鋼鉄人形
親しき中にも演技あり
〜不明〜
一瞬、アリーヤは何が起きたのかわからなかった。
自分の《雷天狼牙》に貫かれて死にかけていた糞女にトドメを刺そうとした瞬間に自分の身体が後方へと吹き飛ばされていたのだから。
明らかに死にかけていた筈なのに。
なぜ、目の前の女は笑いながら立ち上がっている。
なぜ、私が付けた傷がない。
いや、それよりなんだ。
この女の身体は。
『ふむ。久し振りに薬を使いましたが…何度見ても見慣れませんね。鋼鉄に包まれた自分の姿なんて』
霊華は自らの身体を見下ろしてそう呟く。
それは、異様な景色だった。
右手には闇の色を含んだ鈍く輝く金属体。
左手には白く眩いばかりに輝く金属体。
右足には右手と同様の物が。
左足には左手と同様の物が。
額からは黒と白のコントラストに染まった昆虫のような触覚。
桜楼院霊華の身体中が黒と白の金属に染められている。
これが桜楼院の叡智と研究の象徴。
《鋼鉄人形》。
自分を改造した闇医者は確かそう表現していた。
ーー人形とは笑わせてくれる。
ーーこんなものただの化物でしかないではないか。
霊華は苦笑する。
ただでさえ化物と呼ばれている私なのに更に化物になってどうするのだろうか。
まったく…笑えない。
『てっ…てめえ!なんだ、その姿は!』
下衆女が何やら叫んでいる。
勘弁してほしい。
こちらは、薬の影響で聴覚が10の階乗の階乗倍になっているのだ。
正直言って…
『やかましい』
一瞬でアリーヤの後ろへと回り足を振り上げる。
それに反応出来ずアリーヤが後ろを振り向きながらバックステップをしながらかわそうとするがもう遅い。
霊華の踵落としがアリーヤの脳天に炸裂しそのままアリーヤの身体を地面にメリこませる。
いや、それだけでは止まらない。
アリーヤの身体はビルの屋上から一階までメリこんでそれでもまだ止まらない。
ビルがまるでプリンのように倒壊していく。
地面があまりの衝撃に揺れている。
世界が悲鳴を上げる。
これが桜楼院霊華の…
化物の力だった。
『…おや?まだ生きてますね。都合がいい。丁度新しい実験体を本家の連中が欲しがっていたところです』
微弱ながら下衆女の心音が聞こえる。
ビルが倒壊する音はやかましいがこのくらいなら耳を澄ませる必要すらない。
自分の化物加減に本当に笑いたくなる。
『…行きますか』
死にかけているアリーヤの身柄を捕らえに。
そうして霊華はビルの屋上から飛び降りた。




