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しばらくしてミスコンはもう終わっているだろうからと教室へ戻ることにした。すると教室の前に、ミスコンに呼びに来た女子役員と司会をしていた男子役員がいた。私たちに気づいた2人は手を振りながら近づいてきた。
「あ、良かった。ミスコンの結果なんだけど東雲さんが優勝しちゃってね。それで、これ。打ち上げの時に使ってね。」
そう言って封筒を渡される。どうやら商品券のようだ。
「え、あ、ありがとうございます。」
「…あんな風に抜けるなんて初めてだよー。」
「でも、そのおかげで結構盛り上がったじゃないか!」
2人があの後のことについて話を聞かせてくれる。私の後ろで少し拗ねている奏くんの腕を撫でながら話を聞く。
「かなり盛り上がったから助かったわ!今日連れ去られたことで、狼に攫われた東雲さんを助けたいって人が一部いるみたいよ。」
「そうだね。そんな意見もあったね。まぁ、文化祭を2人でまわって仲の良さを見せつけるといいよ。」
ムッとした奏くんはその言葉に短く答える。
「言われなくてもそうする。」
「あはは!君ほんとに変わったな!前まで王子だなんて言われてたのに。」
大きな声で笑いながら言う様子に奏くんはしらーとしている。2人にお礼を言って見送ったあとそのまま教室へ戻ると、行列ができていてクラスメイトからお祝いの言葉と同時に悲鳴が聞こえる。
「雫!おかえりー!」
茜が私を見つけて手を振る。玲奈と凛もカウンターの奥から顔を出してくれた。
「お疲れさまぁ。すごかったねぇ、優勝なんてぇ。」
「戻ってきたってことは、まだ接客するつもり?」
玲奈と凛が少し驚いたように聞いてくるけれど、私は頷く。
「うん。みんなが頑張ってるのに、私だけ抜けたままなのは申し訳なくて。」
「まぁ、雫らしいよね。」
茜がクスッと笑いながらエプロンを手渡してくれた。私はドレスから制服に着替え、髪を簡単にまとめてカフェの仕事に戻る。
店内は相変わらず賑わっていて、特にミスコンが終わったばかりのせいか、お客さんも増えているようだった。
「東雲さんってミスコン1位の?」
「本当にいた!写真より可愛い…!」
ちらほらとそんな声が聞こえてきて、なんだか少し恥ずかしい。今までは俯いていたけど奏くんのおかげか視線になれてしまった。
「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします。」
お客さんのテーブルを回りながら、いつも通り丁寧に対応していく。店内は賑やかで、何人かのお客さんが私に気づいて声をかけてくる。
「え、雫さん!ミスコンの優勝者だよね?」
「本物だ……!あとで写真いい?」
接客が忙しくてバタバタとして注意散漫になっていたのだろう。足がもつれ転ぶと思った瞬間、手からグラスが取り上げられ後ろから支えが入る。知っている匂いがしてそっと振り返ると、奏くんが険しい顔をしていた。
「…雫?」
怒られると思った瞬間、振り返った私のおでこに奏くんが口付ける。
「心臓が止まるかと思った。無理しちゃだめだよ。」
そう言って私を立たせたあと食器を運んでいく。
その様子に、お客さんたちがまたざわめく。
「えっ、何この雰囲気……!」
「ミスコン1位の彼氏!?リアル王子様なのでは!?」
奏くんをチラッと見ると、彼はいつもと変わらない表情で、静かにお盆を持っている。先程のことでまだ心臓がうるさい。お客さんたちのざわめきがさらに大きくなるのを感じながら、私は少し顔が熱くなるのを抑える。
「雫ー?大丈夫?」
「顔赤いよぉ?」
茜と玲奈がニコニコしながら聞いてくる。
「まぁ、あんなことして平然としてる奏の方がおかしいんだけどねー。」
そう言った光くんの後ろでこっちを見て笑っている奏くんが目に入る。わざとだと思い、顔を押さえてその場にうずくまる。
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その場にうずくまってしまった雫にやりすぎたと思い声をかける。
「雫?大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。」
そばにより隣にしゃがんで目線を合わせる。すると雫は僕の服の襟を掴み引き寄せた。瞬間、僕の頬に軽く唇を寄せた。
「え?」
「仕返し。」
べっと可愛らしい舌を出した雫はそのまま機嫌がよさそうに笑いながら仕事に戻っていった。
「はぁ…、やられた。」
周りは一斉に声を上げ騒いでいる。赤くなったであろう顔を冷やしながら息をつく。
「奏ー?」
「…なに?」
「戻ってこい。仕事だぞー?」
「男の子がぐいぐいなのかと思ったけど、意外とそうじゃないのかも?」
「奏くんは雫ちゃんにはかなわないね。」
周りの声が聞こえる。僕が雫に勝っていたことなんてない。いつだって振り回されているがそれが嫌じゃない。恥ずかしがっている姿も可愛いが、今のように僕への仕返しが成功して楽しそうにしている雫も好きだから困ってしまう。ご機嫌な様子の雫を眺めながら仕事へ戻ることにした。
一旦区切ります。完結まで書いたら投稿を再開します。