3章-人々と争う人々②-
奇襲の失敗で存在がバレてしまったからか、テロリストたちは隠れるのをやめて〈アサルト〉たち目掛けて進軍を開始した。
どれもこれも旧式の機動鎧ばかりなのは遠目に見ても明らかだが、こちらが四機なのに対して敵は機動鎧八機と小型の戦車数台でこちらに迫ってきている。
「教官! これどうします!?」
『あっちは最初っからやる気満々みたいだからね。黙ってやられるわけにはいかないわ!』
「つまり、人間と殺し合えってことですか……」
これまで〈ミストルテイン〉が相手してきたのは全てアンノウン。
テロリストであれなんであれ生きた人間との戦闘というのは初めてということになる。
『ええそうよ。……軍人なんだもの、そういうときもあるわ』
シオンの言葉に対してアンナは冷静だった。言っていることもこれ以上ないほどの正論だ。
『機動鎧部隊、全テロリストたちを迎え撃ちなさい!』
『『『了解!』』』
アンナの指示にシオンを除く三人はためらいなく応じ、それぞれテロリストたちのほうへと向かっていく。
まだ全員シオンと同じで十六歳にもなってはいない。それでも軍人という道を選んだ以上は人を殺す覚悟はできているということなのだろうか。
『シオン、アンタはどうする?』
言外に「人を殺せるか?」と尋ねられているのはわかっている。
その答えは問題なく"イエス"だが、シオンの立場上少々ためらわれる事情がある。
「人類軍としては、俺が敵とはいえ人間殺すのはどうなんです?」
シオンは人類軍や民間人に手を出さないことを契約の中で約束している。
もちろんその約束に人類軍や民間人にとっての敵であるテロリストたちは含まれていないが、それでもテロリストたちは人間だ。
人外の近しい"魔法使い"であるシオンがあっさりと人間を殺すというのは、人類軍から見てどのように映るのか。
上層部に対して殺意をほのめかす形での交渉はしたが、あくまでそれは言葉だけのことで実際にできるかどうかは曖昧なままだった。
しかしここでテロリストたちを普通に殺そうものなら「人間をためらうことなく殺せる」という事実がはっきりとしたものになってしまう。
それで人類軍がシオンへの警戒を強めるようなことがあれば、デメリットしかない。
『"命令に応じてくれるシオン・イースタル"と"人間を殺すのに消極的なシオン・イースタル"のどっちが好ましいか、なんていうのは人類軍内部でも意見が割れるでしょうね』
「教官のオススメは?」
『どっちもどっちよ』
ほぼ考える時間もかけずにこうして答えを返してきたということは、実際にこうなる前からシオンが人間の敵と相対した場合についてアンナは考えていたのだろう。
そのアンナがお手上げと言うのならシオンのほうもどうしようもない。
最早、シオン自身がどちらがいいかというだけの問題になる。
考えあぐねるシオンの尻を叩くかのように、再びけたたましい警報音がコックピットに響く。
「ああもう邪魔!」
センサーの示すミサイルと思しき飛来物を、待ち構えるのではなく意識的に飛ばした魔力防壁で弾き返す。
ミサイルはその場で爆発することなくラケットで打ち返されたかのように放物線を描いて飛んでいく。
その先にはちょうどテロリストの機動鎧の姿があった。
「あ、やべ」
条件反射で放物線を描くミサイルに向かって〈ドラゴンブレス〉を撃ちこむ。
運よく命中したことで爆発したミサイルによって問題の機動鎧はひっくり返ったが、おそらく致命的なダメージはないだろう。
『……助けちゃうのは不味いわよ?』
「……もう、面倒になってきました」
殺すのは不味いが戦わないのも不味い。
となればシオンの取れる行動なんてものはひとつしか残されてはいない。
〈アサルト〉をその場から急加速させ、一気にテロリストとハルマたちが戦う戦場へと殴りこむ。
〈ライトシュナイダー〉も〈ドラゴンブレス〉もあえて手に持たず、ただ〈アサルト〉の周囲に魔力防壁だけ展開しておく。
要するに、体当たりだ。
「殺すとか戦うとか面倒だオラァッ!!」
目の前にいた敵機動鎧を撥ね飛ばして突き進み、そのまま他の機動鎧も続けて弾き飛ばす。
斬撃も射撃もしていないので機体に致命的なダメージを与えることはできないが、機体が勢いよく突き飛ばされた衝撃で敵パイロットがダウンすれば良し。
そうでなくともひっくり返って無防備なところを友軍が仕留めてくれればそれでいい。
正直この場で思い付いただけの行き当たりばったりの戦法だが、シオンの立場を思えばそれくらいが一番ちょうどいいだろう。
戦場を巨大な砲弾のごとく飛び回る〈アサルト〉に恐れをなしたのかテロリストたちの攻撃が集中し始めるが、魔力防壁の前ではなんの意味もなさない。
シオンにばかり目を向けていたせいであっさりとハルマたちの攻撃を受けるか、当たり屋同然の〈アサルト〉に撥ね飛ばされるかで次々とテロリストたちは無力化されていく。
こうして、いっそ哀れなほどの雑な戦法でテロリストたちは敗北を喫することとなるのだった。




