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雑記 1week  作者: 野原いっぱい
6/11

Thursday 最弱戦士でどう戦えばいい 


挿絵(By みてみん)

ここはオリュンポス山の頂上にある宮殿。

天井や四方の壁に鮮やかな装飾が施された部屋に、十二脚の豪華な椅子が円形に並べられている。

そして、ここに住まう十二の神々が席に着いていた。


治癒薬の処方で、猛威を振るった感染症から彼らが快方に向かっていることにより、最高神ゼウスの下命で集められ善後策を講ずることになったのである。

冒頭、ゼウスが口火を切った。


「既に承知していると思うが、敵神との間で取り決めた闘技会が間もなく開かれる。双方が選抜した戦士が戦い、その勝者がこの世界に君臨することが出来る。我が方はお互いの約束に従って、我々の造形物である人間界から、出場戦士を探すため、唯一感染していなかったヘリオスにその役目を仰せつけた。ところが、あやつが連れてきたのは、ほれこの通り」


ゼウスが指を鳴らすと空間に待機部屋が映し出され、候補者三者の今の様子が見られた。


「スポーツの応援をやっていた人間。戦闘にかり出された馬。それにゲームソフトの中のキャラクターだ」


皆、唖然とした表情で見上げている。

軍神であるアレースが言った。


「これはどういうことだ。こんな連中では戦えないではないか。アトラスは何を勘違いしていたんだ」


「ずっと天球を担いでいるから、頭がおかしくなったのかもしれないわね。アトラスはどうしているのかしら?」


大地の神、デーメテールが尋ねた。


「西の果ての地に戻って行ったわ。私たちから責められるより、天球を担いでいるほうがましだ、と言ってね」


ヘーラが答える。


「我々で新たな戦士を探す必要がありますね」


伝令神のヘルメースが言うと、ゼウスは首を横に振った。


「駄目だ、もう時間がない。そこで名案がないかを聞くために集まってもらったのだ」


アポロンが提案した。


「どうだろう。英雄と言われているヘラクレスやペルセウスを人間と偽って出させては?」


「ばれるに決まってる。あれほどの病原菌を創ったぐらいだ。敵神も馬鹿じゃないさ」


海神のポセイドンが否定した。


「強力な武器を持たせてはどう?」


狩猟の神アルテミスが言うと、今度はヘーパイストスが反対した。


「人間はともかく、馬やゲームキャラクターがどうやって武器を使うんだ」


「いっそのこと奇抜な作戦で相手を翻弄させてはどう。それぞれの特技を生かして相手が油断する隙に、別の戦士が襲い掛かるっていうのは。もちろん私たちが事前に強化するわけだけど」


愛の女神アフロディテが提案すると、竈の女神ヘスティアが反論した。


「駄目よ、そんなの。相当腕の立つ戦士が出場してくるはずよ。小手先では通用しないと思うわ。三体いっせいにかかっても勝ち目ないかもしれないわね」


「それよ、それ。その方法があったわ」


知恵の神アテナが発言。皆が一斉に彼女の方を向いた。


「どうやら、そうするしか勝ち目ないわね」


そして、その方法を話し始めた。


****

アトラスが連れてきた3戦士のいる部屋は不思議な空間であった。

見上げれば天井はなく青々とした空があり、周囲には壁らしきものもなく下界が180度眺望でき、辛うじて雲に覆われた床があるだけであった。

ただ、動くことが出来るのはある程度の範囲内に限られ、床ごと空中に浮かんでいるといってよかった。


それぞれ、プロ野球の応援団長。

戦場を駆け回った馬である飛龍。

そして、ポケモンゲームのキャラクターであるリザードンであった。

三者ともここに閉じ込められ、顔を合わせたこと自体が驚きであったが、もっと奇妙なことは、お互い意思疎通ができることである。


団長が言った。


「おったまげたなあ。こんなところに来たのもびっくりだけど。なんであんたたちと話ができるの?訳わかんねえ」


飛龍も同調した。


「私もですよ。人間と会話ができるなんて思ってもいませんでした」


今度はリザードン。


「僕の場合は、通常ゲームの中では、言葉はないんです。なのになぜこの場で喋れるのかさっぱり」


団長が引き取った。


「夢でもみてるんかなあ。それともビールの飲みすぎで頭が変になったのかも。そうそう、俺は居酒屋で阪神の優勝祝いに出てたんやけど、途中でアトラスという男が現われ、一緒に来てくれと言われたんや。なんかそいつの目を見た途端断れなくなってしもて、ついていって、入り口の扉を開け表に出たと思ったら。ここやったんや。びっくり仰天や。先におったあんさんはほんまに馬かいな。誰かが変装してるんとちがうか?」


「いえ、私は正真正銘の馬ですよ。詳しく言うと、戦場で戦士を乗せてその指示通り走り回る軍馬なんです。ところが私に乗馬した兵士たちはことごとく死傷しましたが、私だけは無事に役目を果していたんです。アトラスさんはそれが気に入ったようで、孔明将軍に頼んで私に跨りました。すると突然、宙に浮いて進みだし、気が付いたらここの上空に来ていたんです。恐らく下にいた兵士たちは驚いているでしょう。そうそう、あなたが扉開いてここに入って来た時、向こう側がちらっと見えたのですが、他の人々は眠っていたようですね」


飛龍がそう言うと、団長が答えた。


「あんたの言う通り皆寝ちまってたんや。それまでガヤガヤ賑やかやったんが、アトラスが手を回した途端、急に静かになってな。あら、魔法を使ったとしか思えんわ」


今度はリザードンの方を向いて尋ねた。


「あんさんは何で宙に浮いているんや。それにどこかで見たことあるなあ」


「僕は世界中で超人気のポケットモンスターゲームのキャラクターでリザードンって言うんだ。数多くのモンスターの中で、もっとも強いって言われてるよ」


「そうそう思い出した。そのゲームは俺も好きなんや。何度もやってるわ」


「だから、ゲームの途中で運がよければ現われるキャラクターなんだ。あの時も街の子供たちが僕を捕まえにきて、誰かが『ゲット』と言った後で、すぐに建物が崩れ出しみんな埋まっちゃったんだ。それをアトラスさんが皆を助けて、その後で一人のスマホの画面から僕を取り出し、そのままここまで来て、ここに放り出されたんだよ。あの子供、捕まえたはずの僕がいないと知ったらショックだと思うよ」


「そんなことたいしたことないやろ。なんで俺たちがここに連れてこられたってことを知りたいんや」


今度は飛龍が言った。


「そういえば、アトラスさんは強い戦士を探していたように思うんです。むしろ、私の主人である張飛将軍に目をつけていたようなんです。張飛将軍は他に並ぶものないほどの戦士だったんですが、既に亡くなっていて、私に乗っていたのは替え玉だったんです。その代わりに私が連れて来られたんだと思います」


「だとすれば、僕だってそうだよ。さっきも言ったけどポケモンの中では最強って言われてるんだ」


それを聞いた団長は全く心当たりがなかった。彼自身、応援はするが、生まれてこのかた闘いには縁がなかったのである。


「ま、まあ仮にそうだったら俺たちはこれから何をすればいいんや」


その時、急に彼らの頭の上から声が聞こえてきた。


「お前たちが何をするのか、これから説明しよう」


さらに、一瞬にして周りの様子が変り、彼らのいるところは、広々とした部屋であった。

今度は天井も壁もあって、全体が明るかったが、何もなくがらんどうであった。


それも束の間、正面の壁の一部が開き、そこから人が次々と中に入って来た。

皆様々な衣装をまとい、装飾品を身につけていた。

また、ある程度男女の区別もついた。

一番前にいる男が言った。


「アトラスは何も言ってなかったようだな。困ったものだ」


見た目に威厳と風格があり全身からオーラがほとばしる。


「お前たちは選ばれ、闘うためにここに来てもらった」


「た、闘うって。いったい誰と・・」


辛うじて団長が問い掛ける。


「我々はこの世界を創造し支配する神々。オリュンポス山頂の宮殿に住まい、人間界のことも全て理解している。私はゼウスと言い、神々を統率する者。数万年もの間この世界を導いてきたが、今になって新たな敵が出現し、この世界を乗っ取ろうと企てている」


団長は唖然として聞く以外なかった。


「ただ、我々神々どうしが戦えば、この世界は破壊されてしまうだろう。敵神もそれは望まず、提案してきたのは、それぞれが創造した生命体を三体選んで戦わせようというもの。勝者がこの世界に君臨し、敗者は去る。我々はある事情でそれを受け入れざるを得なかった」


「ま、まさか俺たちが選ばれたのは・・」


団長は馬の飛龍とキャラクターであるリザードを交互に見て恐る恐る尋ねた。


「そう、お前たちに相手戦士と闘ってもらう。だが、敵は相当強力な戦士を出してくるだろう。お前たちになんとしても勝ってもらわねばならない」


「そんなアホな。恐らくとんでもない怪物が出てくるんやろ。勝てっこないわ」


「そう、アトラスはとんだ心得違いを犯したようだ。お前たち三体が寄ってたかっても、相手の一体に簡単に葬り去られるだろう。だが、なんとしてもお前たちに勝ってもらわねばならぬ。そうでないと、我々神々だけの問題だけではなく、敵神が都合の良い生態系に造り替えるために、人間界に住まう生き物すべてが絶滅する恐れがあるのだ」


「そら困るわ。人間も馬もいなくなるんやろ」


「その通りだ。だから我々神々が知恵を出し合った。そしてこの方法しか勝てないとの結論に達した」


「どんな方法でしょう。私は協力させて頂きますよ」


「僕もだよ」


飛龍とリザードンが言うと。

団長も観念した様子で応えた。


「しゃあないなあ。で、どのような方法があるか聞かせてくれへんか」


「良く言った。では説明しよう。これからお前たちを戦士に相応しい姿に改造する。そのうえで、今ここにいる一二神それぞれが有するパワーを違反にならない範囲で注入する」


その後もゼウスの話しは続けられたが、果たして可能なのか三者にとっては信じられない内容だった。


****

ここは雲海の一画に設けられた円形競技場。

これから現世界の覇権を賭けた格闘イベントが行われようとしていた。

場内は、方々から集まってきた双方の神々で満席となり、競技の始まるのを待ち望んでいた。

出場者はそれぞれ三戦士ではあるが、一体ずつの勝ち抜き戦で、最後に残った側が勝利を手にする。

双方の神々の存亡が掛かっており、応援する者も真剣に見守っている。


最上席には最高神ゼウスと敵である宇宙神が控えていた。

宇宙神が言った。


「当方は屈強の戦士を揃えてきた。三体とも粒ぞろいだ。圧倒的勝利を手にしよう」


ゼウスは言い返す。


「なに、こちらは最強戦士を出場させる。その一体で充分。相手の戦士すべてを打ち負かすだろう」


「なに、一体だと。大きくでたな。では早速始めようじゃないか」


両者が同時に手を上げると、闘技場の正反対に位置する二つのゲートが開いた。

観客席が一斉にどよめく。


オリュンポス神側の戦士が姿を現した。

顔と腕は団長そのもので、両手にはラッパとメガホンを持ち、胴体及び4つの脚は飛龍、さらに胴の側面に羽根が付いているのはリザードンのものと思われる。

ゼウスの言った改造とは、三者を合体させることだったのだ。

だが、それによってパワー強化につながっているのか、実戦で確かめる以外なかった。


一方、相手側の戦士も登場したが、体形は人間に近かった。

ただ大きな違いは、顔が表と裏側の両面についており、それも鬼のような面相で凶悪。

さらに、腕も脚も筋肉が盛り上がっていて、前にも後ろにも動かせるような肢体であった。


最上席の宇宙神が言った。


「あの者は、我が領域に闘うために造られた部族があり、その中でも最強戦士でガリラと言う。前後どちらにも動けるため、容易に相手を捕まえることができ、そして恐るべき怪力で体をへし折ってしまうだろう。そちらは、妙な体形の戦士を選んだようだが、恐らくこの一戦で決着がつくだろう」


これに対し、ゼウスが反論する。


「果たしてそうかな。我が方で自信をもって選んだ出場者だ。どんな相手であっても勝利は間違いない。名前はダンリュウドンと言う」


といったものの、内心不安であった。


(やっつけろ、やっつけろ!)

(倒せ、倒せ!)


観客席から双方の応援する声が飛び交っている。


一方、闘技場の出場者ダンリュウドンの体内では、三者の意思の伝達があった。


『こらやばい。こんな怪物、捕まったら勝ち目がないぞ』

『そうですね。ある程度距離を保ち、隙を見てたたく。それしか方法がなさそうですね』


ダンリュウドンは間合いを取って、様子を見ようとした。

けれども、ガリラは躊躇せず両手を伸ばし突っ込んでくる。


「グワー、その体へし折ってやる!」


団長は避けながらラッパで腕を叩く。

ヘーパイストス神に強化してもらったはずだが、全く効き目がなかった。

4脚で素早く走り後ろに回り込んだが、ガリラは後頭部にも顔があり、後ろ向き、いや、前向きかもしれないが、突っ込んでくる。

手足も関節が180度回転し目の前まで近づく。

今度はダンリュウドンも体を回し、後ろ脚で蹴り上げる。


けれども効果はなく、何度も後ろ向きで蹴り続けたが、とうとう片脚を握られてしまった。ガリラは腕を回転させて、思い切り闘技場の横壁に目掛けて放り投げる。ダンリュウドンは、頭からぶつかり、壁が壊れめり込んでしまった。


(ヤッター、ヤッター)

(勝負あったー)


衝撃音を耳にし誰もが決着がついたと思った。

しかしながら、まだ終わってはいなかった。


ダンリュウドンは両手を壁面につけて、中に入った頭を取り出した。


『大丈夫なの団長』


リザードンが尋ねると、首を振りながら答えた。


『ああ、なんとかな。どうやら皮膚を頑丈にしてもらったおかげやな。人間のままやったら一巻の終わりやったわ』


「しぶとい奴め。だが、すぐに楽にしてやる。観念しろ、グワー」


再び、ガリラが突進。

前後いずれも振り返ることなく瞬時に動くことができた。

ダンリュウドンも必死で避けようとしたが、今度は首を両腕で挟まれてしまった。


「今度こそ終わりだ、へし折ってやる」


ガリラが力を込めて締め付けにかかる。

ところが、首の表面がつるつるで、挟んだ腕が徐々に上部に滑っていく。

団長のが顔全体を押し下げているのだ。

そのうち、頭がすっぽ抜けてしまった。


『アフロディテ神が美を保つために聖水を使っていて、塗ってもらったんです。効果ありましたね』

『危なかったわ。なんとか逃れたけど、やっつける方法がわからんわ』

『いえ、あいつにも弱点があるかも。目が表と裏4つに手足がひっくり返るということは、もしかして』

『なんやそれ』

『僕の作戦では・・』


リザードンが説明する。


「こしゃくな。こうなりゃ叩き潰すのみ。グワー」


逃れはしたが、再び両腕を振り回し迫って来る。

当たればダメージが大きく、闘技場の中央に後退していく。

だが、これこそが狙いの行動であった。

ガリラが中央にきたとき、拳が当たらない程度の間隔を置いて、その周囲を疾走し始めた。

駆ける速度はヘルメス神から俊足を授かり倍速している。

ガリラは腕を伸ばして突いてはいるものの距離があって当たらない。

その回転への対応はガリラにとって、目の表裏移動、手足関節切換の繰り返しとなって、それぞれに負担が増していく。

そして、かなり回った段階でガリラは堪えきれずにひっくり返ってしまった。

どうやら、目が回り、関節疲労が起こったようだ。

その瞬間、ダンリュウドンがⅤサインを掲げる。


(やったー、やったぞ!)

(なんてことだ。信じられない)

(勝った勝った、大勝だ!)


宇宙神が渋い表情でゼウスに尋ねた。


「あのダンリュウドンという戦士は本当に実在する生き物なのか?」


「ああ、間違いない。突然変異ではあるが正真正銘の固有種だ。怪しいと思うなら透視して確かめればいい」


「まあいい。次の戦士には勝てっこないわ。第二ラウンド始めるぞ」



宇宙神の合図で、闘技場では横たわっているガリラが担がれ退場した後、次の出場者が現われた。

だが、見た目に、戦士として相応しい体形ではなかった。

身長はダンリュウドンの半分くらいで、手足は短く、顔も小さめで口が尖っている。

さらに、腹部は褐色で瘤が一面にあり、背中には大きな甲羅が付いている。


「あの体型で戦えるのか?」


今度はゼウスが尋ねた。


「そう、ガメリックと言って、マグマ領域に住む種族で、最も優れた能力の持ち主を出場させた」


「どんな能力を持っているんだ?」


「それは見てのお楽しみだ」


ダンリュウドンは闘技場の反対側を左右に動きながら、相手がどういう戦法で出てくるか様子見をすることにした。

けれどもガメリックはその場に止まったきりで一向に動く気配はない。

更に、手足に体全体が停止状態で一向に攻撃してくる様子はなかった。

ただ、目はダンリュウドンの動きを追っているようだ。


このままでは、埒が明かないと思い、少しずつ近寄り、隙があれば、強化したラッパやメガホンで打撃を加えることにした。


ところが、ある程度の距離まで近づいた時、突然ガメリックの体全体が赤く変色し始めた。

更に体の輪郭が輝き出した。どうも様子が変だと思った直後、口先が開きダンリュウドン目掛けて炎を噴き出した。

辛うじて避けたが、熱気が肌に伝わってくる。

もしまともに浴びてしまえば、大やけどしてしまう。

炎は次々と口先から吐き出され、ダンリュウドンは闘技場内を逃げ回る。

どうやらガメリックの体内には、火炎源が存在しているようだ。

そして、驚くべきことに、炎が通過した地面は、高熱にさらされ燃え続けている。

炎の噴出が何度も繰り返されているため、安全な場所が徐々に少なくなっている。


(なんてことだ。こらおったまげた)

(このままでは、闘技場全体が燃え上がちゃうぞ)

(こりゃあ、勝てっこない、勝てっこない)


『もう逃げ場がありません。火をまともに浴びてしまいます』

『熱くてたまらんわ。リザードン、なんとかならんかいな』

『じゃあ、僕の出番だよ。いくよ!』


絶対絶命のピンチとなって、ダンリュウドンは羽根を羽ばたかせた。

すると宙に浮き、徐々に上昇しだした。

そのまま闘技場を見下ろし旋回する。

地面はもはや全面火の海となっている。


『なんや、飛べるんやったら、もっと早うにせんかい』

『でも、このままでは手も足もでませんね。あの火を消さないと攻撃できません』

『それだったら団長、飛龍。確かポセイドン神が、体内に泉があるので水を吐き出せるって言ってなかったっけ』

『おうおう言ってたな。やってみるぞ。ラッパを口に当てて、思い切り吹くぞ。腹から押し上げてくれるか!』


腹部の水源をリザードンが圧迫すると、喉の奥から水分が沸き上がってきた。

そして団長がラッパの開口部に向けて吹き飛ばすと、なんと大量の水が地上に蒔かれていく。

微量の水分が数百倍に膨張して放水される。

燃え上がっている火炎はみるみるうちに消えていく。


『よし、今や、上から攻撃や!』


その声を合図にガメリック目掛けて急降下。

水を噴出しながら体当たり戦法に出たが、相手は一歩も動かず、火炎を上に向けて放った。

炎は渦を巻きながら突進。

ダンリュウドンは辛うじて避けたが、空中は水蒸気と火花が飛び交う壮絶な光景となった。


「あれがガメリックの特殊能力だ。長年の修練によって体内に格納した熱源を自由自在に扱う」


宇宙神の説明に対しゼウスは、ダンリュウドンの放水も似たような仕組みではあることを認識していたが、改良体が発覚する恐れがあるため、頷くだけに留めた。


ガメリックが次々と放つ火流によって、ダンリュウドンは空中でも苦戦を強いられた。

飛び回っているうちに、水流も徐々に弱くなっていく。

量的に限界に近づいているようだ。

そして、片側の羽根が火炎に触れた。


『だめだ。焦げてしまって飛べなくなったよ』

『わかりました。なんとか地上に不時着しましょう』


ダンリュウドンは急降下したが、斜め向きになりながらも4本の脚で地表に着地することが出来た。


『ふうー、危なかった!』


ところが、一難去ってまた一難。

ガメリックはこれを待っていたようで、ダンリュウドンの態勢が整わないうちに近づき、その背中に飛び乗ってしまった。


『なんや、なんや、なにすんねん』


胴体にしがみついたガメリックは、輪郭が輝くと同時に、全身から高熱を発した。

もちろん、ダンリュウドンは火あぶり状態になってしまい、振り落とそうと闘技場を必死に駆けまわる。


『熱い!、熱い!』

『このままでは、焼け死ぬわ!、もうあかん!』


観客席でもこの状況を見て、喚声が上がる。


(今度こそ勝負あった!)

(頑張れ、頑張れ、我慢しろ)

(こりゃ、焼き肉になってしまうぞ)


誰もが悲惨な結末を予想した。

ところが、ダンリュウドンは高熱にさらされながらも倒れる気配はなかった。

むしろ、徐々に背中に乗ったガメリックの輝きが弱まっていく。


『どうしたんでしょう。熱さを感じなくなっていきますよ』

『なんやなんや、何が起こってるんや』

『種明かししましょう。体内にはポセイドン神の泉と同様にヘスティア神が竈を設けてくれたの。それを思い出して、熱を竈に吸収したわけさ』

『ほんなら、あいつはどうなってるんや』

『まだ乗ってはいるようですね。体を動かしてみましょう』


後ろ脚だけで、立ち上がってみると、ガメリックがずり落ちて地面に転がってしまった。

そして、手足を甲羅の間に引っ込めて震えていた。


「寒い、寒い・・」


と小声で連発している。


『こいつ、どうしたんや』

『おそらく、体内から熱エネルギーが消失してしまったんだ。通常の気温では寒く感じてしまうんだよ』

『なんだか可哀そうですね』


団長は頷き、観客席に向かって大声を張り上げた。


「おい、誰か助けてやってくれんかい。このままでは死んでしまうぞ」


片側のゲートが開き、サポート神が数体現われ、ガメリックの側まで駆け寄った。

そして皆で担いで退いていく。


(何が起こったんや。さっぱりわからないぞ)

(勝った、勝った、また勝った。その調子だ。次も勝利だ)


この状況の宇宙神は不機嫌そうに言い放った。


「どうも不思議なことばかり起こっているとしか考えられないな。なぜ大量の水が吐き出せる。なぜあの高熱に耐えられるんだ」


ゼウスは辛うじて言い返す。


「ダンリュウドンは事前にあらゆる攻撃を想定して、この場に臨んだようだ。それが今のところ功を奏している」



宇宙神は幾分疑わし気だったが、次の戦士の紹介を始めた。


「まあいいさ。次は我が方の切り札を登場させる。名前はサンヨン。絶対に負けない戦士だ」


「何か特別な戦闘能力を持っているのか?」


「フフフ、その通りだ。驚くべき光景を目撃することになるだろう」


ゲートが開き、次に現われた戦士は見た目に異様な体形をしていた。

全体はダンリュウドンよりやや大きめだったが、顔は小さく目は複眼、手足、胴体は丸みを帯びた一見、粘土造型のような外観であった。

およそ戦士らしからぬ外見からは、どのような戦い方をするのか、全く想像もつかなかった。


サンヨンという名前だそうだが、闘技場の反対側の位置で動かず立ったままである。

ところが、突然複眼から奇妙な光線がダンリュウドンに向かって発せられた。

危険なものである可能性があるため、思わず身を避けたが、何色かの縞模様の光線が左右上下に繰り返し動いている。

まともに全身浴びたものの、痛くも熱くもなく危害を加える行動ではなさそうである。


その光線は消えた後で、サンヨン自身の体に変化が見られた。

複眼がなくなり、頭から胴体、手足に至るまで徐々に輪郭、形状が変わっていく。

少しの時間で、もはや元の姿は全く留めていなかった。

そして、ようやくいわゆる変身が終了したとき、それがなんであるかが明らかになった。


(なんと、あれはダンリュウドンじゃないか。全く瓜二つだ)

(姿形を同じにしていったいどうしよっていうんだ)


観客席は驚きのあまり騒然としている。

それはダンリュウドンその者も同じであった。


『なんてことでしょう。同じ姿にしてどうしよというんでしょう』

『どうやら、縞の光線で僕たちの輪郭を走査したようだ』


『なめてんのか。こうなりゃやってやろうじゃないか!』


ダンリュウドンは真っすぐに近づき、相手の顔目掛けてラッパで殴り掛かる。

ところがサンヨンは少しも動かず避けようともしなかった。

激しい音がした瞬間、予想もしなかったことが起こった。

相手はもちろん顔にダメージを受けたが、ダンリュウドンも顔の全く同じ位置に衝撃が走った。

更に、前脚でサンヨンの腹部を蹴りつけると、また、同じ個所に痛みを感じた。


『待った、待った!』

『いてて、いてて、どうなってんだこりゃあ』

『あ、痛たた、殴ったら同じ場所が痛く感じますよ』

『体をコピーするだけでなく、神経も同期させたようだ』


当のサンヨンは打撃を受けながらも猛然と反撃してきた。

全く隙だらけで、むしろ、攻撃を誘っているような戦い方だった。

ダンリュウドンとしても、うかつに手を出すと、自身に跳ね返ってくるため、うかつに手を出せなくなった。


「あの超能力は、どのような優れた生命体でも修得できないのではないかね」


ゼウスは明らかに敵神が手を貸しているときめつけ抗議した。

だが宇宙神は否定もせず言った。


「それはお互い様ではないかな。これでわかっただろう。絶対に負けないということを」


ダンリュウドンの秘密は見破られているようだ。

言い返すことは無理であった。

そして、宇宙神の言うように、相手を打ち負かすことは、自身にも同様のダメージとなり、勝つことは不可能だった。


ダンリュウドンは闘技場を逃げ回ることしかなかった。

相手を叩きのめせば、それだけ受ける衝撃が大きいし、倒せば、倒されたことになるのである。


直接、闘えないとみたサンヨンは、自らの体を壊しにかかった。

闘技場の周囲フェンスに思い切り突進しだした。

もちろん体が損傷するが、その都度ダンリュウドンの体も打撃をこうむるのである。


『ひいー、体が壊されてしまう』

『こ、このままでは、動けなくなってしまいます』

『そうなったら、相手も同じじゃないのか』

『いいや、そうなる寸前に元の体のもどるんじゃあ』

『だったら勝ち目がないやんけ。おい、リザードン、確か知恵の神アテーナと言うのも体の中におみくじの壺を置いていったんやないのか』

『確かそうだったな。見てみるよ』


その時、全身に衝撃が走った。

ダンリュウドンの体が傾く。


『前脚が折れたようです。このままでは立ってられないかもしれません』

『まずいぞ。奴め狂ってやがる。おい、まだか、おみくじにはなんて書いてあるんだ』

『吉なんだけど、徹頭徹尾相手をぶちのめせって』

『なんやと、そんなことしたらこっちも死んでしまうやろ』

『いや、まだ後があるんだ。魂三つで目を封印か。うーん、なるほど、分かったけど大変危険なことなんだ』

『能書きはいい。はよ聞かせろや』


リザードンは団長、飛龍に説明した。

真っ先に賛成したのは飛龍だった。


『やりましょう。それしか方法がないようです』

『そやけど、お前・・』

『大丈夫ですよ。いざとなったら、神様が助けてくれますよ』

『わかった。思い切りやってやろうやないか!』


ダンリュウドンはびっこを引きながら、サンヨンに近づいた。

そして、思い切り胴を殴りつけ、引き倒した。

サンヨンは思った通り、抵抗せずなすがままに横たわる。

そして、手持ちのラッパで胸から腹部にかけて、何度も何度も叩いて痛めつける。

もちろん、ダンリュウドンもただではすまない。


お互い、吐く息が荒くなっていく。

それでも渾身の力を振り絞って殴りつける。

時々骨が砕ける音が聞こえる。


(おいおい、どちらも死んでしまうぞ)

(こりゃあ、相打ちになってしまうのか)

(こんな戦い見たことないなあ)


そして、どちらも虫の息で折り重なるように地面に倒れ込んでしまった。

このままでは勝負がつかず、観客席が騒然となった。


ところが、サンヨンの目が開き、変化が生じ始めた。

元の複眼に変わっていく。

同時に全身も徐々に変身し始める。

そして、胴体や手足が最初に登場した時の外観に戻ってしまった。

さらに、立ち上がって両腕を上げ、勝利をアピールする。


(やった。やったぞ。我々の勝利だ!)

(なんてことだ。こんなことになるなんて)


観客席で歓声と悲鳴が交錯する。


その時、ダンリュウドンの片側の羽根が動き、サンヨンの足をすくった。

全く油断していたサンヨンはその場にひっくり返ってしまった。

今度は、両腕が動き、持っていたメガホンを頭の先から被せ、複眼を見えなくしてしまった。

さらには首を絞めつける。


『どうだ。軍神アレースが戦術を教えてくれたんや』


まだ、団長、リザードンの部分は、辛うじて意識が残っており、最後の力を引き絞る。

どうやら、おみくじにはダンリュウドンの中に存在する3者の役割と、相手の目が武器であるとともに弱点であることが記されてあったようだ。

さらには、走査光線の威力が精神の部分にまで及んでいなかったことも幸いした。


残った羽根で相手を押さえつけ、渾身の力で首を絞めつける。

しばらくすると、サンヨンの体が痙攣し、仮死状態に陥ってしまった。

同時にダンリュウドンももはや余力は残っていなかった。


双方とも闘技場に横たわり、身動きもしない。

この状態では、どちらが勝者とも敗者ともいえなかった。




膠着状態の中、観客席から闘技場に降りて両者に近づく者がいた。

真っ赤なマントを羽織り、逞しい体格の持ち主は太陽神アポロンであった。

アポロンはダンリュウドンの横にひざまずいて頭と胸に手を当て、精気をつぎ込んだ。

すると、ダンリュウドンの体全体が輝き出して、瞼が開いた後、徐々に腕や脚、腹部に至るまで動きがみられ蘇っていく。

そして、起き上がり完全に立ち直り元の姿に戻った。

ダンリュウドンはアポロンに礼を言った後、まだ横たわっているサンヨンを指差した。

アポロンは頷きサンヨンにも蘇生処置をする。サンヨンも徐々に回復した後、立ち上がる。アポロンは両戦士に戦いが終わったことを告げた。


観客席では闘技場の戦士たちを称賛した。


(よくやった。どちらも頑張ったな)

(勝負なし。引き分けだな)

(激しい闘いだったぞ。興奮した!)


宇宙神が言った。


「そちらの戦士は合体したものだったとはな。おまけに神々も体内に潜んでいるようだ」


どうやら、ダンリュウドンが手を加えた改造戦士だと見破られている。

今さら隠しても意味はない。

ゼウスが尋ねた。


「ルール違反だと非難するかね?」


宇宙神が答える。


「いいや、先ほども言っただろう。お互い様だと。それに、見ている側も興奮し、これだけ盛り上がったんだ。まあ良しとしようじゃないか。ただ今回は決着がつかなかったことも事実だ」


「またやるのか?」


「そう。ただ今度やるときは、お互いフェアにやろうじゃないか」


「心得た」


ゼウスが返事すると。

宇宙神も頷く。


そして、宇宙神は競技場全体に轟く声で仲間に呼びかけた。


「闘技会は勝敗なしに終わった。さあ、引き上げだ。帰るぞ!」


その合図に反応して一気に慌ただしい動きがあった。

観客の多くが上空を見上げている。

それに反応したかのように突然長く連なった乗り物が出現した。

どこかで待機していたのだろうか、敵神たちの移動手段として使用される宇宙列車である。

頭上から警笛が鳴らされると、神々や出場戦士たちが次々と、宙に浮かび搭乗口に吸い込まれていく。

そして、最後に宇宙神が、


「また会おう!」


と告げ、一瞬にして姿が消えると、列車は動き出し、あっという間に宇宙の果てに去っていった。



それを見届けたゼウスは残った神々に指示した。


「さあ、我々も戻るとするか。デーメテール、後は頼むぞ」


彼の姿が真っ先に消えると、同じように周囲の神々、そしてダンリュウドンの姿も見えなくなっていく。

そして、ほんのわずかな時間で、競技場に残っているのは、大地の女神デーメテールだけになった。

あの激しい闘いが繰り広げられ、熱気に溢れた光景もなくなり、もはや静まりかえっている。

更に、デーメテールが周囲を見回し、腕を広げて声を発すると、驚くべきことに、円形競技場そのものが徐々に消滅していく。

施設が完全になくなるまでには、そう時間を要しなかった。


目を凝らしてみると、そこは広い草原があるばかりであった。

また、そこにいたはずのデーメテールも姿を消していた。



競技場から引き上げた主な神々は、オリュンポス宮殿の大広間に集まっていた。

また、彼らの前には、闘技場での激戦を終えて、元の姿に戻った団長、飛龍、リザードンがいたが、絢爛豪華な周囲の彫像、装飾に圧倒されている。


出場した三者を前にしてゼウスが言った。


「今日の闘技会への出場、大変ご苦労であった。勝てはしなかったが、この世界の秩序を無事守ることができ、十分満足な結果といえよう。我々神々からこの場で礼を言うことにしよう」


主神からの感謝の言葉に三者は恐縮した。


「ついては、お前たちに褒美を遣わすことにする。なんでも望みを言うがよい。遠慮はいらん、団長どうだ?」


団長は首を横に振って答えた。


「俺は今以上の望みなんかあらへん。阪神タイガースの応援団長として全力を振り絞り、それを周りの者が認めてくれてる。それで十分幸せなんや。元の場所に戻してくれるだけでいいわ」


「わかった。そうしよう。次に飛龍、お前はどうだ」


「私はもう戦場には戻りたくありません。私の背に乗った兵士が次々と死んでいく姿を見て、いつも悲しく思っています。出来れば戦いのない平和な場所で思い切り走りたい。それが私の望みです」


「わかった。その通りにしよう。リザードン、お前は?」


「僕はポケモンゲームのキャラクターとして仮想空間での存在なんだ。出来れば現実の世界で実体化して活動できたらいいな」


「その姿でか?」


「いや、可能なら、人間になりたいと思ってる」


「わかった。その望み叶えてやろう」


その答えにリザードン自身も驚いて、団長や飛龍の方を向き喜んだ。

その時、神々の中からも声が上がった。


「私からもお願いがあります。お父様」


「なんだ、アルテーミス、言うがよい」


彼女は貞潔の女神でもあった。

「アトラスのことです。思い違いがあったのかもしれませんが、彼が探してきた戦士たちが役目を果したことも事実です。許してあげたらどうでしょうか?」


「お前の言う通りだ。早速手配しよう」


この返答に周りの者から異論はなかった。

そして、ゼウスは笑みを浮かべながら振り返り神々に向かって言った。


「よし、万事うまくいって目出度い気分だ。久しぶりに宴を開こうじゃないか」


皆は相槌を打ちながら、別の間に移動しはじめる。同時に団長、飛龍、リザードンの姿はその場から消えていった。


****


場所は東京都にある府中競馬場。

今まさに競馬の祭典、日本ダービーが行われようとしている。

距離2400メートル芝。

馬場の状態は良。

天候快晴。

絶好のコンディションで観客席は満員の中、各馬ゲート前に集まっている。


ファンファーレが鳴り、スターティングフラッグが振られた。

スタート台にスターターが立つと、観客席から大きな声援。

もう間もなくスタートだ。そして、一頭一頭誘導されゲートインしていく。

内枠外枠とも各馬順調に入りゲートイン完了。


『スターティングゲートが開き各馬一斉のスタート。出遅れなく横一線のきれいなスタートです。これから正面スタンド前に向かいます。各馬好位置につけるためにばらけて徐々に隊列が組まれようとしています』


「行け!行け!」

「頼むぞー、頑張って!」

「よし、よし、いいところにいるぞ」


『正面スタンド前を駆け抜け、大歓声が観客席から湧き上がっています。先頭を行くのはテンプラオー、二番手はビワコタイガー、三番手ニッカポッカ。この三頭が抜け出し後続馬を引っ張っております』


「その調子、いいぞ、いいぞ」

「頼むから勝たせてー」

「そのまま、そのまま」


『向こう正面を進んでおります。先頭テンプラオーは変わらず。その後をビワコタイガー、ニッカポッカ。更にはアンダンテ、ボーイングの有力どころも追走しております。一番人気ポイントファイターは中団に位置しており、虎視眈々と上位を窺っております』


「逃げろ、そのまま逃げろ」

「我慢、我慢、最後に追い抜けよ」

「突っ走れ、突っ走れ!」


『三コーナーから四コーナーに掛かります。先頭のテンプラオーに後続集団が一気に迫ってきました。ビワコタイガー、ニッカポッカが遅れだし、アンダンテ、ボーイングが先頭に迫る勢いだ。後は一団でその中に本命のポイントファイターもおります』


「抜け!抜け!」

「一気に行けー」

「神様、仏様、ファイター様!」


『四コーナーを回って直線。テンプラオーは一杯一杯。アンダンテが先頭に変わった。その後ろにボーイング。二頭の叩き合いだ。その外からポイントファイターが来た。ポイントファイターだ。二頭に並び追い抜く勢い。やはり強いか。いや、さらに大外からもう一頭が襲い掛かる。ヒリュウホマレだ。ヒリュウホマレの末脚爆発。ポイントファイターに並んだ。追い抜いた。鼻差でゴールイン。ヒリュウホマレが優勝。鞍上の外国人騎手リザードがガッツポーズ』


「ワァーワァー」


「やったーやったー、勝ったぞ!」


「すごい、すごい、団長、馬券当たってしもうた」


「やっぱ、来た甲斐があったわ」


「でも、競馬なんかしたことない団長が突然ここに来て買うって言わはって、おまけに大当たりや。なんでわかったんでっか?」


「正直、わからんのや。たまたま新聞見て、ヒリュウホマレとリザードという文字が見えたんや。こらどうしても買わないかん思てな。なんでかさっぱりわからんわ」


「まあ、理由はなんでもよろしいがな。わてもおこぼれに預かって感謝、感謝や」


「よし、換金は後回しや。後楽園に行こうやないかい」


「そうでんな。6時からやからまだ充分間に合いますわ」


「早めに行って場所を確保せなあかんやろ。急ぐぞ」


団長と相方は競馬場を後にして最寄りの駅に急ぐ。

ところが突然、団長の足が止まった。

その目は二人の方に向かって来る人物に注がれている。

彼は体格が良かったが、半裸で自分の体と同じくらいの大きな荷物を、額に汗をかきながら肩に担いでいた。


団長はその男に声を掛けた。


「あんさん。そんな大きな荷物担いで大丈夫かいな。重いやろ」


男は足を止め団長の方を見て返事する。


「ああ、大丈夫。これは俺の日課なんだ。いつも肩に何か担いでいないと物足りなくてね」


「ふーん。そら殊勝なこっちゃな。ところで、あんさん名前はなんていうねん」


「俺か、俺は亜虎と言うのさ。もう長いことここにいるよ」


「ああそうか。気をつけて行きや」


「ありがとう。じゃあ」


男は再び歩きだした。団長はしばらくその様子を見ている。


「なんかけったいな人やなあ。知り合いですか、団長?」


「いや、知らん人や。でもなんか気になってな」


「それに、アトラという名前。変わってまんな」


団長はその名前に聞き覚えがあるような気がした。

だが一瞬でその意識を振り払った。


「さあ行こか。道草を食ってる場合やないわ。これからタイガースの応援に全力で取り組まなあかんからな」


「そうですがな。みんなが団長の晴れ姿を待ってますんや。なんか今日は勝てそうな気がしますな」


「そやそや、今日はついてるからな。なんか神様も応援してくれそうな気がするんや」


二人は後楽園球場目指して速足で歩き始めた。



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