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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第104話『想定通りは綱渡り』

前半第3者視点です。

第104話『想定通りは綱渡り』


一瞬だけ熊本と幸生の視線がぶつかり、すぐに離れる。


――やっぱり私を疑ってる・・・。牧内さんの時みたく、すぐに名指ししないみたいだけど・・・問題ないね。


幸生は毅然とした態度を崩さずに、味方の発言を待った。


「――そんなの、俺等とやすの仲じゃからに決まっとるが!」


「談合せずとも、安井さんの行動心理なんて手に取るように分かりますよ!」


「これがチームSIGとKGLの絆の差ってや、つ」


「皆・・・!」


「いや、半分が安井君のこと思考が単純って馬鹿にしてるけど大丈夫?」


熊本は安井がSIGの元へと駆けだそうとするのを片手で止める。空気の流れを読んで、無事自分が想定した通りに事が進みそうだと心の中で嗤った。友情パワーや安井の脳筋っぷりを全面に出して、後はパッションで押し切れそうだ。


――さてこの先・・・あと何人私が安井君と談合したってことに気づくかな。全員に知られると私の印象が変わっちゃうから、なるべく避けたいけど。


「後は安井さんが最後の1点を取って終わりですね」


「試合は勝って予想も全問正解・・・完勝確定とかマジ美味ぇわ」


「おまけにKGLの間抜け面も拝めましたしね。ざまぁ」


「さっちゃんの考えでいって良かったわ。やっぱ推理担当は違うな」


「恐縮です・・・」


幸生は苦笑いで流し、8番勝負が始まる前のやり取りを振り返る。彼女は今回のサマトレでKGL側が『悪知恵』要素を追加したのを責める気は毛頭なかった。


――ずる賢さは、何もKGLの専売特許じゃないからね。


何故なら――幸生を含めたSIGも、隙あらば己の機転でKGLを出し抜こうとする気満々だったからである。


(=^・・^=)

「――賭け?」


私の発言に、安井君は不思議そうな顔をした。このタイミングで島永君は穂奈美に呼び出されて席を外してしまう。ここからの会話は、私と安井君だけが知る内容であり、ただの雑談になるか、2番勝負に大きく関わってくるものになるかは――五分五分といったところだ。


「もし8番勝負の中にさっき言ってた・・・得点を予想するやつのビーチバレー版があったら、安井君が出て4()()()()()()()()()。ビーチテニスだったら・・・飲み物奢るよ。コーラでもエナジードリンクでもなんでも」


「一升瓶でも?」


「おい・・・けどまぁ、私が勝った時の対価を考えれば妥当か。いいよ。銘酒プレゼントする」


安井君はよっしゃと軽くガッツポーズした。もう私に酒を奢ってもらうことは彼の中で確定事項のようだ。当然『4点目』というワードに疑問を持った彼に、私は微笑を浮かべる。


「その方が確実だから。あとこの賭けは誰にも言わないでね」


「道具置いてあるしテニスじゃと思うけどな。でも4点目だけじゃなくて、例えば1点目とマッチポイントの時わざと落とすとかの方が確実じゃねぇん」


「1点だけでいいんだよ。何回もやると向こうに怪しまれるかもしれないし」


そう。別に大差をつける必要はない。1点差でも勝ちは勝ちだ。勿論、この考えは全て無駄になる可能性は十分にある。しかもビーチテニスだった場合、プレーするのは多分私だと思う。そっちの心配をした方がいいと言う安井君に、私はこれ以上この話を続けるのを止めた。


――もしもバレーだったら、約束された1点を勝ちの1点にするために私がしなければならないことは・・・。


私は2番勝負が始まるまで、ぼんやりとイメージを構築していった。そして読み通り、安井君はボールを持ってコートに立たされることになる。


「よろしくね。安井君」


「まさか本当にこうなるとは・・・」


私は考えていたことを実行に移すことにした。まず、試合開始前に安井君の実力を相手チームに見せる。そこで全員が『バレーで安井君が失点することはほぼなさそう』という共通認識を植えつけさせた。KGLの中に経験者がいなかったのは僥倖である。


――それでも確実じゃない。人は必ずミスを犯すし、気の持ちようで答えは簡単に変わる。


「俺等はやすを信じて、全部得点するに入れよう」


――こっちは大丈夫そうだな。後は4点目の予想の時、それとなく発言すれば・・・。


理想の流れは『SIGもKGLも安井君の完封勝利を予想する』という考えに持っていくことだ。1点目でも2点目でも3点目でも失点すればその流れは乱れる。マッチポイントだと、予想する側に『これ落としたら終わりだし、追い詰められて逆に点取るかも』という可能性が芽生えるかもしれないので避けた。以上のことから、私は4点目に決め打ちした。約束された答えを勝利への1点にするために。


――KGLのリーダーは見た感じ人情に流されるような人じゃないっぽいけど・・・どうかな。まぁ、勝手に自滅してくれたらそれはそれでいいんだけど。


冠頭大学は佐古学園大学より遥かに高い偏差値を誇っている。つまり、KGLの人達は私達より知能が高いと見ていいだろう。そんな彼らを束ねるリーダーが『金子ならやれる!』といった希望論に縋るとは考えにくかった。


――もし4点目までの予想がKGLを上回っていた場合・・・は、約束された1点がただの1点になっちゃうから、その時は正直に「すみません安井君にこっそり命令して4点目を落とすようにしちゃいました」って言おう。


談合のことをメンバー全員が知る必要はない。汚れるのは私だけでいいんだ。皆にはできるだけ――自分達はフェアプレーで勝利したと思っていて欲しいから。


そして安井君は私の期待通りに動いてくれた。ビーチバレーと普通のバレーは大きく違う。しかも1対1という異常な状況下で3対0という結果に持ってこれたのは本当に凄い。


「――藤脇先輩。このポイント、安井君は落とすと思います」


「何で?」


「安井君は優しいし、バレーが凄く好きなんです。ほら見てください。対戦相手の顔、重圧に心が押し潰されちゃって戦意喪失してるじゃないですか」


「あー確かに」「目が死んどるな」


皆は私が手で指した方を見て、納得したように頷く。もう一押しだ。


「多分、このあたりで安井君は気を遣って相手に点をあげると思うんです。それにここまでの予想、KGLと一致してるじゃないですか。このままだと同点引き分けっていうシャバい結果になっちゃいますよ」


「・・・普通に外れて俺等が負けるっていうリスクもあるが」


沖谷君の意見は最もである。そして私は知っている。いつでも誰にでも優しい安井君でも、勝負事に関しては絶対に手を抜かないということを。もしこの場に吉室君がいれば私の考えは一蹴されていただろう。それでも・・・。


「私の勘を信じてくれませんか。データ上、安井君が失点する確率は今一番高いんです!お願いします。折角なら完勝したいじゃないですか」


「いやデータて」「うーんでもなぁ・・・」「苦しい賭けじゃな」


「俺は幸生さんの勘、信じてもいいと思います」


「私も。多分この中で一番安井先輩のこと詳しいのは幸生先輩ですし」


「2人共・・・ありがとう!」


皆が揺れている中、ここで島永君と穂奈美ちゃんが私の側についてくれた。なんてデキる後輩なんだろう。


「珍しいですね。イエスマンの幸生さんが自ら発言するなんて」


「それな。まさかさっちゃん・・・何か企んどる?」


「いえ。ただ頃合いかなって思っただけです。それに2番勝負が始まってから私、ずっとななちゃんと穂奈美ちゃんの近くにいたんですよ?こっそり安井君に吹き込めるワケないじゃないですか」


沖谷君の疑念を涼しい顔で受け流す。敬語で話したのは先輩に向けて言ったからだ。そして予想ゲームの勝敗が2番勝負に直接影響がないというのも後押しされ、チームSIGの4ポイント目の予想は――


「・・・よし。ここはさっちゃんに賭けてみるか!」


――無事、『失点』に転がってくれた。私は笑顔を作り、胸に拳を当てる。


「ありがとうございます。後悔はさせませんから」


――何人かに薄々感づかれたっぽいけど、まぁいいか。


(=^・・^=)

「わざと失点したのは認めます。ただ流れを変えたくてやりました」


安井君は素直に認め、先生と私達とKGLに謝罪する。私は罪悪感からか、胸に締めつけられたような痛みを感じた。


――ごめん安井君・・・それ命令したの私なのに。


「金子君・・・ごめん。俺がやったことは、スポーツマンシップに反した行為じゃった」


「いやいやいや!安井君はマジで悪くない!ただちょっと・・・野次に心が折れただけで」


金子君は首を高速で左右に振り、俺こそごめんと言って謝っている。KGLを見ると、皆が眉を下げて申し訳なさそうな顔をしていた。


「さっきのレシーブ、マジナイスじゃったわ。次は返させんからな」


「いやもっと手加減頼むわ。もうヘトヘトよ」


「うぅ・・・青春だねぇ」


「バレーで繋がる友情・・・素晴らしい!」


先生達は勝手に涙ぐんで2人に拍手を送っていた。早く5ポイント目始めてくんないかな・・・。

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