの「眼」が開き、強烈な紅い光を放ったのだ。その光は一瞬で異形の視界を焼き尽くした。


「ぎゃあああ! 私の目が! 呪わしいガキめ!」異形は絶叫し、暗闇へと逃げ惑う。


ウィスタートの影から、純粋な魔力で構成された異形が這い出した。その体には15個の「眼」が散らばり、それぞれが15の根源魔法の紋章を宿している。その声は、何人もの女が同時に喋るような多重音だった。


『……持ち主に繋がれた「寄生体きせいたい」を盗めるとでも思ったか?』


「き、寄生体だと?」異形は震えた。「嘘だ! 寄生体がこれほど完璧な形を成すはずが……」


『貴様は何も見ていないのだよ、愛しいひと』寄生体は瞬時に姿を変え、知った顔を模倣する。『私は主、ウィスタートのためだけに存在する。貴様の魂を粉砕し、聖なる「シエルト」に何も伝えさせぬことが私の目的だ』


寄生体は慈悲もなく魔法の糸を異形の脳内へと通し、その存在ごと消滅させた。そして再び少年の体へと溶け込んでいく。

『安らかに眠れ、私の小さき主よ……私が守ってあげる。貴方がシエルトを守るように』


第二部:虚無の収穫者

「虚無の瞳」の第六の森。その地平線から二つの光が近づいてきた。虚無の教会の修道女、マレイとその仲間だ。彼女たちは魂の収穫と異形の狩りを行っていた。


「見て、マレイ……子供よ!」「なんてこと!」

二人はウィスタートの体の前で足を止めた。


「なぜ『死せる巨神タイタン』の子がこんな場所に?」マレイは警戒しながらも観察した。「……いや、今はいいわ。教会の務めとして、助けなければ。背負うのを手伝って、西の教会へ運ぶわよ」


修道女たちが少年を運ぶ中、ウィスタートの中の寄生体は蔑むようにそれを見ていた。

(虚無の女神? 教会?……星々と月どもの厚顔無恥さよ。シエルトを死の並行世界へ封印しておきながら、その創造物を教化しようというのか。いつか我があるじが帰還した時、我ら創造物がお前たちの理想を凌駕することを証明してやろう)


第三部:西の教会

大気が凍りつく「極寒刻ごっかんこく」が来る前に、彼女たちは教会に辿り着いた。石造りの荘厳な建物が、混沌を抑え込むように鎮座している。


「始まりの山の子供よ」マレイは疲弊しながら説明した。「部屋へ運びなさい。休息が必要よ」


教会内部の機械技術を目の当たりにし、寄生体は感嘆した。だが、思考の中に別の声が響く。


『……この異常さに気づいているのは、お前だけだと思うなよ』

重厚な男の声。それはウィスタートの内に眠るもう一つの人格、セルケム(Serkerm)だった。


『ようやく起きたか、セルケム』寄生体が応じる。


『眠っていたからといって、聞いていなかったわけではない』セルケムが冷たく返す。『落ち着け。我らが主シエルトに、再び「失敗」を見せるつもりか?』


第四部:灰と紅の悪夢

教会の隙間から冷たく乾いた風が吹き込み、避難した魂たちを包み込む。だがウィスタートに安らぎはなかった。鎖を引きずる音、絶え間ない足音が夢を切り裂く。


「……ねえ……おい……」

歪んだ笑い声、戦角つのぶえの残響。苦痛の叫びと共にウィスタートは目を開けた。


そこは森ではなく、見知らぬ部屋だった。バルコニーには、幽霊のような人影が静かに佇んでいる。


「君は問いを重ねるが、答えを見つけられない者のようだね」

その霊体アルマは地平線を見つめたまま言った。


ウィスタートは血筋特有の冷静さを保ち、問い返した。「僕はレールクンにいるはずだ……。なぜ君がここにいる?」

だが霊体は応えず、教会の外を彷徨う亡霊の行進を見つめている。

「……おい! 礼儀正しく聞いたはずだ。なぜこの魂たちは彷徨っているんだ!」


ウィスタートが激しく立ち上がると、床が振動した。一瞬で世界は灰色に染まり、次いで暴力的な「白と紅」の色に塗り替えられた。バルコニーから見下ろした光景は、論理を絶していた。森は絶叫に満ち、木々や山々には人間の顔が浮かび上がり、苦悶に身をよじらせている。

それは、生身の想像力では耐えられない、純粋な「痛み」の風景だった。


第五部:タイムリミット(時限爆弾)

突如として、現実を揺るがす鈍い衝撃が走った。霊体はウィスタートの目の前で砕け散り、結晶のような記憶の破片を撒き散らした。


「ここには、世界を良くしようとした者たちの記憶が眠っている」


霊体は時間が巻き戻るように再び形を成した。彼はライターを取り出し、緑色の煙を燻らせる。すると、顔だらけの悪夢は消え去り、世界は元の姿に戻った。


「生きた魂に傷を負わせる亡霊とは珍しい」霊体はウィスタートに近づいた。「坊や、君は死んではいない。ただ苦しんだだけだ。その二つは別物だよ」


霊体はウィスタートの周りを回り、彼のエネルギーを分析した。「死せる並行世界へアクセスし、失われたはずの魔法を持っている……。誰かに似ているな」

彼は手を伸ばし、小さな包みを渡した。

「これを受け取れ。明日開けるがいい。君が私に会うのはこれが最後ではないが、この『虚無』をこれまでと同じ目で見られるのはこれが最後だ。『3月16日の行進の輪』からの贈り物だと思ってくれ」


消えゆく前に、霊体はウィスタートの運命を決定づける言葉を残した。


「覚えておけ。生物は力で鍛えられるのではない、武器によって鍛えられるのだ。この世界で生き残るには、君を辱めようとする者を支配しろ。弱者は『瓦礫』ではなく、『時限爆弾』なのだと証明してやれ。そして君が爆発する時、許すべき相手など誰一人残らぬようにするがいい」


「……なあ、坊や」霊体は一瞬、躊躇った。「シエルトが……君に……」


声は途切れ、霊体は光の中に消えた。ウィスタートは教会の静寂の中、運命を変える「贈り物」の重みを感じながら一人取り残された。

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