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【完結済】機鋼の御伽噺-月下奇譚-  作者: 彼方
3章 "悪"とは何ぞと問われれば
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3章-人々と争う人々①-


〈ミストルテイン〉は大西洋から地中海を通り抜け、無事に中東へと到着した。


少なくとも海上ではアンノウンに遭遇することもなく平和な旅だったのだが、現在艦内ではけたたましい警報が鳴り響いている。


「警戒レベル下げて十分待たずに緊急発進ってどうなってるんですかねまったく!」

『文句があるならアンノウンに言ってちょうだい』

「ごもっともで!」


アンナと軽口を交わしつつも〈アサルト〉の出撃準備を整える。


『エジプト北部、イスラエルとの国境近辺にアンノウンの反応が多数出現した。現地の部隊もいるが、今回は最も近い位置にいるの我が部隊が対処する』

「俺たち一応はセレモニーの招待客じゃなかったですっけ?」

『セレモニーまでまだ日にちもあるし、それ以前に俺たちは人類軍だ。そこに異論は?』


あっさり切り返されてしまってシオンに反論の余地はない。

軽く異論なしとだけ伝えて出撃準備に戻る。


『数は、小型中型合わせて二〇強。移動速度が少し早い個体のようです』

『……バラバラの方角に散られては面倒だ。機動鎧部隊は直ちに出撃、目標を細くでき次第すぐに攻撃開始だ。本艦の到着を待つ必要はない』


アキトの指示に従い、シオンの駆る〈アサルト〉はすぐさま艦から飛び立った。


「スピード勝負みたいだし飛ばすよ!」


〈アサルト〉を急加速させて一番に目標のほうへと向かう。

単機先行するとハルマなどはよく怒るのだが、今回は作戦として急ぐ必要があるからか特別そういった言葉は飛んで来ない。


〈ミストルテイン〉や他の機動鎧たちを引き離しつつ数分も飛べば、問題のアンノウンたちの気配がセンサーよりも早く感知できた。


「目標捕捉しましたよ!」

『アンタから見てどういう感じ?』

「特別おかしなところはありません。珍しくもない世界でよく見るアンノウンって感じですかね」


姿形はイヌともネコとも言い難い四足歩行の獣のもの。

感じ取れる気配も特別強いわけでも弱いわけでもない、今時どこででも見かけるようなアンノウンたちという印象だ。


『オッケー。それじゃあ〈ミストルテイン〉のいる方向に追い込むように回り込んで攻撃開始して! 仕留めることより、逃がさず一方向に誘導するの優先でよろしく』

「要は牧羊犬やれって話ですね。了解ですワン!」


ふざけまくるシオンの言動に通信越しにミスティがやや騒いでいるのをBGMに一度群れの真上を通過してからUターンして〈ドラゴンブレス〉を適当に乱射する。


アンノウンたちは単純なもので、難なくシオンの意図通りの方角へと逃走を始めてくれた。

どうやら空中の敵を攻撃する術をアンノウンたちは持っていないようで〈アサルト〉に対して何かをしてくる素振りはない。

おかげで特に危険はないが、〈アサルト〉の機動力だとうっかり追い越し兼ねないので、それだけ注意しつつアンノウンたちを追い立てる。


『こちら〈セイバー〉、目標を捕捉しました』

『よろしい。それじゃあ挟み撃ちで一気にたたみかけてちょうだい!』

「オッケーいきますよ!」


ハルマたちの到着に合わせて出された指示に、シオンは〈アサルト〉の高度を一気に地面スレスレの高さまで落とす。

そのまま地面を走るかのようにアンノウンたちの群れへを飛び込んでいく。


『シオン! お前突っ込み過ぎだ!』

「射撃下手くそな俺はこれくらいが一番戦いやすいんだよ!」


数メートルの距離まで接近しての射撃で容赦なくアンノウンの頭部を撃ち抜き、そのまま次の目標を狙って〈ライトシュナイダー〉をすれ違いざまに振り抜く。

射撃武器の意味があるのかという距離感だが、シオンが確実に当てるにはこれくらいがちょうどいいのだ。


そんな〈アサルト〉の背後に迫ってきていたアンノウンを、急降下してきた〈セイバー〉が〈アスカロン〉を振り下ろして見事に両断する。

続けて〈アスカロン〉を横薙ぎに振るってもう一体アンノウンを仕留めた〈セイバー〉と〈アサルト〉は気づけば背中合わせになっていた。


『油断……してたわけじゃないんだよな、どうせ』

「中型アンノウンくらいなら防壁で軽く防げるからね」


背後から迫ってきていたアンノウンの気配はシオンも捉えられていたが、背中から攻撃されたところで〈アサルト〉に届く前に防壁で防げる。

攻撃されなかったこと自体はよいことなのでハルマに感謝だが、攻撃されたところで別になんともなかっただろう。




その後も戦闘は続いたが、十分もかからずに全てのアンノウンを倒し終えた。


シオンの探知でもセンサー類での索敵でも特にアンノウンの気配はない。


「これにて戦闘終了ってことでオッケーですかね?」

『ああ。全機帰艦してくれ』


アキトの指示に軽く息を吐いてコックピット内で肩を回す。

警戒レベルが下がったのでゆったり食堂にでも行こうと思っていた矢先だったことを思い出したのか、腹の虫が小さく音を立てた。


「(ドーナツは在庫切れなわけだけど、何食べよっかな)」


そんなのんきなことを考えていたシオンが〈アサルト〉を〈ミストルテイン〉に向かわせようとしたその時、唐突に警報が鳴り響く。


「……は?」


突然の警報が何を警告しているのかもわからないでシオンが混乱する中、〈アサルト〉の背面に何かが直撃し爆発した。


『イースタル!』

「っ大丈夫です! 当たったけど当たってません!」


焦るアキトに伝えたように、シオンは無事だ。

普段から戦闘中以外でも魔力防壁を展開するようにしているのが功を奏し、何者かの攻撃は一切〈アサルト〉にダメージを与えていない。


「それより、今の攻撃なんなんですか!?」


少なくとも魔力の気配はなかったのでアンノウンのものではない。つまり近代兵器によるものだと考えられる。

しかし、ついこの間正式な契約を結んだばかりだというのに人類軍がシオンにちょっかいを出してくるとは流石に思えない。


そこまで考えを巡らせれば、思い当たる可能性はひとつだけしか残らない。


『〈アサルト〉の後方に旧式の機動鎧を複数確認! ジャミングを使って潜んでいたようです!』

「……で、その正体は?」

テロリスト(・・・・・)だ』


アンノウンという人類すべての敵が現れてもなお、人間同士での争いを止めない者たち。


未だ旧世紀の在り方を残したままの彼らは、旧世紀を駆けた機動鎧と共に姿を現した。


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