おじさん、嵐を越えて
「時空戦艦をいつでも上昇できるようにしておけ。海面に影が見えたら戦艦を上昇。同時に主砲を発射。砲による攻撃を下方向へ転移させる」
「発射のタイミングが鍵になりそうですね」
「ああ、シビアな勝負になりそうだ」
白鯨の一撃は時空戦艦にもダメージを与えられる。できるだけ相手とは距離を取りたいところだ。そのため、相手が接近してくる気配に合わせて上昇し、そのタイミングで可能な限り距離を取る。
あとは、主砲でやつを倒せるかだが……こればかりはやってみないと分からない。だけど、やる価値はあるだろう。これまでも、強敵を倒すのに活躍したのは時空戦艦の主砲だしな。期待してるぞ。
「……ヨータ様、白鯨が来ます!」
「砲の発射を許可する! 撃て!」
海面を映す画面に大きな影が見える。時空戦艦が上昇を開始。同時に戦艦の主砲が発射される。凄まじい光の奔流が前方へ進み、時空の歪みに飲み込まれた。これが当たれば! なんとかなってくれ!
直後、海面から白い巨体が姿を表す。そいつは凄まじい速度で時空戦艦に向かってくる。こちら側の攻撃は間に合うか!? 間に合ってくれ!
時間がゆっくりと流れていくのを感じる。きっと俺は極限まで集中しているのだ。こんなことが渋谷ダンジョンの魔王と戦った時にもあった。画面の中の白鯨は、一つの島が命を得たかのようで、迫力がある。
砲の一撃が——間に合う。画面に光の奔流が映り、白鯨を飲み込む。そこから、体感時間が戻っていく。ほどなくして、海面に落ちていく白鯨が画面に映る。あの一撃で体が残っているのか。ほんと、なんて耐久力だ。恐ろしいよ。
「ヨータ様、白鯨は主砲の一撃を受け頭部を失ったようです」
「つまり倒したってことで良いのかな?」
「失われた頭部が再生したりする様子は見えません。頭部を失ってから、動く様子もありません。倒したと考えて良いかと」
「そうか。倒したか。どうにかなったな」
一安心。そして嬉しい。俺は席から立ち上がり、アイとハイタッチ。それじゃあ、白鯨が海底まで沈まないうちに、急ぐとしようか。
「アイ。倒した白鯨を回収する。鯨の肉はどう食べるのが美味いかな?」
「では、今夜は鯨を使った料理にしましょう。楽しみにしていてください」
「ああ、楽しみにしてるよ」
倒した白鯨を回収し、時空戦艦は嵐の海を進み続ける。やがて、昼も過ぎた頃。黒い壁が見えてきた。第五層へ繋がる壁だ。あの向こうはどうなっているだろう? 綺麗に晴れていると嬉しいのだが。
「ヨータ様、このまま進みますか?」
「ああ、もう嵐の海には飽きてきたところだ。このまま進もう」
黒い壁を抜けた先には、どこまでも広がる美しく穏やかな海があった。おお! 青い! こういう海が見たかったんだよ!
そういえば、メグ師匠たちも、こういう景色を見たがっていたな。連絡しておくか。というわけで、スマホから送信!
「……ヨータ様、第五層の入り口にワープポイントを設定しておきます」
「頼んだよ。さて、この改装ではどんな冒険が待っているかな?」
「冒険の前に休憩はどうですか? 青い海にピッタリなトロピカルジュースを作りますよ」
「そいつは良いね。お願いしようかな」
「ふふっ。では……む……?」
なんて、呑気に話をしている時だった。アイの表情が僅かに険しくなった。その理由は俺にも分かる。ここから、まだだいぶ遠いが、第五層へ次々に気配が入り込んで来ているのが分かる。明らかな異常事態だ。
「……アイ、大量の気配が第五層に入ってきている。第六層に繋がる壁からだろう。なんだと思う?」
「リッチ先生の話していた海賊艦隊ではないでしょうか。この層で、決着をつけに来たのかもしれません。激しい戦いが予想されます」
「おそらくは、そうだろうね。どうしたもんか。一難去ってまた一難だ」
悩んでいると、艦橋へ足音が近付いてくる。興奮した様子がその音だけで伝わってきた。師匠たちだね。早かったな。
「ヨータの兄さん! 嵐を抜けたって!?」
「嵐は抜けたが、たった今問題発生だ」
俺の言葉に師匠が不思議そうな顔をする。その後ろからルリカさんの「どんな問題ですか?」と不安そうな声が届いた。ここは、彼女たちの意見も聞いてみるとしようか。良い意見が聞けるかも。期待したい。
「ああ、実は……」
俺は、第六層から大量の気配がこの層に侵入してきていることを手短に説明した。その気配が海賊の大艦隊だと予想されるとこも含めて。
「海賊の大艦隊……怖いですね」
「それってこの時空戦艦で圧倒できないのか?」
不安そうなルリカさんに対して、メグ師匠は強気の発言だ。確かに、時空戦艦でなぎ払えるなら、それで良いのだが。どうなるかな?
そんな時、さっきから大五層へ侵入してきているのとは異質な気配が感じられた。この気配は……とてつもなく巨大だ。あの白鯨よりもさらにでかい。
そして、先ほどまで晴れていた空に、厚い雲が出てくる。なんだか気分が重くなりそうな雲だ。
「たぶん……魔王がやって来た。海賊艦隊と大魔王。アイも話していたが、敵はここで俺たちを倒すつもりみたいだ」




