表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第六章 コウタ、新たな仲間とともに僻地の開拓をはじめる』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/143

第二話 コウタ、作業しながら魔法について学ぶ


「む、そうか。こうしてコウタ殿にアビー殿、ベル殿に出会えたのだ。手間をかけずとも、不要の魔道具や魔法書を売却すれば」



「待て。待てクルト。その話くわしく」


 ダンジョンで入手した魔石や装備を売って、コウタたちは現金と開拓物資を得た。

 現代の魔道具や素材に興味を持ったらしいクルトが呟く。

 アビーが詰め寄る。


「アビー? どうしたの?」


「カァ?」


「『不要の魔道具や魔法書』ってそれ『古代文明の遺産』じゃねえか!」


「あ、そっか。クルトは2000年前から生きてるって」


「わあ! 古代文明の遺産、『アイテムボックス』を見つけた勇者さまはすごく喜んでました!」


「ふむ、いまではそのように扱われているのか。あれほどの魔道具は持っておらぬが——」


「だよなあ。よかった、そんなの売ったら大騒ぎになるところだったぜ。どうしてもってんならワープホール経由で実家に買わせるけどよお」


「——インディジナ魔導国の初級魔法読本ならば売っても問題なかろう」


「大問題だわ! 写本できる分アイテムボックスより大騒ぎになるわ!」


「あ、そうなんだ」


「カァ」


「むっ、当時ではありふれた本であったが……なるほど、ありふれた本ゆえ保存性に難があったかもしれぬ」


「金が必要ならオレが買い取るから! いや待て対価が払えねえ! くっ、こうなったら土下座でもなんでもして実家に泣きついて」


「そんな貴重なものなんだね、これ」


「カアー」


「うーん、僕には読めません! 荷運び人(ポーター)失格ですね!」


「言語が異なれば思考も変化すると聞く。コウタ殿やベル殿さえよければ魔法とあわせて教えて進ぜよう」


「マジかよ、んじゃオレも、よっしゃこれで『古代文字』が読めるようになる、ってそうじゃなくて!」


「【言語理解】があっても中身は読めないなあ。口にしてもらえばわかるかも?」


「カァー?」


「スキルって仮称してるけどその辺の検証はこれから、でもねえし!」


 うがーっと悶えるアビーを前に、コウタは首をかしげる。カークも首をかしげる。角度が揃っている。

 ベルはコウタの手元の古びた本を覗き込んでいる。

 紙が古びているのか、本からはらりとページが一枚抜け落ちて、アビーがダイビングキャッチする。


「実物! 古代文明の初級魔法読本の実物じゃねかぁぁぁあああ! 丁寧に! 全員もっと丁寧に扱え! こんな屋外じゃなくて室内で厳重にぁぁぁあ」


 きゃっちした勢いのまま、うつぶせで地面をずざざっと滑りながらアビーが叫ぶ。

 服が汚れても顔に土がはねても、ページを持った手は掲げたままだ。

 2000年前にはありふれた本であっても、現代では「存在したらしい」と憶測でしか語られない本なので。

 身を投げ出したアビーの活躍により、貴重な本の一(ページ)は守られた。


「よかった……ははっ、ほんと、片道転移に挑戦してよかった……これ見たら帝立魔法研究所のヤツら血涙流してうらやましがるぞ」


 アビーはごろりと仰向けになって、古びた紙を空にかざす。

 頭上では精霊樹がさわさわと葉を鳴らしていた。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ベルが街から帰ってきた翌日。

 小さな湖の横、広場から少し離れた場所で、コウタたちが作業にいそしんでいた。


「コウタさん、運ぶのは僕に任せてください!」


「いやあ、今日は俺もこっちを手伝うよ」


「そうなんですか?」


「うん。魔法の話を聞いてたいしね。……俺はまだできないけど」


「カァー」


 よいしょっと声を出してコウタが()()()()()()を手にする。

 隣のベルと比べたらわずかだが、比較対象が悪い。

 がんばれコウタ、とばかりに鳴くカークは手ぶらだ。持てないので。比較にならない。


「万物は陰陽の性質を併せ持つ。その強弱を見極めることが魔導の深淵への第一歩である」


「なるほどねえ。単純に『土魔法』ってひとくくりにできねえってわけか」


「うむ、土は陰の魔力が強い。一方で、陽光や風は陽である。ゆえに、『土魔法』で地上に影響をもたらす難易度は高いのだ」


「はあ、だから土魔法得意なヤツはだいたい地面からせりあげてんのか。へえ」


「知らず感じ取っているのであろうな」


「あっ。じゃあクルトの研究所が地下にあるのって」


「そうだコウタ殿。魔法のみでは地上への建築は不可能であったろう」


「へー、なるほどねえ」


「コウタさんもアビーさんもすごいねカーク。僕はついていけないや」


「カァ?」


 クルトとアビーが形成した石を運搬しながらベルが漏らす。

 カークは、そうか?とでも言わんばかりにひゅっと首を傾ける。

 魔法が使えないながらも、コウタは話についていけているようだ。


「うっし、コツを掴んだぜ。これならオレにもできそうだ!」


「【魔導の極み】があるゆえに筋がいいのか。それとも、筋がいいゆえに【魔導の極み】と認識されているのか。スキル、か」


「はいっ! 卵が先か鶏が先かってヤツですね!」


「はは、ベルはその表現好きだね。……鶏は普通なのかなあ」


 遠い目をするコウタ。

 なにしろこの世界で目覚めてからというもの、遭遇した動物はやたら好戦的だった。

 一緒にやってきたカークを別にしたら、絶望の鹿(ホープレス・ディア)鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーである。


「地下住居でよければ、異世界の知識の対価に我が建築してもよいのだが……」


「まあ魔法の練習ってことでな! 自分の家を自分で建てるのって憧れるし——」


 そこまで言って、アビーはちらっと精霊樹の根元に目を向ける。

 コウタが自作した犬小屋、もとい、コウタ宅はまだそこにあった。いつ倒壊してもおかしくない様子だが。


「オレを受け入れてくれたお礼にな、コータとカークの家も建ててやりてえんだ。オレの手で」


「アビー……ありがとう」


「カアー!」


「ま、まあほらアレだ! いつか住人が増えた時のためにな! 自分たちでやれりゃそれに越したことはねえからよ!」


 アビーがふいっと視線をそらす。

 頬がわずかに赤くなっている。

 残る三人と一羽は微笑みながら少女——中身は男性——を見守っている。


「ほらほら、ぼーっとしてねえでやるぞ! ガンガン作ってくからガンガン積んでくれ!」


「じゃあ運ぶのはベルにお願いして、俺は積んでいこうかな」


「はい、任せてください!」


「カァー!」


 わかりやすい照れ隠しをからかうことなく、コウタとベルが作業を再開する。

 カークは一つ大きく鳴いて、ばっさばっさと飛んでいった。

 手伝えることはないと判断して、日課の見まわりに出たようだ。賢いカラスである。


 アビーが形成し、ベルが運んできたレンガ状の石をガンガン積んでいこうと、コウタが気合を入れたところで——


「待たれよコウタ殿、ある程度積んだらアビー殿に固着化の術式を指導せねば」


「あっはい、わかりました」


 待ったがかかった。

 この世界の魔法は万能ではないらしい。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてからおよそ三ヶ月。

 ようやく、「まともな住居」の目処が立ったようだ。

 「健康で穏やかな暮らし」への道のりは遠い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] アレ?この村?集落?男しかいなく無い? コウタ(男)、カーク(♂)、アビー(中身が男)、ベル(男)、クルト(男) てかこの作品、女性が出てるのアビーを除くと勇者ハーレム達とアビー家族し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ