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誰でも良いので状況把握の為の相談がしたかったから、市の警察署に電話してみた。
心絶ちを持っている者ですが、ってちゃんと伝えたが、相手に『何言ってんだこいつ』みたいな反応をされた。
警察の人全員が猟奇事件の真相を知っている訳ではない様だ。
心食みの関係者と話をしたい、先代の人の連絡先を教えてください、と言った所で切られた。
いたずら電話だと思われたか。
使えねぇ。
と思ったが、警察にもどうしようもないから心絶ち所持許可証が有るんだろう。
つづるがをみを斬っても、つづるが罪を問われる事もない。
化け物を殺した時の法律が無いから。
でも、どう考えても殺人だよな。
一応、警察に電話を掛ける前に黒い携帯も使ってみたが、なんとこの携帯、耳に当てる部分が無かった。
液晶画面も無い。
完全に音声を向こうに伝えるだけの物だった。
1時間くらい前にをみと対峙した時は、ボタンひとつで電話が掛けられるなんて便利だなぁとしか思ってなかった。
携帯なんかじっくり見てるヒマなんか無かったし、ヒマでも自分の物じゃない携帯なんか弄らないし。
取り敢えず通話状態にして相談したいと言ってみたが、今の所返事が来る様子は無い。
ちょっとだけ孤独感を感じる。
状況がハッキリと分からず、味方が居ないのが辛い。
気持ちを切り替える為にシャワーを浴びるつづる。
死に直面して変な汗掻いたし。
さっぱりしたら新品の下着を下し、新品の薄い水色のサマードレスを身に纏う。
お嬢様学校に入ったんだから必要でしょ、と母が買ってくれた物だ。
ボーイッシュな自分には似合わないし、実際試着しても似合ってなかったのだけれど、母は強引に買った。
髪を整えて薄く化粧をしたら、つづるでもきっとお嬢様になるわよ、と。
そうだったら良いなと思う自分も、確かに居た。
夏休みはこれを着て、をみとどこかに遊びに行こうと思っていた。
をみはこの格好を見て笑うかな。
似合うとウソを言ってくれるかな。
そんな想像をして、高校最初の夏休みを楽しみにしてたのに。
このドレスを着るのは、これで最後だろう。
自分の部屋に戻ってドアの鍵を閉めたつづるは、心絶ちを持って窓際に立つ。
と、台所から良い匂いが漂って来た。
お母さんが塩サバを焼いてるな。
この事は両親にも相談出来ない。
『をみをこの刀で切らないといけないみたいなんだけど、どうしたら良いかなぁ?』
なんて言えるか。
一応つづるも女の子なので、隣の家から見えない位置に部屋が有る。
だから外に気を使わずに布袋から刀を出し、抜いた。
白刃が宵に煌めく。
「心絶ち。をみは今どこに居る?」
刀を持つ手に微かな悪寒が伝わって来た。
布袋の上から持った時に一切悪寒が無いから分かっていたけど、やっぱり近所には居ない様だ。
「…こっちか」
身体の向きを変えると、悪寒が強くなる。
1番強い方向が分かった。
刀を納め、窓から身を乗り出してをみが居る方を確認する。
もうすぐ夕飯の時間だが、夏なのでまだ明るい。
不意にカナカナが鳴いてびっくりしたが、改めて悪寒に集中した。
山の方か。
駅とは反対側だな。
あの男の子を襲うつもりは、今の所は無いらしい。
普段は山に隠れてるのかな。
悪寒が遠過ぎて正確には分からなくて、かなり遠くのあっちの方ってだけだから、違うかも知れない。
そもそも、お嬢様なをみが山の中で野宿なんてありえない。
しかも、食べているのは人間の心臓…。
気持ち悪い想像を頭を振って消すつづる。
「本当は、今すぐをみを探しに行って、をみを斬って、をみを救ってあげた方が良いんだよね」
鞘に収まった心絶ちから肯定の感じがする。
そうだよな。
今、をみが動いていなくても、日没後くらいに駅前商店街の和菓子屋を目指すかも知れない。
そうしたら、あの男の子は…。
男の子が襲われたら、警察も黙って見過ごす事はしないだろう。
射殺、されるかも。
それはダメだ。
心絶ちで斬った方が良いのは分かってる。
10数年、心食みが復活しないんだから。
でも、決心が付かない。
「私は、一体どうしたら良いんだろう」
答えがひとつしかない疑問を呟く。
溜息が出るほど虚しくなった。
「でも、をみは切れない。切れないよ…」
悩みがループするだけで何も出来ないつづるは、悶々としたままサマードレスを着替え、普通を装って夕飯を食べた。
そして、もしも夜中に抜け出すとしたらどう言う方法で家を出ようかとベッドの中で考えながら寝た。




