死ぬか生きるか
本当に運がいいのか悪いのか、俺は答えのない問いかけをする。
目の前の助攻の機体が手を差し伸べて自分をのせようとしているのを見てしばらく止まって考える。
このまま雪に埋もれて、きれいに白に染まるのが自分にとって一番楽だったのではと半ば本気で思っている。だが、それでいてあいつの為に死ぬのはいけないと思う心と、純粋に生きたいという気持ちが普通にあることへの戸惑いがある。
『大尉?どうしました?早く乗ってください』
その声にその機械の手に寄りかかるように乗る。データ通りに器用に体を潰さぬようにゆっくりとコクピットのハッチに連れてかれ、機体の中へ。
強烈な暖気という高温の空気が体を包むような感覚、次いで感覚がなかった体が今頃になって寒さを訴えるように体を震わせる感覚。
「・・・・・・・・・・・」
生きていることにほっとするのと同時に、意識を切り替える。
戦場だ。自分にできることを考えろ。
救助に来た機体はけっこうなダメージを受けているようで、運転シートの後ろから見ると結構なエラーが各パーツから警告が出ている。頭部が完全に破壊されている。戦うのは苦しい。
両機は片腕が無し、これも戦えるダメージではないだろう。
「残りの二機は?」
自分が戦えないなら使える駒を確認しないといけない。
「損傷激しく一機廃棄。パイロットの生存は確認、大破している残り一機で仲間を回収し、中破した主攻一機がついて既に退却を開始しています。隊長とあの子が二機で、巨人を撃破、友軍の到着をまっている状況です」
自分の機体を含めて喪失一機、廃棄一機、戦闘不能が一機、中破が二機。戦闘継続はほぼ無理。
「友軍は?」
「・・・すでに主攻と射攻が向かっています。42小隊ももうすぐ合流、後続は遅れていますがこちらに向かっているようです」
「操縦かわ・・・・ちっ」
中破しても援護ぐらいは・・・と考えて自分の手の感覚がほとんどないことに気づく。凍傷か何かなのかもしれない。少なくとも操縦はできない。
「・・・基地まで退却」
絞り出すように声を出す。なんというか、気持ち悪い。だが、どうしようもない。
「了解。隊長、よくぞ無事で・・・信じていましたよ」
そういって部下はうれしげに笑う。
「・・・・ふん」
揺れる機体に半ば振り回されながら腰を下ろす。今更気づいたが足も冷えて感覚がない。体は悲鳴を上げているのに、急激な眠気が襲ってくる。
「意識が飛ぶ。あとは任せる・・・・・」
「は?え、隊長?」
つぶやくように吐き捨てた言葉とともに、無理やり起こしていた。意識を手放した。
どの面を下げて向かっているというのか、
機体を走らせながら幾度も自分に問いかけている。
逃げ出した自分が、彼女を頼まれておきながら見捨てて逃げた自分が、何を必死に間に合えと祈っているのか、道化すらあきれ果てるだろうその行動を、とがめているのは頭の中の冷静な自分自身だけ。
「・・・・・いそげいそげいそげいそげいそげ・・・・・」
生きていたのだ。失ったと思ったのに、生きていたのだ。
隊長とあの子だけで巨人を相手してることに対する焦りと、そこに自分がいないふがいなさ、全てを忘れてひたすらに向かう。
『巨人を撃破した。敵の後続が進出している。31、42はこちらに合流、全軍が来るまで迎撃戦を行う。助攻は指定ポイントに向かってくれ、相棒が孤立している。回収後素早く撤退、敵と交戦になるようなら回収はあきらめて後退してくれ』
その通信を聞きながら、今度は守らないといけないと。そう思って向かい続ける。
倒れた木々の中、四肢と首を切り落とされた巨人が倒れている。
うつぶせに倒れた巨人の体の上で剣を突き立てて一機の見知らぬ機体が立っている。
巨人の体に突き刺した剣を右手で持ち、しっかり立っている。
傍らには銃を持ちたたずむ機体。損傷はほぼないその機体は寄り添うように剣を持つ機体の横に立っている。
『回収を確認、小隊到着、射攻の隊長はここを拠点に部下とともに迎撃準備。主攻は私の指揮下に入って前方に展開、42と本軍の合流までここを死守』
いつも通りの言葉にいつも通り動く体
「隊長、ご無事で、了解。展開を開始!」
わたしは流れるように答える。謝らなければならないのに、今は命令通りに動くためにそれを飲み込んで指示通りに動く。
『お前も無事でよかった。またよろしく頼むぞ』
その言葉に救われた自分に、彼ではないが吐気を感じずにはいられないのに。
心に光がともる。希望がともる。自分たちは戦えると。高揚する。
それは全軍に伝播するのだろう。あの死ぬしかない絶望的な状況でやるべきことをやり生き延び、今まさに巨人にすら勝ち、国を守るために前に立つ英雄に、導かれるように剣をとるのだろう。
一瞬助攻の隊長の忌々しげな顔が浮かぶ。彼はそういう行動を心の底から嫌うのだろう。
だが、自分はこれしかできないのだと知っている。情けなくても、恥ずべきだろうと、これしかないと知っている自分はためらうことはない。




