ルリカ視点、時空戦艦改造中
ヨータさんは今日、江東区にある造船ドックへ行っているそうだ。なんでも、探索者協会に幽霊船を預け、時空戦艦の改造に必要な資材を受け取るのだとか。これから、海底ダンジョンを攻略するために準備を進めているみたい。たぶん、全ての準備が終わったら、激しい戦いが始まる。そんな気がした。
それはそれとして、私はメグ師匠に美味しいお菓子を出す店はないかと聞いてみた。日頃、お世話になっているヨータさんに、私からお返しはできないかと思っていたからだ。
私はメグ師匠のように、技術を教えたりはできない。ハナヤギ会長のように、色々と便宜を図ったりはできない。私ができるお返しは二人に比べると、小さなものになるけど、それでもお世話になりっぱなしというのは嫌だった。
メグ師匠に教わったお店へ、私は原付を走らせる。教えてもらったのは、道場から少し離れた場所だけど、原付で行けばそこまで遠くはない。メグ師匠はちょっとコンビニに行くくらいの感覚でその店へ走っていくこともあるそうなので、やっぱり凄い。
到着した洋菓子店は、いつも人で賑わっているそうだ。なんとか、買いたかった分のシュークリームを確保できた。一つは店のことを教えてくれたメグ師匠へのお礼。残りはヨータさんとアイさんへの分。
アイさんの身体はロボットらしいが、少しくらいなら食事を取ることも可能らしい。彼女自身はあくまで味見のための最低限の機能だと言っているそうだ。とは、この前ヨータさんに聞いた話。
道場に戻り、シュークリームは師匠の冷蔵庫に入れておいた。一つは師匠に渡す。彼女は「ありがとなっ」と嬉しそうに自分の分を口へ運んだ。こちらこそ、お店を教えてもらったり、色々とありがとうございます。
ほどなくして夕方になり、ヨータさんがやって来た。他の門下生たちと共に師匠から技術を学び、気付けば数時間が経過している。門下生たちは各々帰っていき、いつものように私と師匠、そしてヨータさんがその場に残る。
私はヨータさんに「ちょっと待っていてください」と言って、冷蔵庫からシュークリームの入った箱を持ってきた。ヨータさんは驚いた様子だったが、嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれた。その言葉を聞き、私は心が暖かくなるのを感じる。
師匠から感謝の言葉をもらった時にも嬉しい気持ちになったけど、ヨータさんから言われたそれは、また違うものを私の心に与えてくれた。やはり、私はヨータさんに恋をしている。そう思う。
アイさんは新しい料理に挑戦しているらしく、ヨータさんから、是非来てほしいと誘われた。彼も、アイさんが何を作っているかは知らないそうだが、それはアイさんの自信作だそう。私もアイさんが何を作ったか気になったし「喜んで」と、応えた。
師匠と共にヨータさんの時空戦艦へと移動する。道場の一室からいつでも時空戦艦へ転移できるのは、やっぱり便利だ。あんまり入り浸るのはどうかとも考えるが、ついついヨータさんに甘えてしまう。いや、きっと私は理由をつけてヨータさんと一緒にいたいのだろう。
食堂へ向かう途中、艦橋の外に見えたのは真っ暗な世界だった。現在、時空戦艦を改造中で、その間は時空の狭間で安全に作業を進めているとのこと。着々とダンジョン攻略の準備が進んでいるのが実感できて、私までドキドキしてしまう。
そうして、少し歩き、食堂へ到着した。にこやかなアイさんの横には四角いロボット君が浮いている。アイさんが言うには調理を手伝うためキッチンに常駐している子らしい。名前はアハトアハト君だとか。他の子との見分けはつかないが、可愛いと思う。
ヨータさんがアイさんにシュークリームの箱を渡し「ルリカさんからのお土産」と説明してくれた。アイさんは少しだけ驚いた様子だったが、「ありがたく頂戴いたします」と丁寧に応えてくれた。やはり、ヨータさんからの言葉とは感じ方が違う。
アイさんに促され、席に着く。食卓にはアルミホイルで包まれた何かが並んでいた。ホイル焼きだろうか。蒸気に気を付けるように言われる。私たちが警戒する中、アイさんが包みを開けてくれた。
包みが開かれると、中から宝石が出てきたのかと錯覚した。包みの内にあった魚が光り輝いている。これは、美しい。それだけでなく、香草の混じったような食欲を誘う香りが鼻に届く。思わずツバを飲んだ。
「輝魚のホイル焼きです。視覚的に楽しいでしょう? 味も保証しますよ」
そう言うアイさんからは誇りのようなものが感じられた。同時に、料理を心から楽しんでいるようにも感じられる。きっと彼女は、料理を作り、人に食べてもらうのが何よりも好きなのだろう。
「きょうの料理も美味しそうだ。それと、ルリカさん、師匠。後でリッチ先生に魔法を教わるんだけど、今日も一緒に来る?」
ヨータさんからの誘いに私たちは「もちろん」と答える。魔法を覚えれば、きっと今よりも強くなれる。できることなら、戦闘でも、ヨータさんの助けになりたい。それは、まだまだ先のことかもしれないけど。
そうと決まれば、お腹をいっぱいにしておこう。お腹が減っては勉強にも集中できない。と、いうわけで……いただきます!




