親睦を深める
王太子による友人要請から数ヶ月。あれから何度か王宮に呼ばれては馳せ参じるようになった。
そして今日はその数度目の会合である。
「そういや前から気になってたんだけど、馬車はどこにとめてるんだ?いつも俺より先にきているのに見ないからさー」
カエル少年が私に問う
「あぁ、馬車では来ていない。走ってきている」
「はっ…⁉︎」
なぜかカエル少年は固まった
「?領地からではなく王都にある住まいから来ているからほんの10数キロ程度だ。たいした鍛錬にもならん」
「そのドレスで走れること自体がすごいと思うよ」
あははと柔らかく笑いながら言う王太子様は最初の頃こそ驚いていだが、最近は私の言うことにいちいち過剰な反応は見せなくなった。うむ、さすがの器だ。
「は〜…、よし、じゃあ次は俺も走って来る!」
「は?なぜガルシアまで?」
「女が走ってきてるのに俺だけ優雅に馬車とかかっこ悪いだろう!」
「そうか、童だと思うていたが一端の男なのだな。よき心がけだ」
「バルク家は騎士の家系なんだ!次男とはいえ女に負けるわけにはいかねぇ!」
うむ、精進いたせよ。…む?
「ところで、騎士の家系とな?」
気になることを言ったなカエル少年
「あぁ、バルク家は代々騎士団長を務めていて、王国の牙とも呼ばれているんだ」
王太子様が横から補足してくださった
騎士…騎士か!教育係から教わった時、武士のようなものだと認識して以来気になっていた職業だ。
「その…王太子様。騎士とは女性でもなれるのですよね?」
「うん?もちろん女性の騎士もいるよ。まぁ…男性に比べて人数は少ないけど。バルク家からも数名出ているし」
そうか!それだ!
「私!武…いえ、騎士になりたいです!」
「お前が⁉︎」
いちいちうるさいなカエル少年は
「いやでも…キリーの家は代々文官だよね?お父上もそのお父上も宰相職を務めてきてくれているし」
むっ、王太子様からもやんわりと静止の気配が
「そう…ですよね。私の様な者がそのような晴れ晴れしい身分になど。訂正いたします。立派な騎士様にお仕えしとうございます!」
「いや、ますます明後日の方向へいってるぞ⁉︎」
「仕える…とは、女官になると言うことか?それとも…」
なにやら王太子様がぶつぶつと言いながら考え出した。やはり何をお考えかさっぱりわからない。
「あ!もしかして騎士の家に嫁入り…ってことか?」
「嫁?いや私は…」
「駄目です!」
カエル少年の言葉に間髪入れずに王太子様が叫ぶ。考え事中ではなかったのか?
「いや、あの、その…。キリーが嫁ぐとなれば相応の家格が必要ですしね?同じ公爵家であるガルシアの兄君は婚約者がいるし、ガルシアは次男で放浪希望だし、ルーデンス侯爵家の嫡男はあまりよい評判を聞かないし、それにそれに…」
?なんだ?しどろもどろになりながらもよく喋るな。よもや気付かぬうちに何がしかの国家機密にでも触れてしまったのだろうか…
「あ!…は〜ん、なるほどねぇ〜」
急に何かに気づいてニヤニヤしだすカエル少年。む?こやつ国家転覆を狙うておるのか?
「いや、その、違うよ?決して他意があって反論しているのではなく、むしろこれは友人を心配しているからのであって…」
「王太子様、心配せずとも我がエイル公爵家は国家転覆など狙うておりませぬ!二心などは決して、決して!」
このままではカエル少年と共に切り捨てられるかもしれぬと思い、ざっ!と膝をつく
「ドレス!ドレスが汚れるから!」
慌てる王太子様。そういえば先程もドレスで走ったら〜などと話されていたような…
「王太子様のお呼びの日はいつも以上に華美にするよう申しつけられているのですが…もしやドレスはあまり好きではありませぬか?」
「え、いや、そうじゃないけど。え。今度はいきなり何の話??」
「王太子様のご要望とあらばいつでもお脱ぎいたしますとの申し出です」
「おい!」
カエル少年が横から叫んだ
「やめてやれ!みろ!クロードがあまりのことにフリーズしてるだろうが!」
本当だ。何故か固まっている王太子様
「いや、毎回この様な装いではなく、私ももう少し動きやすい格好になりたいのだ。王太子様からのお言葉とあれば父上様も納得くださるかなぁと」
「あ、あぁ、そういう…」
動き出したかと思うと、こほんと咳払いをしだす
「わかった。公爵には後ほど僕から言っておこう。ところで…キリー?」
「は!」
「その話し方は何かの癖なのかもしれないけど、その…王太子じゃなくて、いい加減名前で呼んでほしいのだけど」
苦々しい顔で仰られる。しまった!お名を呼ばないのはかえって失礼だったか!
「失礼致しました!クロード殿下!」
「だから固いんだって!ガルシアみたいに呼び捨てにしてよ」
「カエル少年ほどに無礼な振る舞いは…」
「お前いつまでその呼び方だよ!」
その後すったもんだのやり取りの後、クロード様とお呼びする事をお許し頂いた。
あとその日はカエル少年と走って帰った。かなりの足手まといだったので、明日から鍛えてやろうと言ったら複雑そうな顔で頷いた。
カエル少年の運命やいかにーー