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レヴニル「君って、ホントに予想外」

僕の名はレヴニル・フォン・ウェストリア。みんなからはレヴィって呼ばれている。警備部隊で働いている西の伯爵の次男坊だ。最近は出世して副隊長を務めている。ちょっと分不相応かなって思う。

こんなこと言ったら、みんなに謙遜が過ぎるとか、嫌味な奴って言われるだろうから言わないけど。


僕がこんな若くして副隊長に指名されたのはひとえにリリーのおかげだ。妖精種はイタズラのタイミングに目敏い。だから、人の弱みとか、触れて欲しくないこととかに限ってよく気づく。彼女は妖精種とは思えないほど善良だけど、その特性というか、運的なもの自体は持っている。


今日もリリーから通報があった。窓から飛び出て翼を広げる。

というか、リリーからの連絡は基本通報だ。学園の時からの付き合いだけど、リリーは用が無いと連絡しないからなぁ。

いっつも場所を指定して、面白いものがあったと来るのだ。で、その場所に行くと大体犯罪者がいるという。よくもまあこんなに見つけるものだと感心しているし、警備部隊ってもしかしなくても無能なのかなって落ち込む。


妖精種が配属されればいいんだろうけど、連中は興味のないことには一切関わらないし、気紛れで仕事が続かない。城で働いている妖精族(エルフ)はリリーと薬師くらいなもので、他人に従うのはリリーだけだからみんなから変人って呼ばれている。……陰で。


だって怖い。


ってみんな言うけど、そうかなあ……?妖精族(エルフ)はみんな美形で、リリーもそれに漏れない。日の光を受けてキラキラさらさらの銀髪、涼やかな紫の瞳。いつも曖昧に微笑んでいる柔らかな顔立ち。


あ、見た目は違うね、怖くないな。彼女の魔力だ。彼女は子爵家の令嬢だけど、魔力は侯爵級だ。僕も伯爵級にしては強い方だけど、リリーには敵わない。しかも、滅茶苦茶魔法が上手い。


陰魔法使いは大抵戦闘は弱いんだけど、リリーは違う。僕は昔試合で負けた。今はどうだろう、勝って……ないな、うん。公爵様の試合相手も偶にやって互角なのは確認している。公爵級相手だと僕は一発KOだ。


本人は、接近されたらおしまいだけどねー、なんて言っていたけど、接近しても勝てる気がしない。……泣きそうだ。大体なんで陰魔法使いなのに風や水を生み出せるんだ?訳がわからない。


火や土は有るものを使わないとだけどねって本人は謙遜していたけど、陰魔法使いならそれが普通だ。


現場付近に目立たないよう着陸する。リリーが言ってたのは、えっと……あれか。えーと、許可証が必要なモノが許可証なしに売られている。一角獣(ユニコーン)の角、人魚族(マーメイド)の肉、人面樹の皮、恋茄子(マンドラドラ)の根、不死鳥(フェニックス)の羽……。どうやってこれだけのモノを手に入れたのだろう。組織的な犯罪者かもしれないな。取り敢えず現行犯で逮捕して連れて行こう。

客が途切れたところで人払いの魔道具を使い、店主に声を掛ける。


「警備部隊の者です。城までご同行願います」


店主は血相を変えた。魔力が低めなのも含め、三流だな。手際よく魔力封じの手枷を店主に嵌め石化の札を貼り、押収用亜空間鞄に店を仕舞う。最後にリボンを店主に巻き付けて魔力を込めると、店主は見えなくなった。まあ、手枷に付いたロープが見えているので連れて行ける。


そう言えばこのリボンを作ったのもリリーだったな。学生時代、魔道具の授業で作って要らないから燃やそうとしてたときだった。




「それ、何の魔道具なの?」

「透明になる魔道具。要らないから捨てようと思って」

「すごい!提出しないの?」

「なんか、出したら面倒な気がする……私の妖精種の勘が言ってるのよ」


普通に考えてもそうだと思うけど。因みにどういう原理か聞いてみたけど、サッパリわかんなかった。光が粒で線で、曲げるとかなんとか。僕に理解できたのは陰魔法でリリーにしか使えないということ。ちょっと羨ましい。くれないかな?


「……あげようか?」


リリーは当時から人の心とか、思考に敏感だった。読めてるんじゃないかってくらい。でも、精神系統の特性は亡霊族や淫魔族、妖狐族などが限定的に持っているだけだ。多分本人の才能なんだろうけど。


「いいの?でもリリーの課題どうするの?」

「んー、適当に作る。エアコンくらいなら多分楽だし」


部屋の定義がネックよね、いや、使う人の相対距離が、とかなんとか。たしか代わりに作ったその魔道具はその年の最優秀賞に選ばれてて、偏屈な職人マッドサイエンティストだらけの魔工部隊に勧誘されていたはず。本人は断ってたけど。




そんな騒動を経て僕が管理している透明リボンはとっても便利だ。自分が潜入する時も、こっそり連行したい時もこれがあれば楽ちん。


今も外から見れば僕は巡回で飛んでるのかなーくらいにしか見えない。


仕事場に戻って何人か調達して尋問室に行く。カツ丼は忘れない。リリーが、この匂いが自白を促すのよ!って、鬼人族の料理研究家の友人と一緒に持ってきた。


「レヴィ、今日も大手柄だな!明日から忙しくなるぞ。上手くすれば芋蔓式に密売者が捕まえられるな!」


僕は使わなかったカツ丼を食べながら豪快に笑うロドリゴ隊長からお褒めの言葉をもらう。カツ丼、美味い。


因みに、尋問でカツ丼がどう使われるのかサッパリ分からないため、尋問後にみんなで食べる。よくわからないが、尋問の時でないと三ツ葉ののった卵とじのカツ丼は作ってもらえないのだ。


「先輩、すごいですね!」

「レヴニル様、素敵ですー」

「そんなことないよ、魔道具一杯使ってるし」

「被害を拡大させないためですよね!」


最近女の子達に騒がれる。ツライ。五月蠅い。強面が多くかつ男だらけの警備部隊の仕事場に乗りこむのは凄いが、公務執行妨害だろう。しかしどの子も貴族でそうそう追いかえせない。


「ありがとう、僕にはまだ仕事があるから、お話は今度の夜会(パーティー)にしよう」


意識してニッコリ笑顔を作る。女の子達は顔を赤くして去っていった。やれやれ。


やがて定時の鐘が鳴る。取り敢えずリリーにお礼を持って行こうかな。


部屋には蜂蜜や樹液、上質の砂糖、菓子や酒が並ぶ棚がある。珍しい物、高級な物は片っ端から買って状態保存の棚に並べる。で、お世話になった時に渡すのだ。


甘味が多いのは、ひとえにリリーの世話になることが多いから。リリーは人工的な甘味も大好きだが、やはり妖精種らしく自然の甘みを好む。


(うーん、前回は雪砂糖だったから……あ、丁度昨日実家から蜂蜜が送られてきたな。おお、ゲーレンビーの蜂蜜!これにしよう)


リリーに渡すと、それはもう綺麗な顔が笑みに彩られた。渡して良かったと思う。


最近リリーの通報がないなあ、なんて暢気に考えていたら、城で爆発が起きた。急いで駆けつけると、リリーの主、カーネトリアス様が気を失って陛下に抱えられていた。陛下に何があったか尋ねる。


「問題無いぞ。いや、なくはないんだけど、まあいい。仕事に戻れー」


なんとも気の抜ける答えを頂いた。釈然としないまま、先日の後処理に掛かる。


その日以降、城内で時々爆発が起きている。原因はカーネトリアス様だ。いや、またしてもリリーかも。リリーが休暇でいなくて、そのストレスで魔力が爆発しているらしい。頻発し過ぎてまたか、みたいな感じで慣れてしまっていた。


数日後、騒ぎはピタリと収まった。リリーが帰ってきたらしい。休暇はたったの二週間だったみたいだけど、本人はあんまり気にしてなさそうだ。お土産に精霊銀(ミスリル)のインゴットをもらったけど、何にしよう。役に立つのは確かだけど、この土産は……センスがないような?兄さんに送っちゃおうかな。


そのまた数日後、実家から手紙が来た。そろそろ結婚しろだそう。えー、まだフラフラしたい。というか、僕の代の令嬢、みんな気位が高くて馴染みにくいんだよな……。


こんな話をリリーにしたら、どこも一緒ねえなんて言ってた。リリーにも見合いが来てるんだって。憂鬱そうだ。


そういえばリリーも令嬢だったな、なんて思ってしまった。残念なことに、リリーは何かこう、男友達と近いんだよ。


「嫁き遅れんなよ」

「ええー」


嫁き遅れる気マンマンじゃないか。


「でもフィベルテ候、結構いい人だよ。リリーとも合うと思うけど?」

「フィベルテ候が嫌なんじゃない。束縛が嫌なの!」

「ああ、妖精種の人ってそういう人多いよね。犬系の魔族は嫁はこうでなければ!みたいなのありそう」

「絶対監禁コースよ……」

「悲観が過ぎないかい?」


まあ頑張れ、そう応援して僕は仕事に戻った。


にしても、リリーが結婚ねえ。笑える。



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