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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
ショートストーリー
49/79

神鳴橋

男同士は本来お互いに無関心なものであるが、女というものは生まれつき敵同士である

〜ショーペンハウエル〜

『…最近、お前ってよく窓から落ちてきてないか?』


『あー…そうかもしれないですね。最近は粉雪ちゃんにマンション内で襲われたりしてよく脱出の為に窓を利用してますから』


そこまで言ってチリンと風下さんの自転車のベルの音が響く音を聞いた。


どうやら、前に通行人がいたらしい。


風下さんは避けて貰った事に礼を言って更に自転車を漕ぎ続ける。


後ろにボクが乗っていると言うのに彼の足取りはまったく衰えることはない。


さすが、ボクの師匠だ。


『粉雪か。お前もよく毎日毎日襲われて飽きないよな。俺だったらすぐに飽きちまって殺しちまってる所だよ』


『…怖い事言わないでくださいよ』


ボクと風下さんの関係は彼に戦いを教えてもらった師弟の関係しかない。


それでもボクは彼との関係を大切にしたいと思っている。


壊したくない関係。


それは決して師弟愛などと言うくだらないものではなく、純粋な気持ち。


尊敬だった。


彼を目指し彼のようになりたい。


そんな気持ちがボクの中に満ち溢れている。


その気持ちが巻き起こった理由をボクは自分の事なのに知らない。


まあ、興味もない。


とにかく、ボクが言いたいのはボクにとってボクと風上風下の関係は愚図な物差しでは測れない特別な気持ちによって成り立っていると言う事だけだ。


ちなみに、一応注意しておくがボクに同性愛の気はない。


『どこに行くんですか?こんな時間に』


『こんな時間って、まだ八時じゃねえかよ。殺人鬼はハッスルしていい時間帯だぜ?』


貴方は人間でしょう。


そう思ったが口には出さなかった。


この人も怒ると中々怖いからだ。


ボクの中では、七花さんと並ぶ雪さんのマンション内の二大キレたら怖い人に並ぶ。


『っちゃ、まあ、大した事はねえよ。七花に呼び出されて河原に行くだけだからよ』


『河原…ですか?』


『ああ。なんでも急用があるから来て欲しいって電話が来た』


そう言って自転車の歩みは止めず風下さんはポケットから携帯を取り出した。


確かに七花さんから電話が来ていた。


時間は約十分前。


ボクが粉雪ちゃんに殴り飛ばされる少し前の時間帯だ。


『それにしても、七花のやつ河原で何をしようってんだろうな…っと、見えてきたぜ。神鳴橋だ』


そう言って風下さんが指差す方角には確かに神鳴町の中で一番大きい橋である神鳴橋が見えた。


だが、その先に七花さんの姿はな…いや、いた。


橋の欄干部分を器用に上手く走りながらなにかを追いかけている。


なんだろうか、あれは。


『何してるんですかね?』


『あいつもついに頭が…って、ぐぁっ!』


七花さんが捕まえたものをこちらへと投擲、見事風下さんの顔をそれが捉える。


うん、一連の流れに無駄がない。


『あれ?これって…』


ボクは風下さんの顔にへばりついているそいつを抱え上げる。


それは警察署で見た漆黒の毛を持った黒猫だった。


黒猫は突然投げ飛ばされたからか精一杯逃げようとその身体をくねらせているが、まあ逃がすわけがない。


ボクは爪で引っ掻こうとしている猫を上手くかわしつつこちらへと向かってきてる七花さんを待つ。


『あら、あんたも来たの?凛』


『まあ、色々ありまして。って言うか、なんです?この黒猫は』


ようやく大人しくなってきた黒猫を頭の上に乗せ、七花さんに疑問を投げかける。


『弱点よ』


『…は?』


一瞬、七花さんがなにを言おうとしているのかわからなかった。


だが、そんな疑問を浮かべているボクを無視して七花さんは続ける。


『霊華の弱点よ。粉雪ちゃんから聞いたわ』


『…ああ、たしかにそんな設定もありましたね』


そう、それは警察署前で霊華さん自身から聞いた弱点だ。


『…で、それがどうしたんだよ七花?』


いつの間に立ち上がっていたのか風下さんはボクの横に立ち七花さんへと疑問を投げかける。


そうだ。


たしかに霊華さんの弱点だからなんだと言うのだろうか。


『あの霊華の弱点よ?分かったのならそこを重点的に攻めなきゃ損だわ。はい、凛。これ持って』


そう言って渡されたのはダンボール箱。


中からは絶えずガサゴソと何かが動き回る音。そしてにゃあにゃあとなにかの鳴き声さえも聞こえてきた。


うん、なにか嫌な予感がする。


『えーと…七花さん。これは?』


『このダンボールを二人で霊華の住んでる部屋に置いてきてちょうだい。私はまだ探してるから』


そう言って彼女は笑う。


ボク達に最悪の課題を授けて。


だから、ボク達はお互いに顔を見つめあい…


逃走した。

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