有象無象
疑われたことは1度もなかった
〜西口彰〜
風呂から上がり雪さんの部屋に戻ると粉雪ちゃんは既に眠ってしまっていた。
きっとボク達を待っている間に眠ってしまったのだろう。
ベッドではなく床で可愛らしく寝息をたてていた。
『粉雪ちゃん寝ちゃいましたね。雪さん』
その仕草を見て思わず笑いながら雪さんに話しかける。
風呂場ではあまり気にならなかったが言葉少なめになっていたところから判断するにあのときにはもうかなり限界が近付いていたのだろう。
今日一日中雪さんに振り回されていたのだ。
疲れないわけがない。
ましてや、粉雪ちゃんの様な大人しい系の少女じゃ無理に近いだろう。
と言うか、無茶だ。
『ふふ、そうだね。まあ、なんだかんだ言っても粉雪くんはまだ子供だからね。はしゃいでいたら疲れるだろうさ』
そうですよね。
では、一緒になってはしゃいで風呂場で眠っていた雪さんも子供ですね。
ボクの考えを知ってか知らずか雪さんはクスクスと笑っている。
まるで、昔のことを思い出してるかのような表情だ。
だが、それがなんなのか彼女の口から聞くことはないだろう。
だから、あえて聞かないし追求などしない。
少しの間笑った後雪さんはなにかを思い出したかのように手を叩く。
『そう言えば、マンション内を案内しているときに柊くんに出会ったよ。相変わらず彼は面白いね。彼に会ったことで粉雪くんは精神的に衰弱していったのかな』
確実にその通りです。
彼に出会ったのなら、疲れるはずだ。
ちなみに、先程から言葉として出ている柊さんとはこのマンションの少ない住人の事である。
今は詳しい説明などは省くが。
まあ、15歳未満は視聴禁止と言われても仕方ないような人だと思ってくれればいい。
『そう言えば、彼から君に伝言があるよ。聞くかい?』
あの人からの伝言。
あまり聞きたくはないが拝聴しよう。
『はい。嫌々、聞かせていただきます。』
『ふふ、嫌々か。じゃあ、ボクは嬉々として話すとしようかね』
そうして、雪さんが話そうとした時不意に外から爆音が聞こえた。
『銃声!?なんでっ』
それに続いてガラスが割れる音が重なり続いてたくさんの足音が聞こえてくる。
どうやら、マンションの正面玄関が破られたようだ。
『雪さん!』
『ああ、行っておいで。ボクはここでミルクでも飲みながら待っているよ』
雪さんの許しを得た瞬間、ドアへと走りジャケットを羽織って外に飛び出す。
玄関先からは下の様子が伺えないが七花さんの怒鳴り声が聞こえその後になにかを叩きつける音が連続で聞こえてくる。
その音を聞きながら階段を走り降りる。
焦燥に駆られながら転がるように一階の踊場に出るとようやく七花さんの声が聞こえた。
『なんなのよ!あんたたち!』
七花さんの激昂した声の方向に顔を向け戦慄した。
そこにいるのは無数の人影。
人影。
人影!
何人いるのかは読めない。
だが、彼らの顔だけはよく見える。
その見覚えのある表情。
まるで、麻薬患者のようなその表情は…
『食人鬼…そんな、なんで…』
無数の食人鬼がマンションを覆い隠すように存在していた。




