【番外編】その四
俺が父さんと暮らし始めてすぐ――
俺は父さんの生活力のなさに愕然とした。
刑事という職に就いている人はこんなものなのだろうか?
食べたものは片づけない、脱いだものはそこらへんに落ちている――
タンスに閉まってあったTシャツでさえ、くしゃくしゃだ。
奥さんを亡くして、無気力だったのかもしれないと最初は思ったが、どうやら元々大雑把なようだ。
ここで比較するのもあれだけれど、青柳さんや溝端刑事はもう少しビシッとしていた気がする。
「父さん、せめて食べたものくらい片づけてくれよ。俺が作ってやってるんだから。」
俺は毎日言っているが、その場しのぎの返事だけで、ろくに聞いてくれない。
まあ、父さんが戻ってきてくれたってだけでいいのだけれど。
「颯介、俺と青柳の話、聞きたいか?」
いつものように俺が料理をしていると、父さんが話しかけてきた。
「青柳さんからたくさん聞いたよ。二人は良いコンビだったんだろ?」
「そうだ。息もあって、一緒に仕事してて、俺は楽しかったんだ。どこから変わってしまったんだか……」
父さんは少し悲しそうに言った。
「何が青柳さんを変えてしまったんだろうって、俺も思ったよ。でも、最初から青柳さんには抑えていた感情が心のどこかにあったのかもしれない。父さんと出会って、その感情に気が付いてしまった……とか?」
俺は、ずっと一人で考えていたことを父さんに打ち明けた。
「……出会いは人生を変えることもある。よく聞く言葉だな。」
父さんはそう言った。
「うん。「言葉」よりも、「出会い」の方が何倍も何百倍も人に影響するんじゃないかな。」
俺もきっとそうなんだと思う。
院長に育てられて、幸人や美紗と一緒に育って、青柳さんに遊んでもらって――
そして、ムタという猫と出会って、父さんと暮らして……今の俺がある。
「そう言えば、ムタはー?」
俺はソファに寝っ転がっている父さんに聞いた。
「カーテンの裏にいるぞ。」
カーテンの裏を覗いてみると、そこには月を見上げるムタが佇んでいた。




