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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
人魚姫
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室内

立派な信念と公平さと誠実さを持つ人物を口を極めて賛美することは、人間一般に対する

不信を表明しているのと全く同じだ

〜ラ・ブリュイエール〜



『ああ、そうかい。ボク達はもう遊んでいるから君達も早く来るといいよ。仕事が始まったら遊ぶ暇なんてなくなるんだからね。ああ、それじゃあね。涼風君』


雪さんと粉雪ちゃんと海で遊んだ後、ボク達は一度篠宮家所有の高級ホテルに戻っていた。


まあ、ホテルと言ってもボク達しか客がいない為いつものマンションとあまり変わらないのだが。


調度品もあまり雪さんの部屋と変わらないし。


『誰に電話を掛けていたんですか?雪さん』


そう言って電話を終えた雪さんに話しかけるのはベッドに寝そべっていた粉雪ちゃん。


彼女もここはマンションとあまり変わらないと思っているらしい。


いつも通りに過ごしていた。


『ん?涼風君と紅葉君だよ』


『ああ、あの二人ですか。そういえば見ませんでしたね』


そう言うのはボク。


『うん。今日は大事な用事があったらしくてね。後から合流すると言っていたんだよ』


そう言って自身の部屋の椅子に座りクルクル回っている雪さん。


それを口を半開きにしながら見つめているのが粉雪ちゃん。


うん、平和だ。


実にのどかな。


『そう言えば、涼風さんと紅葉さんはどうして雪さんのマンションに入居したんですか?あの二人って雪さんのマンションの中では割りとまともなレベルの人達だと思うんですけど』


よくよく考えてみると、ボクは涼風さんと紅葉さんの事をあまり知らないのだ。


雪さんのマンションに二人で住んでいる少し年上のお兄さんとお姉さんと言った感じだろうか。


雪さんのマンションにはかなりの頻度で通っているのだがあの二人とは滅多に話さない。


と、言うかあの二人がどのように生活しているのかすらボクは知らないのだ。


昼間に働いているのかも夜中にマンションにいるのかも。


なにも知らない。


ただ唯一知っているのは入居時に七花さんと一悶着あった。と、いうことだけである。


『涼風君と紅葉君には少し特殊な事情があってね。ボクがおいそれと言う訳にはいかないんだ。彼らとの契約でね。それに、君のその言い方だとマンションの住人皆が変人だと言っているように聞こえるよ?凛君』


ええ、まあ、そう言ってますから。


特に雪さん、貴方は特に。


『凛君。君は失敗からまったく学ばないようだね?粉雪君』


『はーい』


雪さんはやれやれと言わんばかりに肩をすくめながら粉雪ちゃんの名前を呼ぶ。


すると、粉雪ちゃんは待ってましたとばかりにボクを背後から羽交い締めし始めた。


フニッとした粉雪ちゃんのまだ発展途上の胸が背中に当たる。


雪さんがそれを見ながら近付いてくる。


って、え?


『えーっ…と、粉雪ちゃん、なにを?それに雪さんもなんでそんな嫌らしい笑顔で近付いて来るんですか?』


『主を変人呼ばわりするダメな子はお仕置きだよ?凛君』


『ですよ、凛さん』


『えっ?ちょっ、待っ!まさか!』


『これをやるのは春ぶりかな?嬉しいだろう?こんな美少女とキスが出来るんだよ?その後、どうなってもボクは知らないけどね』


『そっちを知っていてください!』


雪さんはボクの前に立つと静かに目を閉じて唇をこちらへと近付けて来る。


雪さんの林檎の様に紅い官能的な唇が少しずつ近付く。


心臓が高鳴る。


避けようとしても粉雪ちゃんに羽交い締めをされているせいで避けられない。


雪さんの唇まで、後、五センチ。


三センチ。


一センチ…


と、そこで雪さんの唇が止まった。


いや、雪さんだけではない。


羽交い締めをしていた粉雪ちゃんですらボクの背中から離れ窓の外を睨みつけている。


『雪さん?』


『血の臭いだ。しかも、これは人間の臭いじゃないね。少し魚の様な生臭さを感じるよ』


『いえ、それとはもう一つ。その生臭さの近くからもう一つ血の臭いを感じます。人間の臭いが』


雪さんと粉雪ちゃんは顔を合わせながらそう呟く。


人間の血ではない血の臭い。


つまり、それはボク達と同じ異形の物がすぐ近くに存在していると言うことだ。


しかも、魚臭いとなると…


『依頼人から聞いていた人魚ですね』


『ああ。しかも、その近くにある人間の臭い。依頼人が殺されているかもしれない』


『どうしますか?雪さん』


『もちろん、行くに決まっているさ。面白い物が見れるかもしれない』


そう言って雪さんはゆっくりと入り口へと歩き出す。


だから、ボクと粉雪ちゃんはその後ろへと従うように連なる。


さあ、行こうか。


久しぶりの状況開始だ。

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