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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
ショートストーリー
43/79

お買い物

もの言わぬ宝石の方が生きた人間の言葉よりもとかく女心を動かすものだ

〜シェイクスピア〜



『…なんで、私が貴方と一緒に買物なんか行かなくちゃいけないんですか』


『ボクのせいじゃないだろ』


雪さんのマンションから数十分程歩いた市街地でボクと粉雪ちゃんはそんな言い争いをしながら歩いていた。


いや、言い争いと言うよりもボクが一方的に文句を言われているだけなのだけれど。


まったく雪さんにも困ったものだ。


粉雪ちゃんと一緒に行かせるのもそうだがあの人の人嫌い具合にもかなり困る。


スーパーもコンビニも近くにない所に住んでいるから買物をするにもかなり遠出をしなくてはならないのだ。


しかも、メモ用紙に書いてある頼まれた物は高級品が多くて一般の所には売っていない。


それによりわざわざ歩き回らなくてはならない。


面倒くさいことを頼んでくれたものだ。


『それで、次は何を買いに行くんですか?』


『次は…ワインだな』


粉雪ちゃんは文句を言いながらもボクの足取りにしっかりと付いて来る。


流石に雪さんの命令とあれば聞くらしい。


本当に嫌そうに付いて来ているが。


まったく。


なんでこんなことに。



〜粉雪視点〜

まったく、なんでこんなことに。


隣にいる少年を見上げながらそう思う。


私は最初この少年を殺そうとしていたはずだ。


友人を殺され、先生を殺され、知人を殺され、父も殺され、私に母を殺させた張本人。


そんな少年と私は一緒に歩いている。


ふと遠巻きに見ると家族に見えるような距離感で。


『次は…ワインだな』


私の質問に答えながら歩き続ける少年を見て不思議に思う。


最初は確かに殺そうとしていた。


でも、いまではその気持ちは薄まってきている。


殺したいほど憎んでいた筈なのに。


全てを捨ててもいいほどに…


恨んでいた筈なのに。


これも、雪さんの影響だろうか?


あの人のマンションに行った当初こそは少年を殺そうとしていた。


一日一回の制約も最初はあまり守る気もなかった。


だけど、いまでは完璧にその制約を果たしている。


あの人と暮らすことで私の中でなにかが確実に変わってきている。


そんな気がしてならないのだ。


だからこそ、私はこの気持ちを不思議に思っている。



〜本編〜

『ワインって老舗かなにかで買った方がいいのかな?』


『子供にお酒の話をしないで下さいよ。わかるわけないじゃないですか』


『ボクも年齢的にはまだ子供だよ…』


『煙草を吸っているじゃないですか』


『煙草を吸っているから大人ってわけじゃないんだよ』


と言うか、煙草を吸うから大人って。


考え方がおかしくないか。


まあ、子供だから仕方ないと思うけれど。


『あー…面倒くさいけど仕方ない。霊華さんに聞くしかないか』


ため息をつきながらポケットから携帯を取り出して霊華さんの番号を探す。


えっと…


『凜さん、鬼を殺そうとしている人と番号を交換しているんですか?物好きですね』


『あー…うん。雪さんが携帯を持とうとしないから霊華さんの仕事の呼び出しはボクか七花さんに来るようになっているんだ』


『なるほど。仲介者の様な感じですね』


『うん、まあそういうこと』


ようやく、霊華さんの番号を見つけ通話ボタンを押す。


『なんですか?仕事の用件はいまはないんですが?』


数秒、通話音が聞こえた後すぐに霊華さんの声が聞こえてきた。


もの凄く面倒くさそうな声が。


『あ、もしもし?えっと…霊華さんに聞きたいことがあって』


『聞きたいこと…ですか。なんです?』


『えっと、ワインの事で質問が』


用件を言うとガタッと電話越しにそんな音が聞こえてきた。


どうやら、急に立ち上がり椅子を倒したらしい。


『ワイン…ワイン…ワイン』


『あの…霊華さん?』


電話越しにブツブツと霊華さんの呟く声が聞こえる。


もの凄く怖い。


『私にはワインを飲むような暇もないのに…貴方達は…くぅ…』


霊華さん。


仕事のし過ぎで遂に頭が…


『はっ!いえ、なんでもありません。そうですね…では、私のワインを分けてあげますよ。最近飲めていないので休憩がてらに差し上げます。警察署に取りに来てもらっていいですか?』


『あ、はい!わかりました。えっと、指定された銘柄は…○○○○です』


分けて貰えるとは、ありがたい。


どうせ、経費とかで落ちないだろうし。


『は?…殺人鬼さん。そのワイン…』


そこで、霊華さんの言葉が止まる。


どうかしたんだろうか?


しばらく停止してから霊華さんは口を開き…


『…数千万円以上するものですよ。まあ、あるので分けてあげますけど』


予想外の情報を教えてくれた。


うん、その情報は知りたくなかった。


『それでは、また後で』


霊華さんのそんな言葉が聞こえた後に通話がきれる。


『どうかしましたか?』


携帯をポケットにしまいつつ会話が聞こえていないため不思議そうにしている粉雪ちゃんになんでもないと言って笑った。


…また、霊華さんに借りを作ってしまった。


心の中で涙を流しつつそんなことを思いながら。

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