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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
人魚姫
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オネーチャン

人間のこの巨大な渦の中にいる時くらい、深く孤独地獄を味わったことはない

〜ファーブル〜

『私の能力。忘れたわけじゃないよね?オネーチャン』


そう言って三條蛍は自らの指をまるでピアノの演奏をするかのように動かしながら七花を睨みつける。


まるで、親の仇を見るかのような目で


実の姉である七花を


睨みつけている。


『蛍…あんた…どうして?』


だが、そんな蛍に対し七花は方針した様に呟き続ける。


いつかの粉雪の時の凛のように。


ぶつぶつと呟き続けていた。


『どうして?ですって?わかんないの?オネーチャン。オネーチャンが組織から抜け出してから私がどんな目にあったか…本当にわからないのかな⁉︎』


蛍は目を閉じ、頭を振り回す。


過去の記憶を掻き消そうとするかのように。


だが、脳裏からは過去の記憶は消えやしない。


そんなことをしても、過去の記憶は脳裏にジワジワと羽虫のようにより続けてくる。


いくつの尋問を喰らい。


いくつの拷問に耐え。


いくつの凌辱を味わい。


いくつの罰にあい。


いくつの疑問に襲われたかなど。


忘れられるわけがない。


『どうして…どうして組織を裏切ったの⁉︎オネーチャン‼︎』


蛍は叫ぶ。


まるで母親の死を嘆く子供のような悲痛な声を上げながら。


姉に問いかける。


だが、七花はその質問に…


答えない。


『蛍…』


ただただぶつぶつと妹の名を呟き続ける。


いや、違う。


妹に何も告げられないのだ。


自分が組織を抜けた理由が…


一人の少女に惹かれたからなどと…


酷い目にあったであろう妹に言えるわけがない。


言えるわけないじゃないか。


『そう…そうなんだ…答えてくれないんだ?じゃあ…もう、いいよ』


だが、七花の気持ちなど蛍には届くわけがない。


蛍は七花を睨みつけまた指を動かし始める。


まるでなにかを操るかのように。


指を器用に動かす。


そうして、蛍が指を動かし続けた瞬間。


なにかが動き出す。


それは不意に動き出したかと思うと鋭い動きで七花の胴体を確実に断ち切ろうと七花を襲ってきた。


『なっ⁉︎これは…』


七花はそれを間一髪かわしながら後方へバックステップ。


誰もいないテーブルへと着地をしながら襲ってきたそれに対し拳を構える。


だが、拳を構えた七花の顔色は険しかった。


なぜか。


妹と戦うから?


たしかにそれもある。


だが、それは二次的なものだ。


七花の顔が険しい理由が他にもある。


なぜ…なぜ七花の顔が険しいのか?


それは、単純明快なただ一つの理由。


自らを襲ってきたなにかが七花のよく知る人物の武器によるものだったからだ。


いや、最早詳しく言うのも面倒くさい。


単刀直入に言おう。


七花が険しい顔をした理由。


それは、七花を襲って来たのが彼女のよく知る人物。


彼女が知る史上二人しかいない彼女と対等以上に戦える人物。


風上風下だったからだ。

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