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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
食人鬼
12/79

秘密

オレは精神異常やない。

道徳と善悪をわきまえんだけや

〜梅川昭美〜

東雲凜は自らの殺し方を好まない。


まるで楽しい殺しあいにならない上に正面からぶつかってきた相手に対して失礼に値すると思うからだ。


殺しあいをしている時点で失礼などない気もするが。


殺すのは嫌いだが殺しあいは好きだった。


お互いの全生命を掲げた戦いにギリギリの線上での駆け引き。


殺しあうたびに胸が高揚し楽しさが深まる。


そんな楽しいものを自らの卑劣な行いで汚すのだ。


自らの殺し方を好きになれる筈がなかった。


自らのポケットからタバコを取り出し口に加える。


そして、ライターを使って火を点ける。


すると慣れた心地のよい煙が身体中を駆け抜けた。


その煙を1つたりとも逃すまいと口の中で堪え一気に吐き出す。


それもまた、殺しあいの後の楽しみだった。


いや、それは極限の状況から抜けることが出来た安堵が態度に出ているのかもしれない。


そんなことを考えながら左手のナイフを握り直す。


最早、握り慣れたそれを手の中で弄りながら歩く。


さあ、行こう。


あと一人だ。


『どうやった?今のは』


仲間が殺されるのを目の前で見ていた細身の男は凜が近付いたからか、笑いながら尋ねてきた。


『玲音の槍は完璧にお前の頭を貫ける体勢だった。なのに、今生きているのは玲音ではなくお前だ。一体、どうやった?』


凜は首を竦めながら『さてね』と、答えた。


細身の男はその答えに苦笑しながらなお尋ねた。


『なあ、お前。そこは居心地がいいか?』


『は?』


凜は男の問いの意味が解らなかったらしい。


男の問いに対し間の抜けた返事で返した。


『居心地がいいかと聞いたんだ。我らが鬼の祖。鬼の誰もがあの方の隣にいたいと思うだろう。その方の隣に…いや、あの方の妹君を殺してまで得たその場所は心地いいか?』


動いたのは一瞬。


男が言葉を言い終えるや否や凜のナイフと男の小太刀がぶつかり合った。


お互いの凶器が拮抗する。


『ククッ…図星だったか?』


その凜の行動に対し男は哄笑した。


凜の押す力が強くなる。


が、それが男の狙い。


一瞬手元を緩くし一気に凜の後ろをとる。


それにより、凜は前のめりになる。


男はそこを狙い背中を一文字に切り裂いた。


だが、凜は切られたことを気にせずに一気に裏へとナイフを振り抜き男の胸を切り裂く。


『がっ…!?』


男は胸に出来た傷を押さえながら後ろに下がる。


それを凜は逃がさない。


一気に間合いを詰めて男の胸下に入り込み上に向けて切り上げた。


まるで、男の胸に十字架でも彫るかのように。


だが、まだ凜は止まらない。


痛みに胸を押さえる男の足の健を切り顔面を蹴り飛ばした。


『ぎゃっ…!?』


男は壁に叩き付けられヒキガエルのような鳴き声を洩らす。


しかし、男は不遜な笑みを崩さない。


殺されかけているのに楽しそうだ。


『かっ…はぁ、はぁ、ククッ、予見してやるよ、殺人鬼。お前はどこまで行っても人殺しだ。お前は一生日の目は見られねえよ。さあ、俺達の世界に堕ちてきな。あの方の妹君を殺し…』


男が言い終わる前に男の四肢が爆散した。


まるで、幾千のナイフで切られたかのような切り傷を残しながら。


男の体が弾け飛び辺りに鮮血が舞い散った。


それは凜の身体中を真っ赤に染めあげた。


それを遠目に見ながら凜はまだ殺意を治めない。


煙草は…吸わない。


あと一人殺さなくてはならないからだ。


そう考えて少女の方を見た。


自分の殺人現場を見て震えている可愛らしい少女を。


さあ、あの子を殺そう。


自分の秘密を知られてしまったのだ。


殺さなくてはならない。


ヒタリヒタリとナイフをぶら下げながら青い顔をした少女の元へ近付いていく。


なに、あの食人鬼達に殺されたことにすればいい。


自らの力が足りなかったと謝ればいいのだから。


さあ、殺そう。


少女の元に辿り着く。


だが、少女は動かない。


左手のナイフを振り上げる。


だが、少女は動かない。


だからボクは少女にナイフを振り下ろした。

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