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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
ショートストーリー
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会話

神様が時間を少ししか下さらず、一日に僅か24時間しか割り振ってくださらなかったもんだから、悔い改めることはおろか、十分に眠る暇もありゃしない

〜ドストエフスキー〜

『雪さんの弱点…ですか?』


ボクの言ったことがイマイチわからなかったらしく可愛らしく首を傾げている。


『うん、そうそう。雪さんの弱点。雪さんにも霊華さんみたいに耐えきれないくらい苦手な物ってあるのかなって』


雪さんに頼まれた買い物は全て終わったのでゆっくりと帰路に着きながらボク達は話していた。


『んー…虫とかですかね?』


粉雪ちゃんはボクの問いに暫し沈黙を保った後そう言った。


なるほど、確かに女性なら虫が苦手な人は多いだろう。


だが、違うだろう。


粉雪ちゃんがいまだ抱えている黒猫を撫でつつその問いに返す。


『違うだろうね』


『なんでです?』


『あの人は本を読む為には何処でだろうと読むからね。この前、篠宮家所有の使われてない洋館に行ったんだけどあの人は虫なんてガン無視で本を読みふけっていたからね』


食人鬼事件の前に付き合わされたので良く覚えている。


確かあの時彼女は壁に這いずり回る黒い物体や巣を作っている蜘蛛になど目もくれずに本を読んでいた。


聖徳太子について語られたのもその時だっただろう。


『んー…じゃあ、動物関係でなにか苦手な物はないんですかね?霊華さんのように』


粉雪ちゃんにそう言われて考える。


動物…動物…動物…


特に思い当たらない。


『雪さんとは一年以上の付き合いだけど動物関連で慌てたりしてたことはなかったかな。ほら、雪さんって独自の価値観や倫理観を持っているから』


『あー、確かに食事について語られましたけど…よくわかりませんでしたね』


そんな風に話しながら歩いているともう遠目には雪さんのマンションが見え始めていた。


それにしても、よく考えても雪さんの弱点が特に思い当たらない。


『まったく思い当たらないな』


『ですね』


ボクと粉雪ちゃんと黒猫。


三人で首を傾げるがまったく思いつかない。


『あんた達、なにブツブツ話してんのよ?』


『七花さん!こんにちは!』


マンションの前まで戻ってくると七花さんが掃除していた。


彼女が掃除したと思われる場所はピカピカに輝いており彼女の掃除スキルの高さが伺える。


そんな彼女を見つけると粉雪ちゃんは一目散に駆け出し始め七花さんへと買い出ししてきた食材を渡す。


『んっ、粉雪ちゃん。買い出しご苦労様』


粉雪ちゃんが走ってきたのを確認して七花さんは彼女の頭を撫でながら買い物袋を受け取る。


うむ、皆してボクへの反応が全く違う。


多分、ボクが持って行ってたら『ん』と、一言で終わっていただろう。


こうして、ボクと粉雪ちゃんの二人だけの買い物は終わった。


このときに弱点会話は終わったはずだった。


そう、終わったはずだったのだ。


この時、粉雪ちゃんが雪さんの弱点について語り出すことにより始まるドタバタ騒ぎをボクはまだ知らなかった。

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