第十一話 惨の棘
在真シウミを大将とする朝廷軍は、八千の兵で山に進攻した。
私の率いる騎狼隊に与えられた任務は敵の広報にて補給線を脅かすというものであった。
元より化者は持久戦を狙っている。
決して正面からぶつからずに、広大な山の自然に紛れて側面を突く。
この戦法は化者の常套手段であり、翻っていえば、非常に苛つくが虚を突かなければ美貴に抗うことができない証左でもある。
その日は雲が月を覆っていた。
土に匂いに抱かれ、隠れ、擬っと敵影を待つ。
騎白狼の足は全く音を立てずに疾駆する。
化者の総勢は集めに集めて三千ほど。
問題は、その殆どが常日頃は己が食を得るために必死で、兵としての訓練は積めていないことである。
戦を生業としている朝廷軍とは大きな違いだ。
その時、敵の糧食を運ぶ部隊、小荷駄隊を見つけた。
その数は二十ほどの集団である。まともに道が整備されていない山の中にあって、それでも獣道を頼りに歩んでいる。
ざっと見て、全てが醜下であることを確認した。美貴の奴隷のような存在であり、例え襲ったとしても小さな戦果にしかならない相手だ。
だがその分美貴と違い遥かに虚弱な醜下は与しやすく、そして私もテムも、その小さな戦果を積み重ねることの重要性を認識している。
右手の一指し指で部下に目標を指定する。
その瞬間、外から見れば微かに、だが私たちにとっては大きな変化が訪れる。獲物を見つけた狩人が思わず漏らす殺気と同じようなもの。体内の血と血がぶつかり波となり、それを懸命に抑える。
半分が目の前の道を過ぎた時、部下に襲撃の合図を出した。
騎白狼が今度は強く、高く音を鳴らしながら敵に突っ込んでゆく。
敵からすれば雪崩に遭遇した思いであろう。
統制も自制もなく、醜下どもは蜘蛛の子を散らすように逃げてゆくが、逃がさない。
騎白狼は正面の敵の喉を食い破り、跨る銀狼は横の敵を槍でつく。
一息の襲撃の後には、醜下の中に生きているものはいない。
その後にゆっくりと、無防備になった敵の糧食を焼く。
戦争が始まって以来。もう何度もこういった襲撃を繰り返している。
現在地は焼き尽くした銀狼の里の近く。
在真シウミは炭となった里を見ても、予定通りに中継の拠点をそこに置いていた。
「何故、敵はわざわざ廃墟を撤去してまで拠点とするのでしょうか」
朝廷軍が無人の里に襲来したその日、騎狼隊は叢に隠れその様を眼下に見ていたが、副官は思わずといった風にそう口にした。
その答えは分かり切っている。
何故なら、当初から銀狼の里を拠点とすることを、在真シウミが決めていただろうからだ。
至美貴は自身の身に迫る危機のようなよほどのことがない限り、当初の計画を変えることはない。
そして、銀狼が反旗を翻したことも、里が灰となったことも、あの女にとっては大したことではない。
文字通り、己が身さえ無事であれば如何様にも須らくを征する力があるためだ。
有史以来蓄積されてきた至美貴の絶対の自信の前には、私たちも羽虫と同然に見えていることだろう。
――襲撃の後、血と汗に塗れた部下たちを見やる。
「夜は始まったばかり。……まだまだ、いけますね?」
息を切らしながらも精鋭の彼らは剛として応え、次の襲撃の準備を始めた。




