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何者も、モフモフに敵う奴はいない!!

 道中、昼間とは違うMOBが結構居たが、梟の眼光で暗視が出来る私にはそこまで脅威ではなかった。



 街にたどり着いた時、時刻は6時30分を当に過ぎていた。


 街は昨日と同じ柔らかい光によって、何処か落ち着いた雰囲気を醸し出していた。私、結構この雰囲気好きだな。暗がりの猫だからかもしれないけど……。


 取り敢えず、早く宿屋行ってログアウトしよう。



「ねぇねぇ」


 不意に横から声をかけられ、肩に手を置かれた。振り返ると、金髪の男が笑いかけていた。


 髪を逆立てた褐色肌、防具は性能よりもデザインを重視したもの。手にリングを何個も填めている――所謂チャラ男だ。その後ろには同じ格好のヤツが2人程、私を見ながらソワソワしている。


「君さ、もしかして一人? 良かったら俺達とパーティー組んで狩りに行かない?」


 今いま帰ってきたばかりなんだけど、見てなかったの? それに声からして下心丸見えなんですが……。


「すいませんニャ。もうログアウトするの――」

「うおっ!? 『すいませんニャ』だってぇ! ちょっ、マジ可愛いんですけど……。別に良いでしょ? 見た感じ、初心者だね? 丁度君好みの装備があるんだけど、それプレゼントするからさ! それに夜はこれからじゃん!!」


 モノで釣ろうとするなよ。たまに居るよね、こう人の話を聞かないタイプ。そして最後の一言は完全にアウトだと思う。

 と言うか、この人語尾に関してのコメントはNG(私の中だけだけど)、と言う地雷を踏みよった。これはちょっとお仕置きが必要かしら?


「ワン!」


 私が腰の鞭に手をかけたとき、不意に頭上からあの子狐が声を上げた。何? どうしたの?


「何だこれ?」


 チャラ男が不思議そうに子狐に顔を近づける。てかそれって私に近づいてくると同じじゃないですかやだー!!

 と、バカなこと言ってる暇じゃない。


「ど、どうし――」

「ワンワン!」


 子狐がそう叫んだ瞬間、何故か私の身体に白い霧が降りかかった。え、何やったの?


「あれ? 何処行った?」


 すると、前に立っているチャラ男はそんなことを言いながら辺りを忙しなく見回し始めた。後ろの仲間もそうだ。


「ぇ……どういうことニャ?」

「ワン」


 頭の回転が追い付かなく首をかしげていると、頭上の子狐が息を吐くような鳴き声を漏らし、目の前にステータスが表示される。


【PL:ニタ 状態:ステルス】


 ステルス……って、確かそれを積んだ飛行機はレーダーとかに感知されないってヤツ? と言うことは、今姿が見えなくなっているってこと? え、この子が?

 頭上の子狐は、私の猫耳と戯れている。取り敢えず、ステルスの効果が消える前に宿屋に避難しよう。と、その前に……。


「痛って!?」


 語尾を弄られた腹いせに、チャラ男の足を踏んづけてやった。その際、頭上から「ワン!!」と子狐が鳴いたのでバレるかと思ったが、痛みで気付かれなかったようだ。

 足を抱えるチャラ男に「べーっ」と舌を出しながら、私はその場から走り去った。



 暫く走ると、朝降り立った宿屋が見えてきた。飛び込むように扉を開けて中に入る。走ってる間にステルスが解けたためか、急いで駆け込んできた私を宿屋に居たプレイヤーたちの注目が集まる。


 失敗した。入るときはもうちょいゆっくり入るべきだった。ただでさえ猫耳で目立つのに……。何て事を思いながら、受付のNPCに掛け合って料金を払い、直ぐ様部屋に駆け込んだ。


「はぁ~、疲れたニャ」


 ベットに腰を降ろして溜め息をつくと、不意に瞼が重くなり手足にどっと疲れがのしかかってきた。二時間ぐらいずっとステーキを仕込んでは焼き仕込んでは焼きを繰り返していたため、大分疲れがたまっていたのだろう。そんな私をよそに、頭に乗っていた子狐がピョンとベットに飛び降りて、心配するように見上げてきた。


 今思えば、この子狐が居なければ、チャラ男達を引かせるのにもっと時間が掛かった、最悪パーティー組まされてたかもしれない。この件は感謝しないとね。


「助けてくれてありがとニャ」


 お礼の言葉を言いながらその頭を撫でると、子狐は気持ち良さそうに目を細め、指をチューチュー吸い始める。今更だけど、狐って鳴き声「ワン」なんだよね。


「と言うか、あんた何でついてきたのニャ?」


 私の問いに答える様に、間延びした声で子狐は小さく鳴いて、指を吸う作業に戻った。


 と言うか、この子は別に私がテイムした訳でもない、ただハーブ焼きを食べさせただけの普通のMOBだ。それが頭に乗ったまま眠ってしまい、そのままの状態で街まで運んできてしまったがためにこうしてここに居る。しかも、ピンチの時に助けてくれた。これはもしかして……。


 恐る恐る吸われていない方の手を子狐に向けた。突然向けられた手に、子狐は指を吸いながら可愛らしく首をかしげた。


「行けるか……【テイム】ニャ!!」


 そう言った瞬間、子狐の身体が一瞬パァッと光り、目の前に画面が表示される。



【~テイムに成功しました。  MOB:フタビギツネ Lv1~】


「よっしゃ、初テイムニャー!!」

「ワォーン!!」


 私が拳を突き上げながら声を上げると、子狐も前足を上げて同じようなポーズをとる。一々の行動が可愛いなこの野郎。そんな中、再び画面が表示される。


【~名前を入力してください~】


 さてやってきてしまった、今回の山場。自他共に認める壊滅的なネーミングセンスな私が、どう足掻いたってピッタリな名前が浮かぶわけもない。しかし、初テイムしたMOBだから自分だけで考えたい。取り敢えず記念だから。



 そのまま考えに考え抜いて5分――。私は震える手でキーボードを叩き、決定を押した。


【~イヅナ(フタビギツネ)が仲魔となりました。  テイム枠が1/1になりました~】


 はい、この子は今日からイヅナです。もろ妖狐のパクリじゃないか、もう少し捻れと言われること確実な名前だなこれ。ごめんよ、イヅナ。私にもっとネーミングセンスが有れば……。


「はぅ?」


 肩を落とす私の膝に前足を乗せたイヅナが、再び不安そうに見上げてくる。取り敢えずモフモフに癒されようそうしよう。


 そのまま、私は欲望の赴くままにイヅナのモフモフを堪能し、そして夕飯に遅れて父さんに叱られるのであった。


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