隠れ蓑の王様
「では、もしも【木草の巫女】がいなかった場合、あの里は、我が領土として侵略します。よろしいですね?」
「ああ、どーでもいいよぉ。儂は、面白おかしく暮らせれば、それでええんじゃ。酒に女に飯!それさえあれば、後は、参謀長殿の好きにされればええ」
下着一枚で、全裸の女性を両腕に抱く男。
この情けない感じの男が、帝国【サーベルアダモ】を治める総統閣下だ。
この国の歴代総統は、総じて人間の屑のような男が担当していた。
所詮は参謀長の影武者的な役割に過ぎず、政治や軍事などに一切関わっていない。
全てを取り仕切るのは、参謀長なのである。
何不自由なく暮らせる権利を与えるが、その代わり、何かもめごとがあった場合には、国の為に死んでもらう。
暗殺対象が参謀長へ向かない様に、表立って国を取り仕切っているように見せる。
言わば、立派な影武者だ。
参謀長の代わりに死ぬためだけに生かされている、哀れな使い捨ての道具だ。
現に、帝国【サナルアダモ】で、魔女と呼ばれる少女に総統が殺される事件があったが、あっという間に参謀長が国を立て直した。
その参謀長から、先ほど助けを求める伝達が届いたが、こちらも忙しいのだ。
なんせ、あの聖域をせっかく侵略できるチャンスなのだ。
数年前から、我らの元へ【アダモゼウス】様よりの【啓示】がされなくなっていた。
今まで、毎日の様に受けていた【啓示】がされなくなり、私達は焦った。
それぞれの国で、【アダモゼウス】様が喜ぶような取り組みを考え、実行に移そうと決めたのだ。
私たちの国は、唯一攻めきれなかった聖域【木草の里】を滅ぼすことだ。
あんな邪教徒の里なんて、とっとと滅ぼしてしまいたかったが、【アダモゼウス】様よりの【啓示】を無視する事は出来ない。
そこで、私は待った。
【木草の巫女】がいなくなる瞬間を!!
まぁ、私がやらせたのは、妊娠間近の妊婦を森へ逃がしただけだ。
……本当は、どさくさに紛れて殺せと兵士に命じたのだ。
だが、里で虐げられ、牢に閉じ込められていた【木草の巫女】に徐々に情が移ったらしい。
そして、堕胎をさせるための準備中に、どさくさに紛れて森へ逃がしたようだった。
兵士は、どうせ赤ん坊を産めば死ぬだろうと言っていたが、それでは私の命令に反したことになる。
馬鹿な兵士は、【木草の巫女】の代わりに死ぬことになった。
ああ、そういえばあの兵士にも、妊婦の奥さんがいたなぁ……。
可哀そうだから、後で一緒に始末しておいてあげよう。
それにしても、出産で【木草の巫女】が死んでくれて助かった。
これで、心置きなく【木草の里】を滅ぼせるのだから……。
【サナルアダモ】が攻められていると言っても、所詮相手は少女である。
私達が、【木草の里】を侵略した後に向かっても十分間に合うだろう。
私が、そこまで考えた時、総統の部屋を慌ただしくノックする音が響いた。
「参謀長殿!一大事であります!!」
その声は、私が最も信頼している側近のものだった。
「どうした!総統殿がお休みだ!!その場で、申せ!!」
「はっ!【サナルアダモ】で暴れているのと同じ魔女と思われる人物が、広場にて発見されました!直ちに攻撃を開始しましたが、こちらの被害の方が甚大です!既に、こちらへ向かってきている模様!」
その言葉を聞いて、ひぃっと小さな悲鳴をあげる総統のおっさん。
まったく、ナニがでかい割には、相変わらずの小心者っぷりだ。
「引き続き、攻撃を続けろ!!この総統閣下の屋敷には近づけさせるな!!私もすぐに行く!!」
私は、舌打ちをすると、マントを翻した。
相変わらず、兵隊共は全く役に立たない。
私は、自身と同等の強さを持つ各国の参謀長達を思い浮かべた。
「まったく、彼らとあの方の6人で帝国を築き上げた時代が懐かしい……。私の一番の部下でさえ、武器が無ければ役にも立たんからな……」
私は、両手に皮のグローブをはめると、総統室のドアに手をかけた。
「私が始末してきます。いつものように、総統は、ここで女性と遊んでいれば良いです」
「ううっ、頼んだぞ、幹彦殿!」
「はい」
そう返事をして、私は総統室を出た。
私は、帝国【サーベルアダモ】の参謀長にして、最高権力者【木原 幹彦】!!
連合帝国【アダモグランディス】を造り上げた【不老】の賢者にて、【アダモゼウス】様の【啓示】を受けし一人!!
「どんな障害も全て叩き潰す!!そう、全てはあの方と、【アダモゼウス】様の為に!!」
私は、廊下を駆けると、広場を目指した。
魔女とやらを殺すために……。




