ご主人様は無表情です
亀更新で申し訳ないです!!
脱走はしないように気を付けながらチマチマ書いて行きますので、どうかよろしくお願いします!
ヴォルフさんが何に謝っているのか分からないまま、僕らは教会へ戻ってきた。
そこには立派な馬車がおいてあり、護衛の人達が堂々と立っていた。中に大切な人が入ってますよ感がビシバシと周りに発信されているみたいだ。
生暖かい風が髪の毛をすくって、貧困街の街中へ伸びて行く。その風を追うように、僕が過ごしてきたはずの街を振り返った。
貴族様に治してもらうまで苦しんでいたあの病によって僕の記憶から抜け落ちてしまった街並。寂れて、煤けた寒い所。かつては栄えていたらしい、それでも貧しくて弱い人達が集まっていた場所は、誰も見当たらなくて、静かで、終わりが横たわっているようだった。
皆んな動かなくなって、そしてーーーーー。
(おやすみなさい、さようなら、僕の生まれて育った場所。)
目を瞑って心で呟き、教会へ向き直る。ヴォルフさんは僕の手を握ったまま、僕のペースに合わせて歩いてくれる。さっきの謝り倒しだった状態からは立ち直っていた。それでも顔は哀しそうな笑みを浮かべたままだったけれど。ヴォルフさんはもう良いのですかと問いかけてきたけど、僕は笑って先へ促した。
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「存外、戻ってくるのが早かったな。」
馬車に乗るなり、厳格そうな男の人が言葉を投げかけた。
いや、多分ヴォルフさんに言ったんだろう。僕のことなど視界に入っていないかのように、僕の背後に目線がいっている。
ソロッと目を動かすと、男の人の隣には僕を治療してくれていた貴族様がいて、困ったように眉毛を山みたいにして笑ってる。
貴族様は、ヴォルフさんと僕に対面に座るように言って、自己紹介をした。
「紹介が遅くなってすまない。僕はスラッド・リバーサイド。彼は僕の兄でリバリス家当主、アルバート・リバリスだよ。
急遽予定が変更しちゃってね、君は本家の方の子供達の所で働いてもらう事になったんだ。所謂、従者とかお世話係って所だね。」
ここまでは良い?と確認を取ってくれる貴族様改めスラッド様。その事に頷いて返し、話し出すのを待つ。
スラッド様は隣のアルバート様を見て、自分で説明してもいいんじゃないですか?と肘で突いたけど、アルバート様は知らん顔してる。
その様子にため息を吐いて、スラッド様は続きを話し出した。
「今、リバリス家には2人のお子さんが居るんだ。長子のアルフレッド、長女のマリベル。長男のアルフレッドはもうすぐ3歳になる元気な男の子で、マリベルは生後9ヶ月の赤ちゃん。当主であるアルバートの年齢にたいして子供達が幼いのは、最近の情勢が関係してくるんだけど……まあ、それはいっか。
それで、今まで乳母役の女の人が2人とも面倒を見てくれて居たんだけど、おめでたで仕事が出来なくなってね。侍女達に任せても良かったんだけど、良い機会だからアルフレッドには従者をつけてみようって話しがあったんだ。」
まあ、この話があったのは半年前の事だったんだけど。と、呆れ顔でアルバート様な顔を覗き見る。アルバート様はフンッと鼻から息を吐いてそっぽを向いた。
「…私は、ヴォルフを寄越せと言ったのに、お前は代替品をよこして来た。代わりだと言うからにはそれ相応に鍛えてあるかと試して見たが、腑抜け供ばかりだったと言うだけだ。」
だいたい、目が合っただけで悲鳴をあげるなど無礼だとブツブツと文句を言っている。
それに対して、ヴォルフと彼らでは年齢差があるじゃないかと更に呆れ、肩をすくめた。
「彼、従者に対して求める質が高いんだよ。ヴォルフは元々僕の従者だったんだけど、兄さんも纏めてお世話して居てくれたからね。兄さんは彼の存在に慣れすぎたんだよ。」
ヴォルフは色々と優秀だったから。
ニンマリと優越に浸るような笑みを浮かべ、スラッド様は僕に目線をシッカリと合わせる。
「君は、ヴォルフまでとは行かないだろうけど、似たような事が出来るぐらいまでヴォルフに鍛えさせる。そして、甥姪達の世話役として側にいてもらい、彼らを他の貴族達から守る盾になって欲しい。」
非常に勝手だと思うけど、貴族から平民に対する命令だと受け取って構わないよ。
柔らかな笑みを浮かべて、僕のこれからの生活について決定を下した。