配達
美的にも、知的にも、そして論理的にも自分ほど進んでいない世の中を忌む
〜夏目漱石〜
『さっきの七花さんで思い出したんですけど風下さんって雪さんの弱点知ってますか?』
『はぁ?大家の弱点だぁ?…そういや、知らねえな。七花の弱点なら知ってるけど』
なにそれ、聞いてみたい。
と、思うけどまあ聞かなかったことにしておこう。
他人の弱点に関わるとロクな事がない。
それが七花さんであるなら尚更だ。
『…霊華さん、大丈夫ですかね?』
ため息を吐きながら先程のことを思い出す。
七花さんの元から全力で逃走しようとしたボク達は一瞬にして七花さんに捕まってしまい無理矢理霊華さんのマンションへと連行されてしまった。
連行されたからには仕事をしなくてはならない。と、言うかやらなきゃ殺られると思いボク達は七花さんの部屋の前にそっとダンボールを置いて逃げてきたのである。
ちなみに、霊華さんのマンションから逃走した時には七花さんは既に帰っていた。
うん、勝手過ぎる人だ。
『さあな。まあ、俺達が殺されるよりはマシだろ』
『…後で、霊華さんに殺される気がするのはボクだけですかね?』
笑いながらボク達は軽口を叩いているが本当に殺されそうだから困る。
既に住民街を抜けていたのでカラカラと自転車のタイヤの回る音がイヤによく聞こえてくる。
なんだか、この音を聞いていると普段の戦闘だらけの生活から離れる事が出来ている気がした。
『大家の弱点、一つ思いつかなくもないが…まあこれは言わない方がいいな』
『なんでです?』
『この弱点は大家の社会的地位が危機に晒される可能性があるからな。俺はまだ死にたくない』
社会的地位って…
どれだけ大きい話になっているんだ。
是非ともそれは知りたい。
『まあ、俺が教えなくてもお前ならすぐに気付くだろ』
お前関連のことなんだしな…と、風下さんはシニカルに笑って駐輪場へと歩いていく。
ボク関連とはどういう事なんだろう?
そんな疑問を抱きながら風下さんと共にマンション内へと歩いていく。
時刻は既に十時を回っている。
ろくでもない殺人鬼はそろそろ家へと帰る時間だ。
ボクは自室へと戻りベッドに横になる。
風呂は明日でいいだろう。
今夜はもう疲れた。
そこまで考えてまたボクは流れてきた睡眠の波に逆らわずに流されて行った。
ちなみにその日の深夜に霊華さんから苦情の電話が掛かって来ていたが寝ていたのでボクはそれに気付かなかった。




