この現状って、おかしくね?
「・・どこだよ? ここ」
気が付いたら、何故か物凄い豪華な、でも趣味の悪い椅子に座ってた。
どう趣味が悪いかってーと、肘掛けの先端の飾りが髑髏なことと、背もたれが肋骨みたいなデザインなトコ。
んで、今、俺がいる場所は、薄暗くてやたらと広い部屋の中。高い位置にある窓から、たまに稲光が入ってきて、〈ゴロゴロ〉っていう音が稲光に少し遅れて響いてくる。
雰囲気、悪過ぎ。なんか、ゲームに出てくる魔王城みたいな感じ。
「いやいや。マジでどこよ? ここ」
再度視線を巡らせて見るけど、当然こんな場所に見覚えなんかある筈がない。
「えっと・・・俺、誘拐された?」
有り得なさそうだけど、他に考えられる原因がないから、そんな可能性を口に出してみる。
いや、でも、有り得ねーって。俺を誘拐してどんなメリットがあんの? しがない派遣社員で、貯金はほとんどないし、実家とは疎遠な独り身なんぞを誘拐しても、身代金すら十分取れねーよ? 俺なら、俺みたいな金のニオイがしねー奴、絶対に誘拐のターゲットにしねーよ。
待て。落ち着け、俺。昨日の記憶を掘り起こしてみろ。そしたら、何かしら思い出す。筈。多分、きっと・・だといいなぁ。
確か、昨日の夜は、仕事帰りに1人居酒屋して、程よく酔っ払ったんだよな。んで、店から出たら、12月のクソ冷たい空気で微妙に酔いが覚めて、帰りの電車に乗る為に駅のホームに向かって、電車の待ち時間がそれなりだったから、ホームのベンチに座って・・・
あれ? そこから記憶がない? え? まさか・・・俺、そこでそのまま爆睡ブッこいた? んで、寝込みを拉致られた?
いや、だから、拉致とか俺みたいなのをターゲットにする理由が分かんねぇっての。
思考の堂々巡りに、若干イライラしてきて、頭を激しく掻く。と、手に何か硬い物が当たった。
なんだ? 何か被せられてんのか?
手に当たった硬い物を、今度は形を確かめるようにして触ってみる。ペタペタサスサスしてたら、なんとなく形が分かってきた。
上に反るような感じで細長い円錐形の物だ。
それが、デコの少し上辺りから直接生えてる。
「・・・いやいやいやいや。直接とか、いつの間にか生えてるとか、有り得ねーって。埋め込まれたとか? もっと有り得んわ」
半ば呆然とした口調の一人言が口から零れてしまった。それと同時に、なんとなく、今の状況が予測できてきた。
これ、まさか、ラノベとかである異世界転生ってヤツじゃね? ってことは、俺、ホームのベンチで爆睡して、凍死した?
ないわぁ。それはマジでないわぁ。
異世界転生って言ったら、雷に打たれるとかダンプカーに轢かれるとか美少女を通り魔的なのから庇って刺されるとか、そういうのがセオリーじゃん? それが、酔っ払ってホームのベンチで爆睡した挙げ句の凍死とか、どんなアホな死因だよ。恥ずかしくて誰にも話せねーだろーが。
首を振りつつ、そんなことを思いつつも、どこかに鏡がないか顔ごと視線を部屋中に巡らせてみるけど、残念ながら、鏡っぽい物が見当たらない。
「いや、別に鏡じゃなくてもいいだろ。落ち着けっての」
自分の混乱っぷりにセリフツッコミを入れながら、広げた自分の掌に視線を落とす。
肌の色。稲光で見えた感じ、少なくとも、平均的に日本人の肌色じゃない。ってか、若干、青みがかかってるように見えたんですが?
指先。ベニヤ板くらいなら、簡単に貫けそうな感じの鋭い爪があった。拳握ったら、自分に刺さるんじゃね? って思った。
けど、あら不思議。爪が伸縮自在。これで刺さる心配ないね! やったぁっ! っつーか、試しにおもいっきり伸ばしてみたら、アッサリ壁に突き刺さったんですけど?
そこから、視線を動かして、手首から腕、肩を見てみる。
太い。ゴツい。二の腕の太さが太腿くらいあるんですけど?
ついでに、視界に入った腹。記憶にある二段腹じゃなくて、6つに割れたステキぼでーになってる。なんとなく気付いてたけど、上半身に何も着てないんですが?
幸い、さらに視線を動かした先の下半身はゆったりとしたズボン、というか、袴みたいなのを履いてた。でも、脚の太さがおかしい。触ってみたら、ぶっとい丸太みたいになってるんですけども!?
たっぷり十数分掛けて、今、確認した自分の体の視覚情報を咀嚼して飲み込む。
どうやら、ここまで記憶にある自分との体と違う以上は認めざるを得ないらしい。
「マジで転生!? しかも、完全に人間じゃありませんね!! 異世界ファンタジーですねぇ!?」
広い部屋の中に、俺の叫びが虚しく響いた。その直後、前方で扉が荒々しく開かれる音がした。
っつーか、この音、蹴破られたって感じじゃね? なんか不穏過ぎる感じなんですけどぉっ!?
「やはり新たに生まれていたか!! 魔王!! 覚悟しろ!! 全人種族の平和と平穏の為、貴様はこの俺! 勇者ラガルが倒す!!」
俺の内心の動揺なんか軽く無視して、ふよふよ浮かぶ光の玉に照らされたイケメンがそんなことを吐かしやがったのだった。
美少女を3人も引き連れて。