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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第97話『沖谷幸生の近況報告会』

第97話『沖谷幸生の近況報告会』


「そいえば、3日がシーバーの誕生日でさ。その日に間に合うようプレゼントを配送してもらったんだけど、不在続きで1週間後ようやく受け取れたんだよね」


「良かったが。去年は保管期限過ぎて返送されたんじゃっけ」


はるまの言う通り、去年シーバーは私が送ったプレゼントを返送するという大罪を犯した。ポストの確認を怠っていたため、私が連絡を入れた頃には大量の不在票が詰まっていたらしい。


「勤務時間帯が夜なのと、シーバーが出勤時間ギリギリまで寝てるのがなぁ・・・配達員泣かせだ」


「全部の荷物が置き配に出来ればええのにな。難しいじゃろうけど」


はるまは大きく伸びをして、近くにあったスミックマのぬいぐるみの匂いを嗅ぐ。スミックマが臭いハズがない。あの子のスメルはいつでもフローラルだ。でもちょっと止めて欲しい。やっぱホラ・・・あれじゃんか!


「――届いたその日にシーバーから電話が来て。なんかめっちゃ怒ってたんだよね」


スミックマを救出しようとするも、はるまに全力で阻止された。彼女は私が蔑みの眼差しを向けても匂いを嗅ぐのを止めようとしない。なんて執念だ。クセになってるじゃないか。


「またシーバーさんキレさせたんか。しょっちゅうじゃが」


「いやー特に悪い事してないつもりだったんだけどな・・・」


私は諦めて座り直し、彼女にざっくりと話し始めた。


(=^・・^=)

深山家を後にしてすぐかかってきた電話はシーバーからだった。篠木からのRICHを返した後すぐに着信が来たのもあり、私は少々驚いて通話のボタンをタップする。


「はい」


「・・・フッ。あ、お疲れー」


「毎回通話の冒頭で失笑するの何?」


「や、何か笑えてきて・・・あ、プレゼント!今受け取った!」


――今て。まぁ6日遅れはまだマシな方か・・・。


「無事手元に届いて良かったよ・・・」


歩きながらそっと胸をなでおろす。もうあんな思いはしたくない。私の心情を察知したのか、シーバーが笑いながら謝罪してきた。頼むから毎日郵便物の確認くらいやってくれ。


「あの時はマジでごめん。それでよ。届いたんじゃけどさ・・・重くね?」


「重いよ。持っていくの大変だった」


「品名の蘭に『食料品』って書いてあるんじゃけど」


 大丈夫か?と疑うシーバーに、笑いを含んだ声でフォローを入れる。


「まぁ開けてみなって。ちゃんと常温保存のやつだから」


シーバーが開封作業に入ったところで駅に到着した。ニャルラに誘導され近くにあった木陰のベンチに座ると、段ボールを開いたシーバーが驚きの声を上げた。


「うわ。え・・・米?米・・・米じゃん!」


そう。今年私が彼女に贈ったプレゼントは、誕生日に会わせてお米8.3キロ分と手紙だった。


「うん。シーバー米派でしょ。パン屋勤務なのに」


「まさか全部米!?こめっ・・・米!?」


米米うるせーな。


「色んな種類の銘米を入れときました。おすすめとか、味の違いは私にはよく分からないけど」


「ありがとう!普通に嬉しいわ。えー今日早速炊こうかな」


素直に喜んでくれて何よりだ。私も少しだけ嬉しい気持ちになる。


「誕生日おめでとう」


「6日遅れじゃけどな」


――頑張ろ。私は口下手なんだから。せめて物を通じて感謝の気持ちを伝えられるように・・・。


「米だけじゃ味気ないかなと思って、おかずも添えといた」


「おかず?あー!だから便箋がウインナー柄?お前wwま、私は白米オンリーでもいけるけどな!」


知ってる。おかずなしでご飯食べられるなんて本当に凄い。そこだけは尊敬している。


「へー手紙・・・『親愛なるマイバットフレンドへ』」


「朗読すな」


「『シーバーがこの手紙を読んでいる頃、私は神京にいるでしょう・・・』は!?さっちゃん今神京おるん!?」


「さぁー。どうでしょう?」


「ちょっと待って私明日から6連き・・・」


――ブツッ。


「よし。電車乗るか」


「に・・・」(半目)


シーバーと話すことで、私は清々しい気持ちで電車に乗ることができた。


(=^・・^=)

「きっちりやり返しとるが」


シーバーさん可哀想。と、はるまは持参してきたプリンを食べる。私の時は全然同情してくれなかったのに。


「プリン美味しいよ。ありがとう」


「どういたしまして。黒豆乳味が売っとったから。これしかないじゃろ!って思ったんよね」


はるまの手土産であるプリンも大変美味だった。私の好みを熟知しているところは偶に恐ろしく感じることがあるけど。


「一口入る?」


「いらん」


即答された。何でだ。


「さっちんが髪切ったこと、篠木さん何か言っとった?」


「・・・」


黙りこくっていると、太ももに裸足が乗っけられた。はるまは目を輝かせて私の話を待っている。


――これくらいは、正直に話した方が良いか・・・。


私は重い溜息を吐いて、軽く話すことにした。


(=^・・^=)

髪型を変えて初めてバイト先に行った日。川田さん始め藤岡さんや他のベテランパートさん達にもみくちゃにされた。いつもの2倍疲れた私は、死んだ顔でエレベーターを待つ。この流れは想定内だった。前コンタクトを付けた状態で出勤した時も滅茶苦茶話題の餌食にされたから。


――まぁ、皆のこの反応も1回きりだからいいか。


よろよろとリュックをカゴの中に入れ、ビルの外に出るまで自転車を押して歩く。精神が疲れすぎて、すぐ運転する気にはなれなかった。


「幸生」


「?」


名前を呼ぶ声がしたので振り向くと、紙袋を持った篠木が呆けた表情で立っていた。私は緩慢な動作で自転車をその場に停め、彼にお疲れ様と今の私が言うべきじゃない言葉をかけた。


「髪切ったのか。色も・・・」


「あぁうん。夏だし。へ、変・・・?」


一応聞くと篠木はふっと相好を緩め、私の頭を撫でた。


「似合ってる」


「・・・ども」


周りから言われ慣れている言葉のハズなのに、どうもむずがゆかった。彼は私の後頭部を撫で、不満げに呟く。


「・・・暫く髪は結べねーな」


「あぁ・・・確かに。伸びるまでポニーフックはつけられないね」


ショートヘアにしたことで、今まで髪にかかった時間が驚く程短縮された。正直クセになりそうだ。一生ショートヘアでもいいかもしれない。


そんなことを考えていた所為で、篠木の「・・・次は耳だな」という不穏なワードを拾うことができなかったのはまた別のお話。


「え?それだけ?もっとないん?顔真っ赤にしてわたわたするとか、連写始めるとか、あれこれ想像して勝手に嫉妬するとか!」


「ないよ。というかその一例おかしくない?」


――まぁ本当はその日、篠木の顔面が傷だらけで・・・完全に意識がそっちに持ってかれたっていうのもあったんだけど。


あまり言いふらすのもアレかと思い、この部分は割愛しておく。疲れを忘れる程驚いた私は、流石に何がどうしてこうなったのかを彼に聞いた。どうやらこの前の福分出張は中々にハードだったらしい。一歩間違えれば命が危なかったとかどうとか。そんなバイオレンスな出張ある?本当に何してたんだ。


私と篠木の話で暫く盛り上がった後、プロジェクターで観る映画を選んでいると横からはるまにタックルされた。


「おぶっ」


「なー来週もお泊り会したい!何なら毎週来たい!」


「じ、実家暮らしのクセに・・・!」


「去年からしたかったんじゃけど、さっちん疲れてるかと思って我慢したんよ?」


「う・・・」


それを言われると弱い。去年の今頃は週6日10時間シフトのバイトに加えSIGの活動にも精を出し、更に毎日あの人が与えるストレスに涙を流していた。体調を崩さなかったのは、数年間あの人の説教で己の精神を鍛えられてきた賜物なのか。私が精神的に辛いとされているこのコールセンターの業務を続けられているのは――皮肉にも、お母さんのお陰だった。


「来週は・・・・・・じ、実家、に顔を出すから」「え!?実家帰るん!?」


「・・・その日以外だったら空いてる」


はるまが後ずさり、あのさっちんが!?と瞠目する反応は予想通りだけど、されても困るだけだ。私はテーブルの上に置かれたコップを握り、恐怖に耐えるような顔をする。今の手の状態では、とてもコップの中に入っている紅茶を飲めそうになかった。


「選挙・・・行かなくちゃいけない。去年は結局行かなかったんだけど、今年は・・・」


「めんどいけど、ウチらも有権者じゃもんな」


私の住民票は実家に置いたままである。勿論頻繁に帰る気はさらさらなかったので、一人暮らしの住所に移そうとした。そのことについてもあの人と大揉めしたのは苦い記憶だ。お父さんの仲裁により、私の住民票を移すことは大学を卒業するまで見送られることになった。その為、親展の郵便物は全て実家に届けられる。


投票所入場券も、運転免許証の更新手続きを通知する葉書も、年金関係の書類も、全部。


「家族全員で投票しに行くことになると思うって・・・お父さんが」


「泊まる・・・のは無理か。さっちんの部屋、今は成愛ちゃんの部屋になっとるんじゃっけ」


「余計なこと覚えてなくていいよ・・・」


実家にあった私と妹の部屋は、現在妹の一人部屋になっている。私の私物も、勉強机も既に処分済だ。そのくせ住民票を移すのには反対だなんて・・・本当にどうかしている。


「にー」


泣き声が聞こえたと思ったら、ニャルラがいきなり私の背中に乗っかってきた。ニャルラを認識していないはるまの手前反応するワケにもいかず、私は猫背のまま静止した。早くどいてくれ。

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