61.霞は頭を抱える
暑さでアイデアが浮かばない……
(源徳 霞視点)
〘厄災のアルケニカ〙にログイン制限が敷かれて1週間。
それだけの期間を経て、このゲームを取り巻く状況はどうなったかと言えば……
「ははははは!……吾輩が復帰したというのに、問題が何1つ解決しないとはお笑い草なのだよ!」
……積み上がった問題は、たったの1つも解決していなかったのだよ。
「ああ、ただでさえアレだった霞さんが遂にぶっ壊れてしまった……」
「ハァ……ま、これで3徹目だし仕方ないさ」
「……口を動かすなら同時に手を動かすのだよ!」
「「は、はい!」」
とはいえ、このゲームにおいてすぐにでも解決すべき問題は1つだけ。
それは、ラスボスの座を乗っ取った"電子の歌姫"とやらの危険性を無くす事なのだよ。
『改めて、アレと総合スレで接触出来たのは不幸中の幸いだったヨ。……でも、だからって……』
「ああ、プレイヤー達にこれ以上の不安をもたらすのは悪手なのだよ。……だから最低限、危険性がない事さえ実証出来れば……」
さて、どうするべきか……
ここで言う危険性とは、ゲーム内ではなくリアルにも影響を及ぼすタイプの事を指すのだよ。
それこそ、デスゲームと情報漏洩の2つは代表的な例になるぐらいで……
ただまあ、デスゲームの方はVRゴーグルの安全性が保証されているから心配は要らないのだよ。
……問題は、もう1つの情報漏洩なのだよ。
『ハァ……もしもプレイヤーの情報を漏洩でもされたら、いくら源徳一族でも無事では済まないと思うんだけど……そこんとこどうなのヨ?』
「ん?……いやいや、もしそうなっても流石に源徳一族の上層部は無傷で切り抜けるのだよ。……もっとも、吾輩を始めとした運営チームはほぼ確実に切り捨てられる羽目になるだろうけどね……」
『つまり、ヤバいんかヨ?』
「十中八九ヤバいのだよ」
今の吾輩、対応をミスったら監禁されて一生自由の効かない生活を強いられる可能性すらあるのだよ。
ブルルッ……
なんて、あり得る未来を想像していたら……
『ピポパポ?……当機にプレイヤーの情報を漏洩させる意図はないピポよ?』
……この場に居る最後の重要人物が、吾輩達の会話に割り込んで来たのだよ。
『ハァ~!……その言葉が百歩譲って本当だったとしても、馬鹿正直に信じる阿呆はそうそう居ないヨ』
「吾輩達としては、君がラスボスの座を返してくれれば話が早く終わるんだが……」
『お断りパポ』
「……その答えしか返してくれないのだから、どうにか言い訳を作り出さなければいけないのだよ!」
話の相手は、ラスボスの座を乗っ取った下手人。
……"電子の歌姫"その人?だったのだよ。
『それにしても、スレで出会った当機を敢えて内側に置こうという判断は見事だったピポ』
『こうでもしなきゃ、交渉が拗れるのが目に見えてただけだヨ!』
「……まあ、現在進行形で拗れているがね……」
実のところ、彼女?とはネット掲示板のスレで出会えたのをキッカケにしてここに誘う事は成功していたのだが……
……そこからが問題だったのだよ。
こいつ、薄々分かっていたけど吾輩達へラスボスの座を返すつもりが毛頭なさそうな感じなのだよ。
『霞サン、これ本当にどうするヨ?』
「吾輩としては、路線変更してこいつをラスボスに据えても良いとは思うのだが……コンピューターウイルスと同等の存在を放置するとか、確実にプレイヤー達から安全性を疑問視されるのだよ!」
ぶっちゃけ、吾輩はこっちの路線でも良いとは思っているのだよ。
……けれど、プレイヤーからすれば外部から侵入したコンピューターウイルスでしかない訳で……
あ~もう、ネット掲示板でこの辺りのアレコレ暴露するんじゃなかったのだよ!
『ピポパポ……寧ろ、当機を取り込んで流用したとか言い繕ったらどうパポ?』
「それをプレイヤー達が信じるとでも?……彼等はそこまで馬鹿じゃないのだよ!」
『……でも、信じて貰わないとどうにもならないヨ?』
「そこなのだよ……」
吾輩は、復帰してからこれまで以上に頑張ったと自負しているのだよ。
強制的に"電子の歌姫"を追い出すプログラムを作ろうとしたり、どうにか出て行って貰えないか交渉したり、わざわざラビリーへ外部協力者としての協力を頼み込んだり……
……結果としてプログラムは途中で破綻したし、その後の交渉も決裂。
成功したのはラビリーへの頼み込みだけで、それすらもラビリーが有利な条件を呑まされ……
……もう散々なのだよ!
『おぉ……こればっかりは霞サンに同情するヨ』
「同情するならどうにかしてくれなのだよ!」
『ピポパポ?』
「……今なら、吾輩を集団でリンチした部下達の気持ちが痛い程に分かるのだよ……」
彼・彼女等には本当にごめんと言いたいのだよ。
とか、柄にもない事を心の中で思った直後だった。
ープルルルル♪
「ん?……非通知からの着信なんて珍しいのだよ」
突然、吾輩のスマートウォッチに非通知からの電話がかかって来たのだよ。
『怪しい電話には出ない方が良いヨ』
『当機も同意するピポ』
「ったく、AI共は黙っとけなのだよ!」
ーピッ!
『あ、出やがったヨ』
『どうなっても知らないパポからね?』
ただ非通知の電話に出ただけで、この言われよう……
君達、絶対に覚えておくのだよ?
「はいはい、源徳 霞なのだよ」
『ふぉっふぉっふぉっ♪……霞ちゃん、だいぶ苦労しておる様子じゃのう?』
「ん?……ま、まさかご当主様!?」
『ヨ?』
『パポ?』
ど、どどどどどどうしてご当主様から電話が!?
……こ、ここで対応をミスったら吾輩は死ぬ……
源徳一族のトップたるご当主様を怒らせた者は生きて明日を拝めない……なんて、子供の頃から言われ続けている事なのだよ!
『そうじゃそうじゃ♪……儂は源徳一族の当主、源徳 陽吉じゃよ♪』
「な、何故ご当主様が吾輩へ電話を……まさか、遂に責任問題が……」
『ふぉっふぉっふぉっ♪……霞ちゃん、権力とか興味ない割には責任とか気にするんじゃのう?』
「当たり前なのだよ!……いくら吾輩が権力に興味ないとはいえ、この立場を失ったら2度と〘厄災のアルケニカ〙に関われない事ぐらい分かっているのだよ!」
だからどうか、責任問題だけは辞めて欲しいのだよ!
『うわぁ……霞サンがそこまで必死なの、アテシは初めて見たヨ……』
『つまり、それ程までに今回のトラブルはマズいんピポね?』
『……元凶が何ほざいてるんだヨ……』
『元凶って、当機に情報を漏洩させるつもりはないんだから気にする方が無駄パポよ?』
クソ……
AI共は自分達に関係ない話題だからって好き勝手喋ってるのだよ……
……ラビリー、君だけでもこちら側だと吾輩は嬉しいんだがね?
『ふぉっふぉっふぉっ♪……そっちは賑やかじゃのう♪』
「っ……問題を解決出来ず、申し訳ないのだよ」
『む?……普段からクソゲーや駄目ゲーを作り上げておる霞ちゃんがそれを言うとはのう……それだけ、今回の件が重大だと分かっておるのじゃな?』
……いつも吾輩が手掛けたゲームは何故か不評の中で終わって行く。
それでも、吾輩が責任を取らされた事はないのだよ。
でも、源徳一族秘蔵のオーパーツに侵入を許した今回は流石に厳しいか……
「……で、日々多忙なご当主様がわざわざ直に電話して来るとか、用件は何なのだよ……」
『ふぉっふぉっふぉっ♪……それなんじゃがのう、言い訳はこちらで用意してやるから、〘厄災のアルケニカ〙のログイン制限を解く事を許可してやろうと思ってな?』
「ふへ?…………うぇぇぇぇぇぇぇ!?」
『ほ、本気かヨ!?』
『ピポパ?』
ご、ご当主様直々にログイン制限の解除を要請!?
いったい、何がどうなって……
『いやのう……実は儂も〘厄災のアルケニカ〙をプレイしておるんじゃが、そろそろまたやりたくなったんじゃよ。……ってか、どうせ元凶に情報を漏洩させるつもりがないなら、別に再開させたって構わんじゃろ?』
「りょ、了解したのだよ……」
『か、霞サンが大人しく従うとか、源徳一族の当主は何者だヨ……』
「ふむふむ、興味があるピポね……」
結局、ご当主様による鶴の一声で、1週間も続いたログイン制限は解除される事となったのだよ。
いやしかし、ご当主様までこのゲームをしていたとは……
……やはり、〘厄災のアルケニカ〙は神ゲーという認識で間違いなさそうなのだよ!
ご読了ありがとうございます。
霞は責任とかどうでも良いと思っていますが、自身の箱庭を没収されるとなると本気で悩みます。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




