雷天狼牙
諸君が諸君に対して関心を持っているのと同じように、他人が諸君の事にそれほど関心を持っているなどと決して思うな
〜ラッセル〜
『…やってくれましたね。東洋人』
ゆらぁり。
そんな擬音が聞こえてきそうなゆっくりとした歩みでもう一人の敵が迫ってきていた。
身体中からありとあらゆる殺意を吹き出させながら。
『おっと、今度は金髪修道女ですか。見てて飽きませんね。“イギリス協会”の刺客と言うものは』
霊華はその殺意に一ミリも気圧されることなくそんな軽口を叩く。
だが、相手はそんな霊華の軽口は気にならないらしい。
口もとに嫌らしい笑みを浮かべながら少しずつ霊華へと進んでいく。
武器を持たず遠慮をせずズカズカと霊華の射程範囲へと入ってくる。
『なんのつもりです?』
霊華の眼前。
霊華が拳を伸ばせば一瞬で当たる距離。
その距離で相手は止まり静かに目を閉じた。
そして告げる。
滅びの運命を敵に与える為に。
『主は変わらざる私の喜び。私の心の慰めであり、潤い。主はすべての悲しみから守ってくださる。主は私の命の力。目の歓びにして太陽。魂の宝であり、歓喜。だから主を放しません。この心と視界から』
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲。
カンタータ147番。
《口と心と行いと生きざまもて》の第六曲。
《主よ。人の望みの歓びよ》
『歌詞は所々少し違いますがバッハの曲ですね。さすが、修道女と言った所でしょうか』
霊華は関心したかのようにそう呟く。
だが、その呟きに反応するかのように修道女は笑い出す。
霊華の言葉が本当におかしいと感じているように。
笑う。
『修道女?笑わせないでくれよ。糞女あたしはそんな高潔なもんじゃあないさ。修道女の身でありながら数々の化物を殺してきたんだ。時にはあんたみたいな人間や罪のない子供を殺した事すらある』
そこまで言って修道女は血走った目をしながら狂気的に笑う。
狂ったように。
いや、最初からまともな器官などなかったかのように。
『あたしは殺しを楽しんでいる。人殺しの処女なんか生まれてすぐに捨てちまった』
身体をくの字に曲げながら笑い叫ぶ。
霊華はそんな修道女に対しなんの反応もしない。
黙ったまま相手を睨みつける。
『さあ、遊ぼうか。糞女。あんたを殺して解体して喰らい付くしてやる』
そう言って修道女は己の武器を構える。
どこから現れたのかはわからないがその武器は現れた瞬間にその場の空気を厳粛し始める。
それは神から授かりし槍。
その名は…
『私はイギリス協会所属殺人教会序列第六位《雷天狼牙》アリーヤ・アレクシス!さあ、やろうか。《化物》』
そう言ってアリーヤは霊華へと襲いかかった。




