第108話『誤解勘違いすれ違い』
前半楽村視点です。
第108話『誤解勘違いすれ違い』
「うわごめん!今の取れとったのに!」
「つ、強すぎ・・・先輩、すみません立ち上がれません・・・」
「大丈夫?おぶろうか?」
「いやそれは・・・だ、大丈夫ですっ!手だけ、お願いします・・・」
――は?あの1年女子絶対安井に気があるが。
頬を赤く染めて安井の手を借りる芝崎と、爽やかな笑みを浮かべる安井を交互に見て眉間に深いシワが刻まれた。
――ふざけんな。
この状況をほっといてタープテントの下で涼んでいる沖谷にも、他の女子といちゃついとる安井にも苛ついて苛ついてしょうがなかった。
「・・・安井」
自分が発したものだとは思えない程の低い声が出る。俺にボコボコに負かされたにも拘らず、こいつは屈託のない笑みを俺に向けた。
「ラーク強ぇな!もう1回せん?てか俺とラークが組めば東先輩達とええ勝負になるくね」
KGLで呼ばれているあだ名も、安井が発するとマジで不愉快に感じた。
「・・・沖谷がおるのにそんなことしてええん」
「は?沖谷って・・・さっちゃんの方?タニ君の方?」
俺が前者だと言うと、安井はきょとんとした顔で俺を見た。そういえば内緒にしとるっていう体なんじゃったっけ。もうどうでもええわ。
「沖谷と安井って付き合っとんじゃろ?」
「いや違うけど」
「は・・・?でも沖谷がそう言って・・・」
――そういえばあいつ、はっきり恋人だは言ってない・・・?
はたと記憶を振り返り、あいつが明言していないことを思い出す。体内の温度が急激に低下していくのを感じた。
「ガチ?さっちゃんがそんなこと言ったん?ラークの勘違いじゃなくて?」
「・・・っ!」
「ちょっと俺さっちゃんに聞いて・・・ってラーク!?」
その言葉を聞き終える前に走り出す。すぐ後ろに安井の気配を感じたけど、俺は追い抜かされることなくタープテントまで走りきった。
(=^・・^=)
「沖谷!」
「?」
熊本先生が座っていたエアーソファーを占領し、こっそりニャルラに構っていると楽村君が全速力でこちらにやって来た。続いて安井君も荒い息をあげてタープテント下にゴールする。
「ラーク足速えー!」
――なんだなんだ。
「にー」
「・・・話がある。安井も来て」
楽村君は他のメンバーに聞かれたくないのか、私と安井君を人気のないところまで誘導した。
「ラーク、俺とさっちゃんが付き合っとるって勘違いしとったよ」
「えぇ?」
「にー」
――何で!?
安井君の衝撃発言に肩が大きく跳ねる。ってかニャルラ着いてきたんかい。
「俺がそのことについて聞こうとしたら、沖谷が『皆には内緒』とか言うけー・・・」
「・・・」
私は目を閉じて状況を整理する。成程。つまりお互いの解釈が不一致だったということか。
「安井君、後は私が説明するよ。巻き込んでごめん」
「びっくりしたわ。俺とさっちゃんはほんまにそういうんじゃねーから」
安井君は軽く手を振って私に託していった。楽村君の方に向き直り、なるべく丁寧に説明する。彼の表情がみるみるうちに険しいものになっていくのはお約束の流れで。
「紛らわしいわ!」
「す、すみませんでした・・・というかそっちにだって多少の非があると思うんだよね。そもそもどうしてそんな誤解を抱いたの?」
「・・・勘?」
「勘かぁ・・・」
楽村君は一瞬考え、やや納得のいっていない感じで答える。まぁ勘ならしょうがないね。
「やたら距離が近かったり、仲良さげに話したりとか」
「お互い友達相手だったら今みたいな感じで話してると思うけどね。距離が近いのは・・・安村君耳悪いからじゃない?」主にパチンコ店に入り浸っている所為で。
「沖谷とだけハイタッチ2回やっとったし」
弱いなぁ。視野狭すぎじゃない?
「あと・・・何で皆沖谷の方を名前で呼ぶん」
「うーん。成り行きで?別に私は誰にどう呼ばれようと平気だから」
あの人に『お前』呼ばわりされるのが悲しいことは、この際知らないフリをする。
「でもまぁ私も安井君もこういうの慣れっこだから。気にしなくていいよ」
「よく誤解されるんか・・・」
「全く何故人間は男と女が一緒にいるだけで恋仲を疑うのか・・・はっきり言って迷惑だね。面倒臭いし」
――楽村君にしては冷静さを欠いた行いだったな。彼がこの誤解をKGLに広める前に対処できて良かった。
「なら・・・今はフリーってこと?」
頷くと、彼はふーんとまんざらでもない顔をした。ムカつくなコイツ。
「沖谷に彼氏が出来るわけないか」
「いや?いたよ半年の間だけだけど」
「は?」
再び彼が追及する前に、私は『誰にどう呼ばれても平気~』の下りからこちらの様子を伺っている2人に手を振った。
「それって――」
「幸生さーん!もうそろ時間っす」
「はーい。それじゃあ楽村君またね。変に悩ませちゃってごめん」
私は楽村君の横をすり抜けて再度謝罪することにした。今回の件は一応私にも非があるからね。
「元カレの話・・・後で全部聞くけーな」
「えーヤだ」
「あ゙?」
私は首を横に振りながら島永君の元へと駆ける。彼はいつもの真顔とは違う・・・含みのある表情で楽村君を見つめていた。
「また誤解を招く発言をしたんですか」
「そうそう。でもたった今解決したよ」
「解決・・・したようには見えませんけどね。むしろ悪化してるような」
私は大丈夫だ問題ないと言って、私と楽村君が話している現場を目撃していたもう1人――倉嶋さんに会釈をした。ひどく動揺していたように見えたのは気のせいだろうか。
(=^・・^=)
炊事場に大画面のプロジェクタースクリーンが設置されていた。参加者はスクリーンを囲うように座り、プレゼンが始まるのを待っていた。ニャルラも我が物顔で私の膝の上を占領している。手の置き場に困るなぁ。
KGLの3年生はリーダーと副リーダーともう1人、岸野先輩という男性がいる。3番勝負の代表者はななちゃんと岸野先輩だった。
「――森本さん。悪いけど・・・今度はこっちが後輩にカッコつける番ってことで。あんま気に病まんといてな」
「・・・頑張ります」
――ななちゃん・・・。
KGLの方を見ると、まるで2番勝負での私達を思い起こさせるような雰囲気だった。ということはつまり・・・。
「えーそれでは第3勝負『事前課題プレゼンテーション』を開始します。まずはKGLの発表から――」
岸野先輩のスライドはシンプルかつ明るい色味で統一されていた。可愛いイラストを添えることで、寂しさを感じさせないのもポイントが高い。視認性が非常に高いのは勿論、プレゼンもべらぼうに上手かった。何だこの人SIGでいう上延君ポジか。
先輩の発表が終わった後も、衝撃が強すぎて放心状態のままだった。そんな私の耳に島永君の補足が入る。
「調べたんですけど・・・岸野先輩、数々のプレゼン大会で受賞した経験があるみたいです」
「Oh・・・」
何だそれ。完全に2番勝負と立場が逆のパターンじゃないか。
更に聞けば先程の休憩時間、岸野先輩は練習そっちのけでビーチテニスの審判をしていたそうな。まぁ本当にプレゼンが上手い人はリハーサルなんてしないよな・・・。
それでも、ななちゃんは過去一で聞き手に寄り添ったプレゼンを披露してくれた。先輩達と練習した成果もきっと出ていると思う。正直この仕上がりは予想外だった。
「凄い・・・何回かななちゃんの発表聞いたことあるけど、今までのプレゼンで一番良かったよ!」
「ななお!お前やりゃーできんじゃねーか!俺には及ばんけどな!」
「は?タニ君以上の間違いじゃろ。勝負には負けたけど、今回のプレゼンが1番上手にやれたわ」
私達は勝負の結果よりななちゃんの成長を感じたことの方が大きく、KGLの挑発は屁でもなかった。
「――貴重な経験になったな。その感覚を忘れんように」
「はい。藤脇先輩と仲達先輩もありがとーございました」
ななちゃんが竹村先生と先輩方を話しをしている間、私はニャルラを抱きかかえてトイレに行った。ニャルラを手洗いスペースに下ろすと、金色の瞳と目が合った。きっとニャルラは私が何を言おうとしているのかが分かっている。この後すぐに1日目最後の勝負・・・4番勝負が始まる。
「ニャルラは・・・不思議な力を沢山使えるよね。しかもニャルラが見えているのは私だけ」
「にー」
「もし、私が代表者になったら・・・ニャルラの力が借りれそうな勝負内容だったら・・・」
ずっと考えていたことを言うべきか悩む。ニャルラの力はこんな形で使っていいものじゃない。本人ならぬ本猫は割とどうでもいい時にばかりSFパワーを使っているけど。
――勝ちたい。ななちゃんや穂奈美ちゃんみたいに、私が負けても許される勝負に当たるとは限らない。確実な手は、今私の目の前に・・・。
「にー」
「・・・」
私はニャルラから目を背け、唇を噛みしめた。
岸野「森本さんのプレゼン凄い良かったわ。マジで」
ななちゃん「・・・ありがとうございます」(からの言葉は無し)
岸野「・・・そんな緊張せんでも大丈夫やで?」
ななちゃん「・・・はい」
沖谷君「おいさっちゃん!ななおの内弁慶が発動しとるで・・・っていねぇ!使えねーなあいつ!」
島永君「大変だ!今すぐ助け船を出さないと!」(といいつつ何もしない)
ななちゃん「よーし。お前ら後で5分刈りな」




