運命の出会い
息苦しい中意識が浮上して、また教会に居ることに気がつく。
まだ、女神の扉は叩けていない。僕は生きているみたいだ。
終わりが来てしまった『彼女』を思い浮かべる。『彼女』は、今の僕がこの身体に入る前の魂。そして、今までの夢は、女神様の洗い場で 綺麗に磨く事が出来なかった残りカスなんだろう。
僕の魂は、前の人の終わりが付いたまま。
僕は………?
フワフワとした思考でくだらない思いつきを浮かべて、フッと嗤う。すぐに病で終わりが来るというのに、何を考えているのだろう。
このまま逝けば、また女神様の洗い場にたどり着くのだ。この記憶もいっしょに、『彼女』の記憶も流して貰えばいい。
早く、扉へ行けないかな。
色々と諦めて、フゥッとため息を吐く。
「……起きたかい?」
突然、知らない人の声が問いかけてくる。
そちらに目を向けると、寝ている男の子を抱えた男の人が居た。
仕立ての良い飾りのついた服、しっかりと整えられた髪、垢で汚れていない肌、隙のない所作。
どう考えても、貴族の人だった。
ソロッと周りに目線を向ける。もしかしたら、自分に話しかけた訳じゃないかもしれない。声が聞こえたから、そちらを見てしまっただけかも知れない。
僕達が住んでいる貧困街を収めている貴族は、視察だと行って歩いて見ては、見目の良い女の子を屋敷へ連れて行く様な人だった。男が近くに居れば叩いてた。
だから、怖い。貴族様は貧しい者達には怖い人たち。
「…やっぱり、ここの者達にとっては貴族は恐ろしいかい?」
男の子を側に控えていた従者の人に預けて、僕の近くへしゃがみ込み、手を伸ばして来た。
それが怖くて怖くて逃げたくて、でも、身体が動かないからギュッと目を閉じた。
「大丈夫。治療をするだけだよ。」
そう言って、ほわりとした温かな風の様なものが、僕の身体を包んだ。
「旦那様、本日の所はもう…。」
従者の人が、そっと男の人を制した。よく見ると、男の人も従者の人も、そして男の子もとても疲れているみたい。顔色が悪いし、汗もかいている。
さっきも治療って言っていたし、ここの人たちの面倒を見ていたんだろう。
そう思ってグルリと周りを見渡す。
でも、沢山あった人の寝ていた布は、大きな塊に変わっていた。
床に敷いていた布で、ナニカを包んだ様に膨らみになって放置されている。それを、口に布を巻いた兵士さん達が2人一組になって運んでいる。
「……?」
この貴族様達が治療をした人達は、みんな僕みたいに治ったんだろう。じゃあ、あの布は治療に使ったものかな?
魔法を使える人って少ないんだって、ここの教会のシスターが教えてくれたし。母さんも、平民には使える人はほとんどいないって言ってた。
まあ、いいか。
そうやって、僕は全てを見なかったふりをした。