多様性とご近所の謎(8)
風呂に入り、顔にかけられたアイスコーヒーも全て洗い流す。
髪も乾かし、髭みそり、着替えも完了。正直、まだ眠いが、犯人を探す為に豊と動き初めていた。
豊は、相変わらず変なシャツを着ていた。黒字に「point out!」と英語が書いてある。確か「指摘する」って意味だったと思うが、この事件(?)とは関係ないだろう。
「まずは現場を見てみようぜ」
一番の手がかりは、現場だろう。二人で庭をくまなくチェックする。
確かにここは田舎だ。そんな犯罪みたいな事なんて無いと油断し、庭からはリビングや誠の部屋、それにプレハブ小屋も外から丸見えだった事に気づく。
「まさかストーカー?」
豊はプルプルと震える。ああ、これが新垣結衣だったら、守ってやりたくなる。「犯人なんてボコボコにしてやるよ!」と思うが、豊のような男をストーカーするなんてあり得るか? 女やイケメンだったら、アリだが。
もっとも犯罪者の思考なんて想像がつかない。弱者男性マニアの女が犯人の可能性も捨てきれないが。そんな女がいたらかなり特殊だろう。可能性としては低い。
「なんか恨まれたりはしてないか?」
ストーカーはともかく、怨恨の方が可能性がありそうだ。誠は庭にある柿の木などを見ながら呟く。この柿の木に隠れて、家の方を見るのは、可能だろう。問題は、「なぜ」この家を見てたのかという事だ。
「まあ、恨まれてるとしたら、うちの母かなあ。カルト信者やめてって言ったら、逆ギレされてるし」
「まだカルトやめてないのか?」
そこに驚く。
「うん。借金だけ膨れるね」
「もう、絶縁でもしたら良いいよ」
「そうはいかないよ。したら、母は一人になる。カルトといってもそこに行けば友達もいるっぽいし、やめられないんだろうね」
他所の家の事ながら、カルト問題の根の深さに誠は頭が痛くなる。
「あとは、熊木さんとか? 僕が鈍臭いから嫌いなんだろう」
「いや、熊木さんはピンク色に髪の毛染めてる。俺が見たのは、黒髪だ。熊木さんじゃない」
それに、彼女だったら職場で思う存分、豊にパワハラすればいい。わざわざ家まで来て、ストーカーのような事をする理由もない。
「だよなぁ。母も昼間はカルトで布教活動やってるから違うと思う。だとしたら、君か? 君こそ恨まれてる系?」
「そうだな。お前にもレモネードぶっかけられたもんな」
「あー、蒸し返さないでくれ!」
豊は耳を塞ぐ素振りをしながら、地面に視線を落とす。柿の木のそばの地面に、何か落ちていたらしい。
「なんじゃこれは?」
豊が拾ったのは、紙切れだった。何かのメモの一部か。
「『プロットは、いい感じに纏まった。問題はどっちを受けにするか、責めにするか』って書いてあるけど、何コレ?」
優は紙切れを見ながら、首を傾げる。誠も全く意味がわからない。暗号みたいだ。
しかし、メモとはいえ、綺麗な文字だった。お手本をそのままコピーしたかのような美文字。新垣結衣もきっとこんな綺麗な文字を書いている気がする。
うん? 新垣結衣? 美文字?
何かが結ぶつきそうで、そうならない気持ち悪さを感じる。
「これ書いたヤツが犯人だとすると……」
犯人は、けっこうな美女だったりする?
もっとも美女=美文字というのは、偏見だが。
「まあ、ガッキーが犯人だったら、俺は許すよ」
「え? 誠くん、何言ってるのさ? ブスでも美人でも、ダメなもんはダメだよ」
意外にも豊はこの件に怒っているようだった。これ以上、庭を見ても手がかりは掴めそうに無いと結論づけ、近所で話を聞き込みに行く事になった。
以前は、近所に挨拶周りでもビビっていた豊だが、今日はそうでもない。犯人を探すと燃えている。まさか豊も成長してるのか?
案外、人は短期間でも変われるのかも知れない。




