第26話:隣、空けてないから
放課後の図書室。窓際の席に、アログリフはノートを広げている。
「……むず」
ペン先で軽く机を叩いたところで、隣の椅子が引かれた。
「そこ詰めて」
顔を上げるまでもない声。
「狭くない?」
「いいから」
ミトロンはそのまま当然みたいに隣に座って、肩を軽くぶつける。
「で、どこで詰まってるの」
ノートを覗き込んでくる距離が近い。
「ここ。意味わかんないんだけど」
「それさ、前やったやつじゃん」
「やった記憶はある」
「解けてた記憶は?」
「ない」
ミトロンは小さく笑って、ペンを取る。
「ほら、こここうして」
さらっと書きながら、そのまま解き進める。
アログリフは横から覗き込む。
「……あー、はいはい」
「理解した?」
「した気がする」
「じゃあ次、自分でやって」
ノートを軽く押し返される。
「え、続きやってよ」
「甘えすぎ」
即答。
アログリフはペンを持ったまま、少しだけ考えてから書き始める。
「……これでいい?」
「うん、それで合ってる」
ミトロンは頷いて、そのまま机に肘をつく。
距離はさっきからほぼゼロのまま。
「てかさ」
アログリフが手を止める。
「最初からこっち来ればよかったじゃん」
「来てるじゃん今」
「最初から」
ミトロンは少しだけ考えて、それから肩をすくめる。
「アログリフが詰まるの待ってた」
「は?」
「どうせ詰まるし」
さらっと言う。
アログリフは一瞬だけ黙って、それから軽く笑った。
「性格悪」
「知ってる」
間を置かずに返す。
そのままミトロンはノートを引き寄せて、次の問題を指でなぞる。
「ほら、次」
「はいはい」
また同じ距離で、同じ姿勢で問題を解く。
ページをめくる音が続く。
しばらくして、ミトロンがぽつっと言う。
「終わったらさ」
「なに」
「下の自販機、まだ新作残ってると思う」
アログリフはペンを走らせたまま答える。
「行くに決まってるでしょ」
「だよね」
それだけで会話は終わる。
でも、どっちももう動かない。
ノートを挟んだ距離は近いまま、最後の問題までそのままだった。




