第23話
「岩崎さん、生徒会の会長選挙に出馬していただけませんか?」
あの時、いきなりやってきたあいつの言葉に俺は面を食らってしまった。
昔、いろいろなことがあり、岩崎家に対して生徒会の会長選挙に出ないかって言葉はタブーになった。だけど、あいつはタブーを恐れなかった。
周りが喚いていても、気にしない。そればかりか、俺の過去を調べ上げ、言いなりになっている人生は楽しいかって吹っかけてきた。
もっとも、それは表向きの話。
実際は違う。
華族の孫が中学校の生徒会会長になった。そうなった場合、間違いなくマスコミが飛びついてくる。華族の孫が週刊誌の表紙を飾るケースはざらにあるし、俺も陸部に入っているときは取材を受けたこともある。
もし、今のまま生徒会会長になったら、間違いなく舞衣とのやりとりは不祥事になる。
だから、身辺整理をしろ。
ホント、まどろっこしいやり方をするなあいつは。
ここまでだったら、俺は拒否していた。
でも、あいつは沼田家のことを知っていたし、宗秩寮の電話番号も知っている。
何者なんだ・・・。あいつは・・・。
俺に残された選択肢は二つ。一つ目は生徒会会長の選挙に出馬し、舞衣との関係をいったん整理する。メンツは潰れるが、舞衣が俺のことを見ていない以上、この選択肢が無難だと思う。
二つ目は会長選挙への出馬を拒否することだ。目立つことをやるなと言っている親父のことだ。間違いなく介入してくると思うし、会長選挙に出馬し、当選したら四年で卒業はとん挫だ。そうなった場合、俺の人生プランが狂ってしまうが、舞衣との問題が露見したらこのプラン自体が意味をなさなくなってしまう。
当選できるのかどうかに関しては論じることはないだろう。
間違いなく無投票当選だ。
華族の孫が生徒会の会長選挙に出馬をするかもしれない。そんなうわさが流れたら、二の足を踏んでしまうことは見え見え。だから、出るという意思を示せば、間違いなく勝てると思う。そうなったら、俺は生徒会会長だ。
児童会の会長とはわけが違う。
得られるうまみは計り知れないものだ。
しかし、あいつの口車に乗せられるのが癪だ。どうすればいい・・・。
「昼間のことを考えているの?」
舞衣がそう話しかけてきた。俺が何を考えているのかこいつは分かっているんだろうな。ホント、頭が上がらないぜ。
どうせやりたいことをやれって舞衣は言うんだろ。そんなことくらい俺には分かる。
「じゃあ、言わない」
舞衣、もう家に帰れ。
「良いの?」
お前の小言にはうんざりしたんだ。荷物は牧野たちにまとめさせて、送ってやるよ。
「そう。じゃあ、家に帰るね」
舞衣との婚姻の話もいったん見送り。親父には俺から話をしておく。
「・・・良いの?本当に」
勘違いをするなよ。俺は今でも舞衣のことが好きだ。でも、お前は俺のことを好きじゃないんだろ?だったら、振り向かせてやる。首を洗って待っていろよ。
「ホント、口が悪いんだから。じゃあ、私も好きにさせてもらうから」
そう言うと、舞衣は自分の家に帰って行った。
「お帰りなさいませ、お坊ちゃま。市川様とは一緒ではないのですか?」
舞衣は自分の家に戻った。あの話はいったんなかったことにする。
「正哉さまにはその話をされたのでしょうか?」
これからする。
「さようでございますか」
そうだ。牧野、滝村一樹について調べてくれ。
「滝村一樹ですか?」
俺と同じ中学校に通う1年生だ。家族構成、趣味、経歴。交友関係、全部調べて俺のところに報告しろ。良いな。
「分かりました」
そして、館の中に入ると、和美と親父が揉めていた。
ただ今戻ったぞ。
「おお、和哉。良いところにやってきた。お前も和美にも言ってやれ」
何があった。
「また平民の家から食事を誘われたみたい。性懲りもなく」
前までだったら、問答無用で切り捨てていたが、今の俺は違う。
名前は何て言うんだ?
「名前?玲子、滝村玲子ちゃんの家から誘われたんだ」
滝村・・・。あいつと同じ名前だ。これは偶然?
「お好み焼きとかわけのわからない食べ物を食べ、腹を壊したらどうするつもりだ!」
お好み焼き・・・。なんだその料理は。初めて聞くぞ。
「お父さんとお兄ちゃんはどうせ今日も外で食べるんでしょ。だったら、私も玲子ちゃんの家でご飯を食べても問題はないはず」
ダメだ!
「そんなぁ」
俺も一緒に行く。
「・・・おい、和哉。今なんて言った」
俺も一緒に行くって言ったんだ。これならば問題はないだろ。親父も。
「しかしだな」
連れて行くならば和明を連れて行けばいいじゃないか。以上だ。
「和哉、裏切るつもりか!貴様は!」
そうだ。言い忘れたが、舞衣との話はなかったことにする。まだ16歳。慌てることはないだろ。
「なんだと!どういうつもりだ和哉!」
どうもこうもない!あいつの気持ちを尊重しただけだ。
「俺の立場を考えろ!一度、決めた婚姻を破棄することがどういう意味を持つのか分かっているのか!」
悪いな親父。そんな一時のメンツでこの家を潰すわけにはいかないんだ。
「沼田のことで怖気づいたのか?」
明日には監査が入るという話を聞いた。もう、あの家は終わりだ。牧野、車を回しておけ。
「分かりました」
和美、準備ができたら行くぞ。
「本当にいいの?」
親父、行って来るから。
「勝手にしろ!」
そう捨て台詞を言い残すと、親父は自室に向かった。
第23話 終了




