後悔
恋愛とは女が男を追いかける事に他ならない。
女の方はじっとしているのだから女は男を待っているかのように見えるが、それはクモが無邪気なハエを網の方へひきつけるのと同じやり方なのだ
〜バーナード・ショウ〜
『あ、やっと来ましたね。遅いですよ、雪さん』
ボク達が食卓へと向かうと、粉雪ちゃんが待ちくたびれたと言った感じで椅子にダラけて座っていた。
ちなみに、七花さんは何か用でもあるのか既にいない。
忙しい人だ。
『やあ、悪いね粉雪君』
謝る気もなさそうに謝罪をして雪さんは自分の席へと座る。
ボクもそれに続いて座るが少し居心地が悪い。
当たり前だ。
先程まで雪さんの部屋で雪さんと抱き合っていたのだから。
居心地が悪くない方がおかしい。
と言うか、雪さんがあんなに余裕そうにしているのがなぜかわからない。
ボクなんて気を抜くと頬を赤くしてしまいそうなのに。
『それじゃあ、食べようか』
雪さんのその一言により全員が晩御飯を食べ始める。
今夜は洋食だらけ過ぎてボクにはなんの料理なのかさっぱりわからない。
知りたければ七花さんに聞くしかないだろう。
まあ、聞く気はないが。
『七花さんが迎えに行った後、十五分間くらい降りてきませんでしたけど…何をしてたんです?』
一瞬、心臓が止まりそうになった。
粉雪ちゃんはなにも知らないためかそんなとんでも質問を可愛らしげにしてきた。
頼むからやめてほしい。
『別に。なにもやってないよ?粉雪ちゃん』
『貴方に聞いてないですよ、凛さん』
雪さんの代わりに答えようとするがバッサリと切られた。
もう、大根のように。
少し泣いてしまいそうだ。
『凛君の言う通りさ。別になにもしていないよ、粉雪君』
そう言って、雪さんはご飯を食べ続けている。
久しぶりに雪さんに感動した。
まさか、ボクの願い通りになにもなかったと答えてくれるとは。
信じてました。
雪さ…『ただ凛君と抱き合っていただけさ』
前言撤回。
この人やっぱり最低だ。
粉雪ちゃんもポカンと口を開けたままになってしまい彼女の驚きが手に取るようによくわかる。
いや、わかりたくないけれど。
『あっ…えっ…は?』
『ほらほら、粉雪ちゃん!ご飯が冷えちゃうよ!早く食べなきゃ!』
『凛さん…抱き合っていたってどういう…』
粉雪ちゃんの手元の皿に洋食各種を詰め込み催促するが彼女は誤魔化せない。
普段の可愛らしい目はどこに行ってしまったのか七花さんよりも悪い目付きでこちらを睨みつけていた。
『いや、これは雪さんの言葉のあやで…』
『あや?何を言っているんだい。あんなに強くボクを抱きしめてきたくせに』
ちょっ…
なんでそういう事を…
そう思い雪さんの方を見ると普段の嫌らしいニヤニヤとした顔が目の前にあった。
どうやら、全てワザとだったらしい。
『雪さん、まさか…』
『言葉のあやなんて言った君が悪いのさ。凛君。存分に後悔しておいで』
雪さんの言葉の後に感じたのはすさまじい殺気。
殺気だけで人も殺せそうなほどの殺気がボクの後ろから感じられる。
マンション内でこんな殺気を感じたのは始めてだ。
この殺気は一体誰のものであろうか。
いや、言うまでもないな。
『こっ…粉雪ちゃん。おち…落ち着いて…』
『うふふ、凛さん…今日はどうやって死にたいですか?』
振り返った先にいたのはいつもの薄紫色の目を赤く血の色に光らせ彼女の正体である食人鬼へと変貌していた粉雪ちゃん。
この後、何が起こるのか。
考えるまでもない。
ナイフを服から取り出そうとするがもはや間に合わない。
一気に接近してきた粉雪ちゃんに思い切り殴られボクは吹き飛んで行った。
なんで…
こんな事になったんだろうか。
答えてくれる人はいなかった…




