おじさん、別れの時
さて、料理を作るわけだが何が良いかな? 調味料とかは最低限持ってきてるつもりだし、水とかも艦内に積んである。後はパスタとかね。まあ、パスタはいざという時の非常食なのであまり手はつけたくない。となれば。
「鍋でも作るか」
アイに準備を手伝ってもらい、これまでにダンジョンで集めた食材の鍋を作る。ほんとはポン酢とかで食べたいところだけど、今回ポン酢は持ってきていない。それは今度の機会。楽しみにしておこう。
食卓の上でグツグツと煮込まれる食材たち。それを囲んで俺たちは座っている。ついでに、アイに頼んでおいた、炊き立てのお米も出してもらった。彼女に言えば艦内で調理を進めてくれるので、とても楽だ。
「……あの、本当に良いんですか? ごちそうになって」
申し訳なさそうにルリカさんが聞いてくる。そんな顔をしないでほしい。これは、俺がやりたくてやってることなんだから。
「良いの良いの。皆で食べた方が楽しいんですから」
「そういうことなら……」
ルリカさんたちは納得してくれた。さあ、鍋をつつくぞー!
「これは……マッドクラブですね。私このカニ好きなんです」
「こっちはダンジョン大カエルの肉かー。美味いんだよな。この魔物! マッドクラブと並んで、結構な高級食材なんだぜー」
「シブヤダンジョンタケも入っていますわね。ふふ、美味しいですわ。お米も食べられて、とても良いです」
三者三様の反応を見せながら、ルリカさんたちは美味しそうに鍋を食べてくれた。その反応を見るだけで、なんか嬉しい。
「「「ごちそうさまでした」」」
食事を終え、ルリカさんたちは満足そうにしていた。食器を洗ったりするのを手伝いたいと言われたが、その辺はアイに頼めばすぐに終わる。俺としては、皆と話したり交流できたりすることが何より楽しい。お礼はそれで充分だ。
「しかし、それだとあたしたちの気持ちがおさまらないぜ。ここはなんとしてでも、恩を返させてもらうぞ」
食事を終えて少しして、メグさんは、さっき話していた縮地のコツをレクチャーしてくれた。地を蹴るように進み、一瞬で移動する技。メグさん曰く、覚えるにはなかなか大変な技ではあるそうなのだが。
「えっと……こんな感じかな?」
広い食堂で、何度かあっちへ、こっちへと移動してみた。おお、こんな感じに足を使えば良いのか。縮地、覚えたぞ! めっちゃ楽しい!
メグさんの方を見ると目を丸くして驚いているようだった。あ、これ結構覚えるの大変な技術って話だったもんね。ふふん、だが俺は覚えたからね!
「コツを教えたとはいえ、ものの数分で覚えるのかよ。なんか、自信なくすぜー」
メグさんちょっと落ち込んでいる。ただ、この技を俺がすぐに覚えられたのは、俺の体に施された身体強化のおかげだと思うんだよな。だから俺の才能とかではない……はず。
その後もルリカさんたちとの話を楽しんだりしつつ、時間を潰す。しばらくしてアイから「そろそろ外の様子も落ち着いたようです」と言われ、ちょっと寂しい気持ちになった。楽しい交流も、そろそろ終わりか。
「……それでは、わたくしたちは第五層に戻っても大丈夫そうですわね」
「少なくとも、時空戦艦から転移するところを見られて、説明が面倒になる。というようなことはないでしょう」
会長とアイが話しているところを見ながら、俺はもう少しこの時間が続いてほしいと思っていた。けど、会長たちにはやるべきことがあるだろう。俺はそれを邪魔するべきではない。
それからほどなくして、三人が艦内から離れる時がやって来た。三人を、アイが第五層まで送ってくれるらしい。アイのことは信用してる。ちゃんと外へ送り届けてくれるはずだ。
「それでは、ヨータさん。ごきげんよう」
「ヨータの兄さん、またな。剣のこととかで聞きたいことがあったら、あたしのところを訪ねてくれ」
「ヨータさん、また会いましょう。さようなら」
会長、メグさん、ルリカさんからそれぞれに別れの挨拶をされ、寂しい気持ちが強くなる。けど引き留めたりはしないよ。おじさんだもの。
「ええ、皆さんとまた会いたいです。さようなら」
数秒して、三人の姿が見えなくなった。行っちゃったな。ほんと、楽しい時間だった。
「お三方は無事に第五層へ送り届けました」
「そっか……お疲れ様。アイ」
「……ヨータ様、寂しくとも私がここに居ますよ」
「そうだね。さあ、今日はこのままゆっくりして、明日からダンジョン攻略を再開しよう」
いよいよ、十層までの旅も後半戦だ。しっかり鋭気を養って、明日からの冒険に備えよう。
その後、なんだかんだと、だらだら船長室で過ごしていた。不意にスマホが振動する。見てみると、ルリカさんからのメッセージが届いていた。
『ヨータさん、今日は本当にありがとうございました』
そのメッセージは、俺の心を再び暖かくしてくれた。彼女は俺が冒険を始めるきっかけになった人であり、今も、大切に思っている人。この気持ちは……俺からの一方的なものかもしれないけど、それでも良い。
『こちらこそ、ありがとうございました』
一方的な気持ちだったとしても、俺は俺の中で、それを大事にしたいと思うのだった。




