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34 木の葉亭②



 客の部屋で物色なんて最低の行為だと思うが、ロティは動じない。

 むしろ狙っていたかのように口に指を充てた。



 「ロティ…これを売りに出すなら、その前に売ってはもらえないかい?」

 「それは…」

 「頼むよ。この通り、いくらでも出すから…」



 女将さんは、その場で土下座した。



 「女将さん、秘密にしてくれるなら、融通するよ。」

 「それはもちろん、仕入れ先は話したりしない。」

 「女将さんなら、いくらまで出せる?」

 「それは…先に商品の説明をしてもらえるかい?」

 「それはそうだね。」

 「こっちは米で粥にすると甘くてとろりとして美味しい。塩を少し使うといいかな。」

 「それはいいものだね」

 「こっちは大麦だよ。火が通りやすいように潰されている。見てわかるように籾刷りも終わって、そのまま調理できる。それにこの袋は特別な袋で、開けるまでは湿気らない。その代わり開けたら普通の袋と同じになる。」

 「そんな特別な袋なのかい」

 「そうだよ。普通には仕入れられない物だから…」

 「それほどの高級品なら…米とやら、この1袋で銀貨2枚と小銀貨5枚、麦は1袋で銀貨1枚と小銀貨5枚でどうだろう?」

 


 ロティが、隆二を見たのでつい苦笑いをしてしまった。先ほどのロティよりも高い値付けなのは、そのまま使うからだろう。


 

 「いいよ。いくつずつにする?」

 「湿気らないなら全部欲しいけど、そうはいかないだろうから…」

 「いつもお世話になっている女将さんだからね。米10袋と麦10袋でもいいよ。」

 「本当かい!?」

 「うん」

 「今すぐお代を持ってくるよ」

 


 女将さんは慌てたように部屋を出ていくと、それほどの時間も経たずに金袋を持ってきた。



 「それじゃあ取引を始めよう」



 そこから始まった光景に隆二は驚いた。

銀貨2枚小銀貨5枚で米一袋だ。つまり銀貨25枚か大銀貨2枚と銀貨5枚になる。

 ロティが米1袋出しては女将さんが銀貨2枚と小銀貨5枚を並べるやり取りを始めた。それが10回行われると、次の大麦も同様に行われた。

つまり計算をしないのか?それともできないのか?

 

 口を挟むこともせず、隆二はそのやり取りが終わるのを待った。

 大量の小銭が箱へ入れられていく。



 「ロティさん、ありがとう。恩に着るよ。それで、頼みがあるのだけど…」

 「粥の作り方だよね。もちろん教えるけど、先に運んだ方がよくない?」

 「あっそうだね。ちょいと運んでくる。」

 

 女将さんは、布袋に米を5袋ずつ入れるとそれぞれを肩に担いで降りていった。

 2往復終えた女将さんは息切れをしていたが、顔は真剣だった。隆二は、作り方の説明の説明のために一歩前に出た。



 「粥の作り方は?」


 「女将さん、作り方は難しくない。これはもう籾刷りも終わっているから、水を入れて軽く混ぜて水を捨てる。例えば米カップ1杯で、水10杯くらいにして煮る。沸騰してから15分ほど煮てから蓋をして少し置いておくとちょうどいいけど、時間は難しいから少し食べてみて芯がなければいいと思う。」

 「なるほど、麦よりも簡単にできそうだね。助かるよ。」

 


 女将さんがにっこりと笑うと、部屋を出て行った。

 ロティが今受け取った金を入れた箱を隆二の前に置いた。


 「リュウジさん、これどうぞ。僕は銀貨2枚で売ってもらうから4枚でいい?飼葉はいくらにする?」

 「ロティさん、すごい高値で売ってくれたな。女将さんに高く売れた分はロティさんの儲けでいいよ。米はその値でいいし、飼葉は約束通り代金はいらないよ。」

 「いや、それは悪すぎるから。女将さんに売ったのはそのまま受け取ってください。僕は分けてもらった2袋で商売をしてきます。」

 「わかった。」

 「リュウジさん、また仕入れられると言っていたけど、いつ頃になるのかな?」

 「そうだな…来週に2つくらいなら…」

 「それ、また売ってもらえる?」

 「ああ、構わないよ。それじゃあ俺は部屋に戻る。また明日の朝、案内してもらえるかな?」

 「もちろんです。」

 


 それから隆二とロティは麦わらの穂先をむしり終えるまで町の話を始めた。



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