エピローグ
エピローグ
『ニュースの時間です。本日、午後三時ごろ、警察署内のトイレで男性の遺体が発見されました。殺害されたのは、刑事第一課、課長の野々宮茂さん、四十五歳。野々宮さんは、三日前に失踪した県警本部捜査一課、課長補佐の真中優一郎さんと同じ事件を担当しており……』
「エーコ、電話してきたよ」
声をかけられた人形は、リモコンでテレビのスイッチを切った。
「で、どうだった?」
人形の問いに、うなだれた様子で首を振ったのは、男の子だった。
「駄目。たった四日前のことなのに、カッちゃん、覚えてないって嘘つくんだよ。酷いよね。最低だよ、カッちゃん。指切りまでして、約束したのに」
顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべて男の子は人形に愚痴った。
「ね。エーコのいったとおりでしょう? にんげんって、みんなうそつきなのよ」
「うん」
人形の言葉に大きく頷いた男の子は、部屋の窓から外を見下ろした。
「あそこで、カッちゃんと指切りしたのに」
真下に見える公園を指さしながら、男の子は悔しそうに呟いた。
「なつやすみなのに、だれもあそんでいないね。どうして?」
男の子の背中に飛び乗ると、人形はその肩越しに公園を見ながらそうたずねた。
「このマンションの上の階で、三日前に殺人事件があったんだ。久保さんって女の人が殺されたんだって。その犯人がまだ捕まってないから、怖がって誰も遊ばないんだよ」
「ふ~ん」
愛想のない返事をした人形は、するすると男の子の背から降りた。
「それにしても、頭にくるなぁ。カッちゃん」
怒りが治まらない様子の男の子は、シャドーボクシングの真似事をし始めた。
その姿を微笑みながら見つめ、人形は言った。
「そんな“わるいこ”は、……ころされちゃえば、いいのにね」
「本当だよ。久保さんを殺した犯人が、カッちゃんも殺しちゃえばいいんだ」
「いいかも、それ。く、くくく」
口に手を当てて、人形は不気味に笑った。
「カッちゃんだけじゃないよ。澪ちゃんは、僕のことを好きだって言ってながら、次の日には別の子に告白してたし、敦志は、遊ぶ約束してたのに旅行に行っちゃっていないし、彰と聖治は、サッカーしてた時に僕を入れてくれなかったし、千鶴は、バレンタインデーにチョコくれるって言ったのにくれなかったし、恭也は、一緒に行ってた英語塾、勝手にやめちゃったし……」
「みんな“わるいこ”だね。ほかには?」
話に出てきた人間の数を指折り勘定して人形は聞いた。
「あとはねぇ、パパは、休みの日にはどこかへ連れて行くって言いながら、結局、ゴルフの打ちっ放しに行っちゃうし、ママは、成績上がったら欲しい物を買ってくれるって言ってたのに、未だにその様子はないし、吉本先生は、夏休みの宿題はあまり出しませんって言いながら、たっぷり出したし、それに……」
「あ、もういいよ。“じゅうにん”になったから」
話し続ける男の子を、人形は途中で止めた。
「十人って?」
「なんでもない。それより、ひとつおしえてくれない?」
「いいよ、何?」
「カッちゃんは、あなたに“なにをした”の?」
「ゲームのソフト、貸してくれなかったんだよ」
「ぷっ」
人形は、思わず吹き出した。
「笑いごとじゃないよ!」
男の子が膨れっ面になる。
「ごめんなさい」
人形は、ぺこりと頭を下げて謝った。心の中では、「きょうは“おなかいっぱい”になりそう」と、含み笑いを浮かべながら……。
男の子は、きっぱりと言った。
「皆、殺されちゃえばいいんだ」
「だいじょうぶ。くぼますみをころした“はんにん”が、やってくれるよ」
「本当に?」
「ほんとだよ。エーコは、“うそつかない”んだよ」
「じゃあ、指切り」
男の子は、手を差し出した。
「うん。『ゆびきり』しよう」
人形は、このところ急に増え出した仕事に感謝しながら、これまでの『指切り』の中で一番大きな口を開けた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。直井 倖之進です。
今回、こういう形で、小説家になろうさんに『指切り』を置かせていただくにあたって、私も久方ぶりに自分の拙作を読み返しました。
もう8年以上前(正確な執筆時期は覚えていません)の作品なのですが、当時、現職の警察官の方に話を伺いながらこの物語を書き進めていったことを思い出しました。
その警察官の方も現在は退官されており、改めて月日の流れの速さを感じております。
さて、この直井 倖之進、無駄に40年を生きておりますが、小説の全部をネット上に載せるというのは初めてで、「誰からも読まれなかったらどうしよう」と、些かではなくそれなりの心配をしていました。
ところが、いざ掲載してみれば、多くの方々のお目に触れた様子。ほっと胸を撫で下ろしました。
私の書き物は、いわゆる“なろう系”とされる作品とは趣を異にするものばかりです。“なろう系”の作品を肉や魚といった“メインディッシュ”に例えるならば、私の作品は、食事が終わるまで配膳されているのにさえ気づいてもらえないこともある“お新香”です。
そんな“お新香”を見つけ出してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
そして、もしよろしければ、直井 倖之進の“お新香小説”を、これからもよろしくお願いします。
それでは、次作についてです。次作のタイトルは、『ムーン・インパクト ~月が落ちる日~』。ジャンルは、タイトルからも分かるとおり、正確にはSFになるのですが、書いた私が純文学のつもりでいますので純文学です。
自分の作品を「純文学」だと言い切ってしまうのは正直なところ憚りがあるのですが、まぁ、戦後の純文学と呼ばれるものは総じて……。なので、そのジャンルで置かせていただくことにします。
この後書きを投稿後、『ムーン・インパクト』のプロローグも続けて投稿しようと考えております。『指切り』同様、こちらもよろしくお願いいたします。
最後になりますが、拙作『指切り』、完結までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




