これは流石に…………。
「千津おはよ~っす」
「おはよ~っす」
ガラリとドアを開けて中に入り、側に居た何人かの女子に間延びした声で挨拶を返して、席に着いた。
ここは学校。私は現在高校2年生、今日は月曜日だからこうして学校に居るのだ。
「おはよっす!! 千津」
「おはよっす、佳奈美。相変わらずの瞬間移動ね」
席に座ったと同時に横に現れた女子にそう言うと、その子は「ニャハハ~、褒めるなよ~」とよく分からないことを言いながら、年相応の笑顔を見せた。
彼女の名前は、崎原佳奈美。
幼稚園からの付き合いで、一番の親友(と言うより悪友)、そして兄貴程ではないが、なかなかのゲーマーでもある。特徴と言えば、肩まで届く黒髪を、項が見えるくらいまで髪をアップさせていることかな。何でも「男は項に弱いのよ!!」と日々断言しているが、その成果はまだない。
「今変なこと考えなかった?」
「うん? 佳奈美は残念だな~って思ってた」
「おい、お前。って、そんなことはどうでもいいのよ」
私の言葉に軽いツッコミをしてくれた佳奈美に笑いかけ、鞄の教科書類を引き出しに入れていく。佳奈美は私がすべて入れ終わるのを待たずに乱暴に机に腰かけ、上から小悪魔染みた笑みを向けてきた。
「聞いたところによると……あんた【HLO】始めたらしいじゃない。しかも猫耳生やして」
「な、何でその事を知ってるのよ!?」
「雪さんからよ」
あの兄貴……もうそんなことを周りに言いふらしているのか。てか佳奈美、兄貴のIDかメアド持ってないはずだけど、多分別のゲームで会った時に聞いたのかな?
「……今夜帰ってきたら調教しないと」
「話し合いの方にしなさいよ。あと鞭取り出さない」
私の手から鞭を抜き取って溜め息を漏らす佳奈美。取り敢えず鞭(ドン○ホーテで998円)を返してください。周りからの視線が痛い。
「まぁ猫耳はいいとして、雪さん凄い落ち込んでたよ? 何か『妹のテス構成が残念過ぎて辛い……』ってorzしながら言ってたけど」
そんなことまで言いふらすとは……これは本格的に調教しないといけない。
ここでまた無意識に鞭を取り出していたらしく、それを佳奈美に叱られながら、テス構成を覚えている限り説明した。すると、案の定佳奈美も渋い顔に。そんなに駄目なの?
「あんたって奴は……そりゃ雪さんもorzになるわ~」
「別に良いじゃない。プレイスタイルは私の自由よ」
「いやそうなんだけど……まぁ良いか」
まだ不満そうに口を尖らせながらも自分で自分を納得させた佳奈美は、改まって私に向き直る。
「あたしも近々【HLO】に参入する予定だから、その時はよろしくね」
「えっ、佳奈美まだやってなかったの?」
ゲーマーの佳奈美ならもう既に始めていると思ったが、どうやら発売日に行われたソフトの抽選に落ち、私たちと同じ時期にようやくソフトが手に入ったらしいのだ。
「ソフトは手に入ったんだけど、今もう一つの方が全スキルカンスト間近なのよ。だから、【HLO】に入るのはまだ先ね」
全スキルカンストって……【HLO】で言うテスが全て最大レベルになることだっけ? それどれだけやり込んでるんだよ。あんた学生でしょうが。
そう言ったら「ノート見せてね?」と舌をペロッと出しながら親指を立ててきた。その指をへし折りたい衝動を抑えながら、PLを教えてやる。
「"ニタ"ね? 分かった。と言うか、もうちょっと捻りなさいよ」
そこ突っ込むんじゃないよ。結構気にしてるんだからさ。
そんなことを話していると、チャイムが鳴り始め、佳奈美は自分の席に帰っていった。
◇◇◇
さて、学校が終わったら早速ログイン。
今日は昨日生産したアイテムを売りに行って、そのお金で装備を整えようと思う。流石にずっと初期装備だと、何か垢抜けしないからね。
宿屋に降り立った私を出迎えてくれたのは、残念なネーミングセンス故に残念な名前にしてしまった白いモフモフこと、イヅナ。今日も安定のモフモフ加減で、私の荒んだ心を洗い流しておくれ。
「ワォーン!!」
そう思って両手を差し出したら、顔面に体当たりされた。モフモフだから衝撃はないけど、目に毛が入るのは流石に痛いから止めてほしい。
尻尾を逆立たせながらそっぽを向いているから、多分機嫌が悪いのだろう。イヅナのステータスを確認したら、【空腹】の文字が浮かび、機嫌を表すアイコンが怒っていた。そう言えば、昨日ご飯食べさせずにログアウトしたっけ。
「イヅナごめんニャ~」
そう謝りながらハーブ焼きを差し出すと、案の定イヅナは脇目も振らずにハーブ焼きに食らい付いた。多分これで大丈夫だと思う。それじゃあ食べ終わる前にもう一度売アイテムを確認しよう。
初級ポーションが40、ポーションが20、解毒ポーションが15、解痺ポーションが13。そして、ラビットフットのハーブ焼きが30、ステーキが40、ハーブティー擬きが50。
初級ポーションは私とイヅナ用だし、ハーブ焼きも完全にイヅナ用だから数は売れないか。ハーブティーはあまり良い値じゃないから却下だね。
そうなると、多分2、3000Gは行くかな? まぁ値段交渉なら得意分野だけど。
そうしている間にハーブ焼きを食べきったらしいイヅナは、私の頭に登って猫耳の間に収まった。お腹一杯になって機嫌も良くなったみたい。
さて、では行きますか。
宿屋を出たら、直ぐ様はNPCが経営する道具屋に直行。理由は、運営の規定値段を知るためだ。規定値段よりも低い値で買い取ろうとするバカ共も居ないとは限らないし、私の交渉材料にもなるから、結構重要な情報なのだ。
昨日の猫嫌いの道具屋に聞いたところ、初級ポーションは買値50Gの売値25G、ポーションは買値100Gの売値50G、解毒ポーションは買値150Gの売値75G、解痺ポーションは買値200Gの売値100Gと判明。
これは何の補正もないモノの値段だ。私達プレイヤーが作ったアイテムは何かしら効果が高いものが多いから、これにもう少し色目を付けて貰えそうだ。
因みに料理は専門じゃないから分からない、と言われた。
とまぁ基準も分かったことだし、早速交渉に行こう。道具屋にお礼を言って生産通りへ向かう。
フニッ
「わふっ!?」
……ん? 今なんか声が? そして足元にフサフサした何かが居る?
「お、重いわふぅ……」
そんな抗議が足元から聞こえたので見下ろすと、私の足の下に見知らぬプレイヤーがうつ伏せで倒れていた。
「ご、ごめんなさいニャ!!」
直ぐ様足を退け、倒れていたプレイヤーを抱き起こす。その子は苦しそうに腹部を抑えながら、私を見上げてきた。
どうやら女の子みたいだ。茶髪のショートでクリクリッとした青い目が印象的な、多分同い年ぐらいだと思う。武器は何も無しの上に、初期装備すらない下着姿。そして目を見張るのが、その頭に生えている犬耳と、お尻から力無く垂れるフサフサした尻尾。踏んだ時に感じたフサフサ感はこれだと思う。
「お……お……わふ」
その子は私を見上げながら、何か言いたげに手を伸ばしてくる。その姿に、イヅナも私の頭から降りて彼女を心配そうに見上げる。
「何ニャ? 何か言いたいことがあるのかニャ?」
「お……お……わふ」
差し出された手を力強く掴み、そう問いかける。語尾のせいで緊張感がまるで感じられないのは気にしない。
彼女は小さく声で何か言っている。こう言う時に聴覚強化が欲しくなる。
「お……す………わふ」
「え、何てニャ? もう一回言ってニャ」
「おな……い……たわふ」
「ゴメン、良く聞こえ――」
ぐぅ~う~。
その時、私の声を掻き消すように、在るものが元気良く返事をした。
それは彼女のお腹。つまり、腹の虫だ。
「……おなか……すい、た、わふぅ……」
そして絞り出されたその子の声に、茫然と立ち尽くす私。それを見ながら、イヅナが「ハゥ?」と小さく鳴いて首を傾げるのであった。
ストックがなくなりましたorz
今後、更新速度が落ちます




