3.公爵家メイドとして
採用された翌日から私はあわただしく働いている。
ヴァイオレット様付きとなったことで、早速ご挨拶をしに行ったのだが、お仕えしているメイドがみんな40歳以上。一番若い私との間にはマリアナ海溝よりも深い溝がある。
やはり王太子妃懐妊のニュースのせいで、若いメイドが軒並み家に帰ってしまったりしているらしい。
公爵家に奉公に来られるのは子爵以上なので、なおさら人が減っているのだ。
王子が生まれた場合、伯爵家クラスのご令嬢であれば妾になれる可能性もあるし、うまくいけばその子が王になる可能性だってゼロではない。
そうすれば、王家と縁ができるわけだから野心が強い人は特にそうだろう。
「サリナ、今日のお茶は何かしら?」
「隣国より取り寄せたハーブティーでございます」
私はすっかりヴァイオレット様の専属になってしまった。
歳が近かったのもあり、ヴァイオレット様が心を開いてくださったと言ってよい。
というかアラフィフのメイドさんたちだと「公爵夫人にふさわしくない」だとかなんだとか小言を大量に言うもんだから、ストレスがたまっていたんだろう。
グルード公爵令息に泣きついて、私を専属にしてしまった。
ヴァイオレット様だって伯爵家の出なので、ふさわしくないなんてことはなく、所作も綺麗だし、3か国語も理解されておられるしで、十分な方だと思うのだ。
現在の公爵夫人が5か国語話せて、元王族なのが悪い。
現国王のお姉さんなのだ。
公爵家に嫁いで来られているせいで、アラフィフメイド達はどうしてもヴァイオレット様と比較をしてしまうので、あのような言い回しになってしまうのだろう。
その点私は、奥様とのかかわりがない。
というより、嫁いで来たら王太子妃懐妊のせいで若いメイドが軒並みやめてしまったのは運が悪いとしか言えない。
もしかすると、折角妊娠されたのに、これら外野のメイドの話などのせいでストレスをためられて出産時に亡くなられたのではないだろうか?
「サリナ君、君に紹介したい人がいる。できれば結婚も考えてくれると助かる」
グルード様から声をかけられ、執務室へ。てかお見合いがセットされた。
相手はアシュレイ公爵家に仕える執事の息子さん17歳。
ようは、乳母にならんか?と言われているようだ。
スカーレット様の年齢から逆算すると、たぶん今年には生まれるはずなんだが、今からで間に合うのか?
「いまから子をなしても、ヴァイオレット様が出産されるタイミングには間に合わないと思いますが…」
「しかし、いまから乳母を探すと言っても人手不足で捕まらないのだ、申し訳ないが、アシュレイ家のために協力してもらえないだろうか?」
うん、まぁ考えていたことではあるので、お見合いはするけれど、嫌だと思ったら断れることの言質をもらいお見合いをすることにした。
「はじめまして、ジョシュ・マーフィーです。アシュレイ家に仕えるマーフィー子爵家の長男です」
「はじめまして、サリナ・ミラフォードです。子爵家の出で今年からこちらでメイドをしております」
見た目可もなく不可もなく、私と同じ茶の短髪をきっちりと油でセットしており、次期執事感がすごい。
私も今はひっつめがみなので変わらないか。
「素直に、思ったよりお綺麗な方だった。私は今後もアシュレイ家をしっかりと支えようと思っている。特に若奥様の娘さんのためにも私と一緒になってもらえないだろうか?」
この時代、出生前に性別がわかるなんてことはない。
私は引っ掛かりを覚える。
「ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「私は、ヴァイオレット様の"お子様”を歪み無くしっかりと導ける様にこのアシュレイ家を裏から支えたいと思っております。ジョシュ様はいかがお考えですか?」
ジョシュ様の顔が一瞬びっくりしたものに変わる。
ちょっとした確信があった。
そもそも、若奥様の子供が”娘”であることが分かる方法はない。
それに、幾ら公爵令息からの命とはいえ今まで顔も合わせたこともない女と、いきなり子を作れといわれたらふつう断るんじゃないかと。
はじめから、私との結婚で何かを成す気なのではないかと。
そこで思いついたのが、私と同じ「転生者」の可能性。
なんなら同好の志。
私は揺さぶりをかけてみることにする。
「私はアシュレイ家、ひいては”スカーレット”様を守るために…」
「まさか、君も転生者か」
わたくしガッツポーズ。
同志だ!
「はい、フルチカでもスカーレット様ガチ勢でございました」
「私と同じね!」
「ん?」
「あー・・・ごめん。私元は女性でね」
「まじすかTS転生!?」
「いやーびっくりするよね…で、さっきの言葉に嘘はない?」
「ないわね。出来る事なら専属メイド、最大限で乳母になることまで考えていたから」
私たちはがっちり握手をした。
利害関係が完全に一致したのだ。
私たちは即日入籍を報告、グルード様はポカーンとされていた。
だがそんなことはどうでもいい。
なるべく日をずらさずに子をなす必要がある。
私たち二人はその日から同じ部屋を使うことの許可をもらい、毎日頑張ったのであった。
「無事、妊娠いたしました」
「そ、そうか」
グルード様が引いている。
だが、これで乳母として確固たる地位をゲットできる。
なんなら乳姉妹になれる可能性もある。いや弟かもしれないが。
ともかく、こんな設定は原作にはない。
また、私とちがい、ジョシュは前世で出産の経験があったらしく、貴族の偏った食事ではなく、ジョシュが考えた妊婦用の食事をとり、ヴァイオレット様と一緒に過ごしている。
もう少し安定したら、動ける日は動いたほうが良いとのことなので、毎日公爵家のお庭のお散歩をする予定。
ヴァイオレット様の経過は順調。
そして、グラッド様は隠居を決定し、家督をグルード様に譲ることになった。
グルード様はすでに宰相補佐としてグラッド様を支えていたので、家督を譲られたことでついに、公爵家当主となられ、正式に宰相になった。
また王太子殿下も第一子が無事に生まれれば、国王になるとのこと。
いよいよ舞台が整いつつあるなとジョシュと共に、今後について様々な作戦会議を行っている。
幼少期教育をどうするのかとか、家庭教師をいつつけるか、またどのような家庭教師が良いか等である。
二人の最推し、スカーレット様を救うため、やれることはすべてやる所存。
というか、結婚してから、子供ができたであろうことがわかる1ヶ月の間、かなり互いに頑張ったせいで、なんとなく愛が生まれた気がするのだが、これって正しい愛だろうか?
まぁジョシュはちゃんと男性として私を気にかけてくれたりしているので、同志であるとともに、ちゃんと仲良くなれるように会話もスキンシップもしている。
ジョシュが「好きだよ」と言ってくれるので、私もちゃんと「好きだよ」と返している。
言葉は呪いなんて言うけれど、これでちゃんと夫婦になれれば良いなと思う。
評価・ブクマ・いいね・感想お待ちしております。
誤字報告もぜひしていただければと思います。




