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最強の二人〜彼らの謎多き日常〜  作者: 地野千塩


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オリジナル短編・運命のふたり〜弱者男性ふたり〜

 俺が佐藤豊と同居しているのは、金銭面以外の事情は一つもなかった。


 お互い工場で派遣勤務。夜勤は時給が上がるが、最低賃金に近い時給でヒーヒーいっている。そんな時、親戚から空き家の話を聞いた。立地は田舎だったが、職場まで徒歩八分でつく。ボロい空き家だったが、少し手入れすれば住めない事はない。田舎の庭付き一軒家。まあ、悪いとは言い切れず、この家を譲り受ける事になった。


 その話を同僚の佐藤豊にうっかりしたのが、そもそもの始まりだった。彼は俺より二歳年上だが、がっつりと氷河期世代。色々不運が重なっており、借金と病気もち。なんか、かわいそうになってしまい、格安家賃で彼を住まわせる事を思いついた。俺も小遣い程度の収入が得られるし、掃除をやってくれたらラッキー、ウィンウィンだ。向こうも生活苦に陥っていて利害が一致。こうして一緒に住み始めた。


 豊は本当に趣味のない仙人みたいな男だった。部屋も散らかさず、綺麗に使ってくれる。冷蔵庫のマナーも良く、人のものも勝手に食べない。おとなしい男で助かった。


 一つ悪い点は、豊の容姿……。いや、俺だって悪い方だ。禿げてきてるし、目も細い。ただ、豊はちょいデブで、夏は暑苦しい。決して良い容姿でない豊を毎日見るのは、ね……。


 本音ではピチピチギャルを毎日みたいものだが、もう結婚は諦めていた。豊もそうだ。こんなて低賃金で容姿が悪い男が婚活市場に出たらどうなるかは、すぐに予想がついた。ボコボコに踏み潰されるだろう。


 そんなある日。


 俺は鍋を作って食卓にあげていた。なんだかんだで食事は豊と一緒にとる事が多かった。


 鍋はふたり分作ってしまった方が、電気代や水道代のコスパがいいし。ちなみに鍋に入れた野菜は近所の農家からタダで貰った。厳密にはタダではなく、なんだかんだで農作業を手伝って貰ったものだが。


「鍋できたぞー」

「おぉ」


 豊が2階から降りてきた。顔はニキビがうき、髪はボサボサ、そしてお腹はタヌキのようだった。最近は一周回ってご当地キャラクターのように見えてきた事は、口が避けても言えない。


「今日は鍋かい。ふーん」


 そして何か文句を言いたげだったが、すぐに黙った。豊は何か言いたい事を飲み込む癖があった。若干イライラするが、二人で鍋を食べ始めた。


 農家からもらった白菜、ネギがトロトロに煮込められて美味しい。関東風の濃いめの汁のし、今日は奮発して餅巾着なども入れた。最後にうどんや卵も入れて、弱者男性二人にとって豪勢何か鍋にしようではないか。


 俺らみたいな人間は弱者男性と言われているらしい。最近、ネットで知った。ネットの文字を読んでいると悔しくなってくるが、事実だから仕方ない。


「なあ、誠。近所に中学生にクソガキいるじゃん?」

「ああ、いるな」


 豊のいう中学生はすぐにわかった。確か十四歳ぐらいの女子でカバンにヲタクグッズをじゃらじゃらとつけていた。いわゆる腐女子らしい。


「あいつ、俺の事みてキモいっていってきた。男同士で暮らすのキモいって」

「はあ? 本当にクソガキだな。しばいてやる!」

「まあまあ、誠。落ち着いて。でもさ、イケメン男子が同居すると綺麗なBLになるのは、やるせないよね。イケメンだったらあのクソガキの妄想の養分になったのかね」


 豊はため息をつき、テレビをつけた。ちょうどそこには、LGBTの話題が取り上げられていた。ゲイカップルが結婚式をあげている様子が流れていたが、双方イケメン。片方は元モデルでもう片方は会社経営者だった。見目麗しいゲイカップルで、思わず美しい二人だと洗脳されそうだった。


 ただ、ずっと彼らを凝視し続けるとモヤモヤしてきた。別に俺らは異性愛者でLGBTではないが、もし、そういった状況になったら、マスコミは取材に来るだろうか?


 テレビに映る俺と豊を想像する。あぁ、全く映えない。超キモい……。


 多様性を謳い、あらゆる差別を取り除いても「容姿」「金」の差別は永遠に残る気がした。その証拠にマスコミはイケメンゲイカップルを取材している。俺らのような弱者男性BLも無いだろう。あの世界も美男子が優位だろう。本当に差別を解消したいのなら、貧乏で不細工である事も「多様性」ではないか。しかし、世間はそれを絶対認めやしない。相変わらず「キモい」の一言で断罪される。


「なんか、憂鬱になってきたな……」


 豊は珍しく弱音を吐き、鍋の汁を啜る。


「まあ、しゃーないよ。貧乏人と不細工は死ねっていうのが、この世界の運命だから」


 俺も虚しくなりつつ、汁を啜る。


「じゃあ、俺らも運命共同体だね」

「うーん、俺は豊と運命共同体っていうのは嫌かな」


 うっかり本音が溢れるが、何がおかしいのか豊は大爆笑していた。


 そんな笑い声を聞いていたら、何もかもどうでも良くなってきた。

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