44.霞は殴られる
ラビリーの今の立ち位置は、ただのNPCと同じです (※逆に言えば、このゲームにおけるNPCはこのレベルの自由思考が可能です) 。
(ラビリー視点)
次なる大規模イベントに関する発表がされて数分後、渾沌サンの内部にて……
『……さて、吾輩はちゃんとラビリーの企画書を元にイベントを組んだのだが……これでラビリーは満足してくれたかい?』
「う~ん、まあ及第点とは言っとくヨ」
そこでは、通話越しにアテシと霞サンが秘密の話をしてたヨ。
『ハァ……それにしても、まさか窮奇がこんなに早くやられてしまうとは……後の事も考えると、悔しいやら怖いやら……』
「いやこれ、ゲームバランスをちゃんと調整しなかった霞サンの自業自得でしかないヨ。……で、わざわざそれを言いに来ただけじゃないヨね?」
『当然なのだよ。……というのも、吾輩は次のイベントが本当にアレで良いのか気になってだね……』
「アレで良いんだヨ。……少なくとも、霞サンが作るクソゲーよりはマシな筈だヨ」
……アテシと霞サンの会話は、お世辞にも穏やかとは言い難いものだったヨ。
それこそ霞サンは何処か不満げで、アテシも霞サンへ攻撃的な態度を貫いていたのだから……
……この空気感は、もはや2人の間に出来た溝は埋められないものになっている事を意味していたヨ。
『……ふん、後になって吾輩みたく後悔しても知らないのだよ!』
「アテシは絶対に後悔なんてしないヨ。……そんな事よりそっちの調子はどうなんだヨ?……そろそろアルケニカ王国各地に配置された檮杌配下の七怨将に挑めるクエストを順次受注可能状態に移行させる時期の予定だったと記憶してるけど……」
『その辺は色々とあるのだよ。……現状、がしゃどくろと幽霊船は順調に移行中、ドラゴンゾンビと僵尸は最終調整中、レイスとマミーは既に移行完了済み、デュラハンは運営チーム内でアンデット派と妖精派に分かれて論戦してて難航中といった感じでだね……』
「……いくらデュラハンに関して解釈が分かれるとはいっても、そんなんで本当に大丈夫かヨ……」
檮杌配下のオンリーワン・ユニークモンスター7体がアルケニカ王国各地に配置されてて、いつか来る檮杌からの合図を待っている……
どうしてそんな面倒臭い設定を作ったのか知らないけれど、また荒れたって知らないヨ?
『ハァ……ただ、七怨将については最悪後回しにしても何とかなるのが幸いなのだよ……やっぱり問題なのは、窮奇が思ったより早く倒されてしまった事なのだよ!』
「言っとくけど、アテシは手出ししてないヨ?」
『そんなの関係ないのだよ!……ああ、吾輩にとって最高傑作とも言えるモンスターの内の1つだったというのに……よもや、影奇が利敵行為をした挙げ句に[召喚書]を落とすなんて……』
「ふふ、良いザマだヨ」
アテシはもう、運営チームの一員じゃない。
……だからこそ、プレイヤーに迷惑をかけない限りは運営チームの醜態を存分に笑ってやるんだヨ!
『……本当に、ラビリーは吾輩のやり方が嫌になったのだね……でも、運営チームから脱退してラビリーはこれからどうするつもりなのだよ……』
「そんなの、イベント中に語った通り渾沌サンの艦長をやるだけだヨ!」
『……つまり、次のイベントで渾沌と心中するつもりなのかい?……吾輩としては、あまりお薦め出来ないのだよ……』
「ハァ?……アテシは心中なんてしないし、渾沌サンも壊させはしないヨ!」
渾沌サンは壊させない。
……プレイヤー達には悪いけど、それだけは譲れないんだヨ!
『ハァ~……こうしてみると、本来の初期構想からは大きくズレてしまっているのだよ……ラビリーの脱退、早すぎる窮奇の討伐、ラビリーによる渾沌の存続希望……ラビリー関連の2つはともかく、窮奇討伐に関しては明らかに遠因になってそうなプレイヤーが居るのだよ……』
「お~、そいつどうにかするつもりかヨ?」
『現時点での直接的なプレイヤーへの介入は吾輩の主義に反するのだよ!……今は、あくまでも観察に留めておくのだよ……』
う~ん。
観察するとは言ってるけど、いつかストレス発散に八つ当たりしそうな雰囲気があるヨ……
「そうかヨ。……ところで、こんなにベラベラ喋っちゃってるけど、アテシはもう部外者だって忘れてるのかヨ?」
『いいや、そんな訳ないのだよ。……そもそも、これはあくまでもゲーム運営がNPCへ伝言してるだけに過ぎないのだから……』
「……はいはい、分かったヨ」
ったく、どうしてアテシが運営チームから脱退した後も絡んで来るのか……
……とっくに、関係は修復不可能な程に溝が出来てる筈なのに……
『ハァ……何だかんだ、吾輩はラビリーと話してると落ち着くのだよ……』
「チッ……こっちは落ち着くどころか胃が痛くなって来るヨ!」
『……ラビリーに胃なんてない筈なのだよ?』
「アテシにだってバーチャル内臓はあるヨ!」
って、アテシは何言ってるんだヨ!
『ふふふ……ああ、他に遠慮せずこういう話が出来る相手が居ないから、ラビリーに話しかけるしかないのだよ』
「遠慮?……霞サンの辞書に遠慮するなんて言葉はない筈だヨね?」
『……吾輩を何だと思ってるのだよ?』
「普段の自分を思い返してみろヨ!」
『………やる気かい?』
「やるかヨ?」
……この後、アテシと霞サンは激しい口論をしたのだけど……ま、霞サンの名誉のためにもカットするヨ。
けれど、出来ればもう絡んで来ないで欲しいヨ……
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(源徳 霞視点)
「……霞さん、もうラビリーさんに絡むの辞めたらどうです?」
「煩いのだよ!」
……ラビリーと口論をし、その流れで通話を切ってから数分後……
吾輩は部下の……取り敢えずA君から小言を貰っていたのだよ。
「ハァ……んで、結局レイドイベントの後始末はどう片付けます?」
「……もう適当に処理しておくと良いのだよ」
「えぇ……じゃあ、巨骸将軍と海奪将軍のユニーククエスト受注可能状態への移行に関して……」
「適当に処理しておくと良いのだよ」
がしゃどくろと幽霊船についても、そこまで進んだら適当で良いのだよ。
「あ、こちらの腐竜将軍と屍拳将軍の調整について……」
「それも適当で良いのだよ」
「移行完了した夜蝶将軍と乾砂将軍に問題が……」
「適当で良いのだよ」
「そうそう、デュラハンの斬首将軍がアンデットか妖精かって問題はどう……」
「適当で」
あ~もう部下達が色々と聞いて来るけど、全部適当で良い議題なのだよ。
なんて、思っていたら……
「「「「「「「…………………」」」」」」」
「ん?」
……ありゃ?
どうして部下全員が黙り込んでるのだよ?
お~い、A君からQちゃん~?
どうしちゃったのだよ~?
「「「「「「「……おいこら霞さん、いい加減に適当こくの辞めろやごらぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」」
「へ?……いや待てどうして全員で殴りかかって来るのだよぉぉぉぉぉ!?」
ーボコッ!ガコッ!ゴスッ!ガタンッ!
ぶへっ!?
ど、どうして吾輩は殴られて……
「レイドイベントの後始末どうすんだ!」
ードゴッ!
「クエスト受注可能状態への移行で問題が~」
ーバコッ!
「調整で不具合が~」
ーゴスッ!
「移行完了後の問題は~」
ーバタンッ!
「アンデットか妖精かハッキリしろよ!」
ーガンッ!
……あっ……もう……意識が遠のいて……
どうして……吾輩が……こんな目に……
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(俯瞰視点)
その日の夕刊にて、こんな記事が掲載された。
《本日○時、源徳一族屈指のゲーム開発者である源徳 霞が不慮の事故に遭い意識不明の重体……》
それは、霞が事故に遭って意識不明の重体になったという記事。
……事実は部下による反乱だったが、その不都合な真実は源徳一族によって隠蔽されてしまったのだ。
これは、こんな無茶がまかり通ってしまう程に源徳一族がヤマト国において権力を掌握している事を意味していた。
……普通、隠蔽されるにしてもそこじゃなくね?
とか言ってはいけない。
源徳一族の闇は、想像以上に深いのだ……
ご読了ありがとうございます。
源徳一族内における霞の権力闘争的立ち位置は、当人に権力欲がないのも相まって精々が中の下辺りです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




