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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
ショートストーリー
42/79

お使い

私が孤独である時、私は最も孤独ではない

〜キケロ〜



雪さんの部屋の玄関の扉を開けた途端、粉雪ちゃんの刃物のように尖った爪が目の前に迫ってきた。


それを首を傾けることによりかわし彼女を投げ飛ばす。


彼女は投げ飛ばされ地面に足を着けた瞬間、身体をバネにし逆にボクを寝技へと持ち込もうとする。


寝技に持って行かれる前にナイフを腰から取り出し彼女の胸元へと向かわせる。


いつもの殺し合いなら突き刺す寸前で止めるのだが今日の彼女は違った。


ナイフが自らに届く前に寝技を掛けようと使った腕とは逆の腕でカウンターのように掌底を放ってくる。


その手が届く前に重心を左へと傾け回避し逆に寝技を掛け返す。


右腕を両足で固め捻りしばらく掛け続けていると粉雪ちゃんはボクの下で動かなくなっていた。


なにやら、ピクピク痙攣しているようだ。


『はい、今日の殺し合いは終わり。続きはまた明日だね、粉雪ちゃん』


『うう…また、殺せませんでした』


寝技を解いてやると掛けられた右腕を押さえながらスクッと立ち上がり悔しそうに顔をしかめている。


『まあ、今日は今までより上手く狙って来てたと思うよ』


『凜さんに褒められても嬉しくないですよ』


そう言って、笑いながら部屋の奥の方へと進んでいく。


雪さんの所へ報告に行くんだろう。


まったく、粉雪ちゃんにも困ったものだ。


毎回訪れる度に襲いかかって来るんだから。


そんな事を思いながら玄関に靴を置きボクも部屋の奥の方へと粉雪ちゃんに続く。


『やあ、凜君、三日ぶりだね。今日も粉雪君に殺されそこなったのかい?』


『いや、殺されそこなったって…ボクに自殺願望なんてありませんよ』


『おや、そうだったかい』


雪さんはそんな風に軽口を叩きながらソファに座りホットミルクを飲んでいた。


この人が回転椅子に座っていないなんて珍しい。


いつもならクルクルと回っているのに。


『いい加減、殺されて下さいよ。凜さん』


雪さんに便乗する形で粉雪ちゃんが話に入ってくる。


『嫌だよ。絶対に粉雪ちゃんには殺されてあげないからね』


そう言って室内でコートを脱ぎながら粉雪ちゃんに向けて微笑みかける。


それが不快だったのか、雪さんに甘えながら粉雪ちゃんはこちらを思い切り睨み付けてくる。


うわ、怖い。


そんな少女の甘えを雪さんは優しく微笑みながら受け入れ精一杯甘やかしている。


って、いつの間にここまでの仲になったんだろうか。


まあ、ボクがいない間も二人で一緒に暮らしてるんだから仲良くなるのは当たり前だろうが、それにしても仲が良すぎるんじゃないだろうか。


『おやおや、嫉妬かい?君も甘えてきていいんだよ?凜君』


『人の心を勝手に読まないで下さい。後、嫉妬なんてしてません』


『ふふ、認めてるじゃないか』


ソファから立ち上がりボクの元へと歩いてきてこちらへとメモ用紙を渡してくる。


『なんですか?これ』


『なにって、お使いだよ。お使い。粉雪君と一緒に行ってきておくれ。二人仲良く一緒にね』


雪さんはそう言って嫌らしくニヤニヤと笑ったのだった。


思えば、この時から雪さんの掌の上で踊らされていたのだと思う。


こうしてボクと粉雪ちゃんのドタバタとした一日が始まった。

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