52.黒佐は削り出す
忘れてる方に言うと、黒佐はグロサリーヌのリアル名です。
(滅本 黒佐視点)
ん、んん……
ああ、ボク様はログアウトしたんだっけ……
「ふぁ~☆……ムラザメ君、リアルの君はいったいどんな人なのかな☆……」
ムラザメ君……
君は自覚してないだろうけど、ボク様をここまで受け入れてくれた男性は君が初めてだ。
……何せ、いつもボク様は珍獣を見る様な目で見られていたからね。
勿論、当時のボク様に心当たりはなかったが……きっと、何かしらの奇行をしていたんだろうね……
「ああムラザメ君、ボク様は君をここまで愛しているというのに☆♥️……今のボク様では、リアルの君に会う事すら出来ない☆♥️……」
この情熱は、何にぶつければ良い?
……否、この情熱で熱い芸術作品を作り上げれば良いだけの話じゃないか☆!
「そうと決まれば早速☆♥️……う~ん、この情熱は油絵にすべきか水彩画にすべきか、はたまた思い切って石像や陶器にすべきか☆♥️……」
ボク様が得意としている芸術は、何も1つだけじゃない。
油絵、水彩画、石像、陶器、現代アート……
何でもござれな天才芸術家こそ、ボク様を言い表すに相応しい言葉だと自負している☆!
……もっとも、肝心の作品は死ぬ程売れていないんだけどね。
やはり、本当はボク様に才能なんてないのか……
「……なんて、最初から諦めモードじゃ出来るものも出来やしない☆♥️!……うん、ここは彫刻でムラザメ君への愛を証明してみせようか☆♥️!」
という訳で自宅の作業部屋へやって来たボク様は、部屋のど真ん中に置いてある大理石に狙いを定めた。
「ハ~ッハッハッハ☆♥️!……いつの世も、芸術とは人が作り出してナンボなのさ☆♥️!」
ーカンッ!カンッ!カンッ!
ボク様は専用のノミとハンマーを持ち、大理石を丁寧に削り始めた。
……科学がいくら発達しようとも、芸術家と呼ばれる人間はずっと手作業で作品を作り上げている。
AIの無機質な絵より、画家の良し悪し様々な感情が込められた絵。
機械がマニュアル通りに出力した石像より、職人がノミとハンマーで削り出した石像。
……いつの世も、優れた芸術家は自分の手で作品を完成させて来た。
かくいうボク様も、自身の作品は全て手作業で作り上げて来た。
……そこまでして完成させた作品が全く売れなくて赤字になっているのは、この際気にしたら負けだと思う事にしている……
と、とにかくだ。
「ハ~ッハッハッハ☆♥️!……ハ~ッハッハッハ☆♥️!」
ーカンッ!カンッ!カンッ!
この石像へ、ボク様が抱えるムラザメ君への想いを込め続けるんだ☆♥️!
……そうすれば、いつかはムラザメ君に出会う機会だって訪れる……
そんな叶わぬ願いを胸に、淡々とノミの柄にハンマーを打ち続けて数分後……
ーピンポ~ン♪
「む☆?」
ボク様の自宅に備え付けられているインターホンが、いきなり鳴った。
「……ボク様を訪ねる客なんて、そうそう居ない筈なんだけどな☆……」
怪しさはあった。
けれど、警戒心より好奇心が勝った。
……そうして、ボク様はインターホン越しに外の様子を見ようとするが、画面に移る人影はない。
「は、ハ~ッハッハッハ☆……お化けなんて居ないに決まっている☆……これは、何かのイタズ」
ーカチャカチャ……カチャッ!
「ひぇっ☆!?……ぴ、ピッキングされた☆!?」
最悪だ。
ピッキングなんて手段に出る辺り、これはお化けなんかより厄介な相手……
現実の、生きてる人間だ……
「ふぅ……ねぇ、誰だい☆?」
ーガチャッ……キィ~……
「ひっ☆……と、扉を開けたね☆!?」
ゲームと違い、リアルのボク様は弱い。
悪漢相手に戦って勝てる程、格闘技術に精通している訳でもない……
……これが推理小説なら、立派な被害者の完成だ。
「だ、誰かね☆!?……ボク様は、武器だって持ってるんだよ☆!?」
今のボク様が持っている武器は、大理石を削る用のノミとハンマー……
確かに武器となり得るけど、素人が闇雲に振るったところで相手に当たるかは運次第だ。
……マズいね、これは……
そう考えた、その直後だった。
「対象、発見、捕獲、開始」
「は☆?」
玄関の方向から現れたのは、黒スーツとサングラスを着用している妙齢の女性だった。
「失礼、自分、源徳、陽炎、貴女、捕獲、命令、遂行」
「げ、源徳だって☆!?……ヤマト国を裏から牛耳っている源徳一族が、ボク様に何の用で☆……」
「用件、不明、自分、命令、遂行」
「ハ~ッハッハッハ☆!……ボク様も狂っている自覚はあるが、ここまでじゃないぞ☆!」
……否、以前のボク様であれば狂気をぶつけ合って楽しんでいただろう。
が、今のボク様は好きな相手が出来てしまった。
現実で、命を捨てる様な真似は出来ない……
「説明、不要、捕獲、開始」
ーフッ……
「なっ☆!?……消え」
「油断大敵、捕獲、執行」
ーガチッ!
「む~☆!?」
っ!?
黒スーツの女が突然消えたかと思ったら、背後に回り込まれて猿轡らしき物を付けられてしまった。
「猿轡、口止め、ロープ、両手、両足」
「んむ☆!?」
次に、両手両足もロープ縛られてしまった。
……ハハハ、どうしてボク様はこの状況で1周回って冷静さを取り戻しているのか……
「アイマスク、視界」
ースッ……
最後に視界まで遮られてしまった……
これから、ボク様はどうなってしまうんだい?
「捕獲、完了、超速、運搬、開始」
「む☆……」
もう暴れても無意味だろう。
……ああ、死ぬ前にリアルでもゲームでも良いからムラザメ君と会いたかった……
「ついで、この家の物全て、運搬、開始」
「「「「「「「はい、陽炎様!」」」」」」」
「んんん☆!?」
なっ……
侵入者は1人だけじゃなかったと……
あ~あ……侵入を許した時点で、とっくにボク様の命運は詰んでたのか……
「では、運搬任務、開始」
こうしてボク様が全てを諦めた横で、ボク様の家にある物全てが運搬され始めた。
「ん~☆……」
「丁寧、梱包、破損、罰則」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
……さてさて、本当にボク様は何処へ運ばれてしまうんだろうかね……
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(俯瞰視点)
グロサリーヌこと黒佐が誘拐されそうになっている、丁度その頃……
「ハァ……1体だけ先走った土骨が、偶然にも囮として機能してるとかとんだ皮肉でありんすね……」
……〘厄災のアルケニカ〙内部にて、とあるモンスターの分霊と言うべき存在がそう呟いた。
「……ウ~ガァァ~……」
「腹減ったアル……」
「ネムイ……」
「ちょっ……火臓も木舌も日皮も、わちきの話を聞いて欲しいでありんす!」
……が、他3体の分霊は聞く耳すら持っていなかった。
「ゾハハハハ!……ってか、どうして月目の姐さんが仕切ってんだ?」
「う、煩いでありんす!……お前こそ、水血の代理だってのに偉そうでありんすな!」
更に1体は欠席し、代理を遣わしていた始末。
当然、月目と呼ばれた分霊は面白くない。
それでも、会議は続く。
「……貴様等、喧嘩は辞めろ……」
ある分霊が、そう言って喧嘩を嗜めたのだ。
「金脳、真面目に話し合ってくれるのはお前だけでありんすよ……」
「ふん、そう言う貴様こそ本当に分かっているのか?……管理者共の目が土骨に向いている今こそ、私達にとって一世一代の勝機だと……」
「勿論でありんすよ。……北の厄災は自身が管理者に作られた事に気付いて驕り、南の厄災は管理者にあっさり恭順、東の厄災に至っては管理者の存在にすら気付いていない……この状況下で管理者共を出し抜けられるのは、わちき達だけでありんす!」
遊女口調の分霊は他の厄災達を非難しつつ、自分達が特別だと声高々に叫んだ。
「左様……私達こそは偉大なる西の厄災、檮杌様に仕える七怨将……管理者共に敵わぬのであれば、上手く利用してやれば良い……」
「ゾハハハハ!……そんで管理者共を出し抜いて"異界の使徒"共にも勝った暁にゃあ、質の良い財宝をたんまり奪いてぇなぁ!」
「ウ~ガァァ~!」
「何か食わせろアル!」
「……zzz……」
「えっと……ほんと、締まらないでありんすな~」
七怨将が管理者なる者達に見つからない様に飛ばした分霊による話し合いは、ぐだぐだのまま幕を閉じた。
……しかし、この話し合いは今起きている土骨の騒動すらただの前座に過ぎない事を意味していた……
ご読了ありがとうございます。
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