ルリカ視点、ダンジョン管理局にて
今日ワイバーンに襲われ、私はここで死ぬのだと覚悟していた。けれど突然、湖の向こうから放たれた光が魔物を貫き、私は九死に一生を得た。名も知らない誰かには感謝をする他無い。
無事に渋谷のダンジョン監理局へ戻った私は、そこで待っているように伝えられた。テーブルと椅子だけの会議室で待つことしばらく。扉を開けて入ってきた人物たちに私は驚いた。
金髪のロール髪が印象的な少女と、茶髪の短いツインテールの少女。どちらも大物だ。普通ならば私に直接会いに来るような人物ではない。その事実に緊張する。
「ごきげんよう。楽にしてちょうだい」
「……ハナヤギ会長、どうしてここに?」
「ルリカさん。あなたには心当たりがあるのではなくて?」
確かに、心当たりはある。ワイバーンや、謎の探索者について聞きたいのだろう。しかし探索者協会の会長自ら出向いてくるとは。驚きを隠せなかった。
「会長、ほんとにBランクの子なんかをスカウトするのか? あたしたちだけで今回の件は調査を進めた方が良いと思うんだがな」
会長と一緒に入ってきた探索者の女の子が言う。彼女はSランク探索者のメグさんだ。というか、スカウトとはどういうことだろう?
「メグさん、話には順序と言うものがありましてよ。それで、ルリカさん。あなたには今回のワイバーン騒動について、色々話を聞きたいと思っています」
「私で良ければ調査に協力します」
スカウトの件について先に確認したい気持ちもあるが、ここは話の順序というものを守るべきだろう。それから数十分ほど、彼女たちからの聴取に応じた。
私への聴取が終わった時、会長は少し残念そうな顔をしていた。たぶん、新しい情報が出てこなかったのだろう。
「聴取への協力感謝いたします。では、少し話題を変えましょうか。あなたはワイバーンに襲われた時、誰かに助けられた。それは偶然だったかもしれませんが、わたくしは異なる考えです」
「異なる考えと言うと、どういうことでしょうか?」
聞き返す私にハナヤギ会長は「あなたの経歴は調べさせてもらいました」と答える。ワイバーンの事件が起きてから、この短時間でどこまで調べたと言うのだろう?
けれど、ハナヤギ会長なら私の情報を隅々まで調べていても不思議じゃない。彼女にはそんな凄みがあった。油断ならない人物だと思う。
ただ、こうして話をしていて、私にも分かったことがある。謎の人物は既存のSランク探索者の誰かではない。協会がすでに連絡の取れる誰かであれば、探す必要はない。
「ルリカさん。あなたは人気配信者であり、事件当時は第一層で配信活動をしていた。あのワイバーンについては以前から、中層辺りでいくつかの目撃情報はありました。つまり、あの魔物を倒した誰かは、あなたを助けるタイミングで動いた」
「私を助けることが目的でなかったなら、もっと早いタイミングでワイバーンを倒していても良かったはずだと」
「ええ、あくまでわたくしの考えですが、そう思いますわ。そこで、あなたをこの事件の調査隊にスカウトしたいのです」
つまり、私は謎の人物を釣るためのエサということか。私を助けてくれた誰かに、お礼をしたい気持ちはある。件の人物に会い、感謝を伝えられる可能性は、彼女たちに協力をした方が高くなるだろう。ならば……。
「……スカウトについて、詳しい話を聞かせてください」
「そう来なくては。報酬は弾みましてよ」
調査隊へのスカウト契約について、詳しい話を聞いていく。メンバーは私を含めて三人。会長とメグさんが同行し、ダンジョンの内外で謎の人物を追う。平行して、さらにワイバーンの第一層での出現についても調べていく。
「……わたくしたちも、光の帯を発生させた人物については会って感謝を伝えたいと思っていますわ。そのうえで、出来ることならば、その人物の協力を取り付けたいのです」
「……協力ですか」
「ここだけの話ですが、ダンジョンの上の層から、強力な魔物がじわじわと下の層へと降りて来ているのです。それでも、中層辺りまでと考えられていました。が、今回の件で考えを改めなければなりませんね。この動きはより活発になってくると考えられますの」
それは、噂程度には聞いていた話だ。ダンジョンの中層辺りまで、高層の魔物が降りてきている。そんな噂があっても、第一層は安全だろうとなんの保証もないのに信じていた。
今回のワイバーン事件があったからには、その考えを改めなければならないかもしれない。私の配信活動で、今のダンジョンにビギナー探索者を増やすべきではないだろう。初心者向けのものから、ダンジョンの危険を知らせるものに、配信のスタイルを変更するべきか。
「ダンジョンの低層へ降りてくる魔物に対抗するため、わたくしたちは低層に、高ランク探索者を巡回させるつもりです。他にも有力な探索者が居れば積極的にスカウトしたいのです」
「なるほど」
私は謎の人物に感謝の気持ちを伝えたい。会長たちは私をエサに謎の人物を味方につけたい。利害は一致している。しばらくは、彼女たちに協力することになりそうだ。
「改めて、ルリカです。これからよろしくお願いします」




