特に理由の無いシステムが私を襲う!!
タイトルはノリです。
次の日、私はお昼からHLOにログインした。
何故朝からではなく昼からだって? そりゃ午前中に宿題と獣医学の勉強を済ませ、もっと言えば両親からとやかく言われる前に済ましたからだ。
うちの両親二人とも公務員で、勉強に関して周りの子達に比べれば厳しい方だと思う。でも、テストの点数ややることさえやれば基本的に何も言ってこない人達だ。自分の考えを曲げない堅物キャラでもないので、二人との関係は多分良好だと思う。
因みにHLOを始めたことは一応知らせておいた。ゲームの事だったので初めは余り良い顔はしなかったけど、獣医学やコミュニケーションの勉強になると言ったら快く承諾してくれたのは予想通り。と言うか、少しHLOに興味を持った様子に驚いたね。近々家族揃って仮想世界に降り立つ日が来るかもしれない。
と、リアルの話はここまでにしておこう。
ログインすると、昨日ログアウトした宿屋の部屋に立っていた。
さて、今日はやることが一杯だ。あまり時間をかけていられない。
手早く宿屋でチェックアウトを済ませた時、メッセージアイコンが点滅していた。アイコンをタップして文面を呼び出すと、案の定兄貴からだった。
『今日はどうする? 我は今日、同志達と狩りをしている。何なら一緒に来ないか?』
内容はパーティープレイのお誘いだ。因みに、兄貴は朝から部屋に引き込もって昼御飯を食べた後も直ぐ様自室に飛んでいったのを見ると、多分朝から同志さんと狩りをしているみたい。
しかし、今日は訓練場に行って生産しようと決めている。なので行かないと返信すると、間髪入れずに『了解』のメッセージが届いた。
相変わらずこの返信の速さはなんなのだろ。まだ送ってから三秒ぐらいしか経ってないのに……。一瞬、私の返信を見越して事前に何パターンかの返信を用意している兄貴の姿が脳裏に浮かんだ。……考えないでおこう、考えたら負けだ。
そんなこんなで、兄貴に教えてもらった訓練場に向かおう。道中、やはり周りからの視線が痛かったが、心なしか昨日よりも苦痛に感じることは無かった。
慣れなのかな? いや若しくは『猫の気持ち』の効果? 取り敢えず、これが快感に変わっていかないことを願いたい。
歩き出して数分ほどで訓練所を見つけた。
街の中心からやや外れた場所にある、見た感じ山の中にある年季の入った大きいログハウスだ。訓練所だからもうちょっと大きいのかと思っていたが、まぁ気にしてても仕方がないか。
「こんにちわ~……ニャ」
「あ、いらっしゃいませ。冒険者さんですね……って何で項垂れてるんですか?」
語尾を殺しきれなかったショックに入って早々項垂れていると、パタパタと音をたてながら栗色髪の女性が出てきて、項垂れている私を見てギョッとしていた。まぁ入ってきて早々出口の前で項垂れる人なんて珍しいからね。てか私しかいないと思う。
「いえ、大丈夫気にしないでほしいニャ。それよりも、ここで武器の扱い方を学べると聞いてきたんですが……ニャ」
ちくしょう、また失敗した。
「え、ええ。ここは新人冒険者さん専用の訓練所です。武器の訓練ですね? ちょっと待ってて下さい」
女性は苦笑いでそう言って奥へ引っ込んでいった。てか苦笑いに『うわ何この人……?』みたいな目をしていたのは気のせいだろうか。因みにNPCから私達は『冒険者』と呼ばれている。
てか今の人NPCだよね? イメージでは何回話しかけても同じようなことしか言わない無愛想な感じだと思ったけど、結構人間染みていてビックリした。
取り敢えず玄関前で突っ立っているのもアレなので、中に入らせてもらおう。
外からの見た目は古いログハウスだったけど、中はちょっとごじゃれた喫茶店みたい。入ると前に長机のカウンターがあり、その端っこに蝶番がつけてあってそこを上げれば奥に行けるようになっている。そこから逸れた所にアンティーク調の机にフカフカのソファが数組、壁には山の風景が描かれた絵が飾られている。そんな店内を松明の柔らかい光が包み込んでいたため、まるでおとぎ話の世界に迷い込んでしまったような気分だ。
「お爺ちゃん、冒険者さんだよ!! ほら早く!!」
「うぃ~、んだよハイマ。今日日曜だろ寝させろよ~」
「訓練所に休日なんて無いでしょ!! てか冒険者さん稀にしか来ないから毎日休日の癖に!!」
雰囲気を悉くぶち壊す生活感溢れる声がカウンターの奥から聞こえ、先程の女性が頬を膨らませながら出てきた。その傍らには彼女の祖父であろ、立派な白髭を蓄えた背の高い男性が酒瓶を片手に立っていた。
「うぃ~、ど~も、なんちゃって訓練所店主のリデルと言いま~す。こっちは孫のハイマでひぎゃ!?」
赤い顔のリデルさんがチャラ男発言した瞬間、変な声を上げて飛び上がった。恐らくハイマさんが見えないところで足を踏んづけたんだろう。ハイマさんは苦笑いを向けてきたので、私も苦笑いで返しておく。
「っあー痛ぇ……ハイマ少しは手加減しろよ。ってあぁ、嬢ちゃん武器の訓練に来たんだったなぁ。どんな武器だい?」
ハイマさんのキツイ一撃に酔いが覚めたのか、リデルさんは忌々しげにハイマさんを見ながら聞いてきた。
「弓の扱い方を学びたいですニャ。あと出来れば鞭もですニャ」
「鞭の間は今改装中だから使えねぇが、弓はがら空き同然だから大丈夫だ。てか弓なんてまた使い勝手悪いも痛ァア!? ……う、うし、じゃあ弓の間に行ってくれ。講師も居るから直ぐに上達するだろうよ」
NPCからも弓は不遇だと言われたが、アレだけ使いにくければ仕方がない。ハイマさんからキツイ一撃を喰らったリデルさんは、机を上げて奥へと通れるようにしてくれたので、私はカウンターの奥に入っていった。
奥の扉を抜けると、それぞれ武器の絵が彫ってあるプレートのドアが等間隔に作られた長い廊下が続いていた。外見の大きさよりもデカイだろうと内心思ったが、そこはお約束と言うヤツね。
暫く暗い廊下を進んでいくと、弓と矢が交差するプレートが掛けられたドアが見えてきた。多分これが弓の間だろう。
ドアを開けると、これまた空間無視のただっ広い射撃場が広がっていた。射撃者が立つであろう場所から十字に組んだ木の的が立てられており、的の前後に等間隔の穴が空いている事以外、特徴が無い。と言うか、肝心の講師が居ない。
普通ならやって来るまで待つのだろうが、今の私には時間がないので勝手にやらせてもらおう。
そう思いながら速射撃台に立って矢を引き絞る。狙うは一番近い的。十分狙いを定めて、的に合致したところで矢を放った。矢は空気を切り裂きながら飛んでいき、狙った的の足元に突き刺さる。初っぱなから外れた。
「……」
一応昨日の戦闘でも弓使ってたし、弓使いもLv3になって命中率も上がったハズなんだけどな~……。何で初撃時に外しちゃうんだろ。初撃を外したことにより心が折れそうになりガックリと肩を落とすが、気にしてても仕方がないと何とか割り切り再び矢を構える。
「……あれニャ?」
矢を構えて引き絞った時、変な違和感を感じた。
先程狙った的が、少し大きくなっていたのだ。いや、近付いてきたと言った方が良いか? 何か先程よりも近くなったように感じたのだ。
試しにもう一度矢を放ってみる。今度は的の頭上を過ぎた。すると、突然的がクネクネと動き出したではないか!!
突然の事に「ミギャ!?」と声を上げて台から飛び退き的を警戒する。的は暫しクネクネと動いた後、勢い良く穴から足を引き抜いて近付いてきたので、更に警戒の色を強めながら再び矢を構える。
しかし、的がこちらに来ることはなかった。
ハマっていた穴から一番近い穴まで進んだところで的はピタリと立ち止まり、その場でジャンプして足を穴に突き刺したのだ。突然の事に私は構えた矢を取り落として的を見据える。
的は微動だにすること無くその場で静かに佇んでいた。その姿に、私はあることに気づいた。
「あんた……まさか私が矢を当てられるように前に来たのかニャ?」
語尾のせいでしまりが悪くなってしまった私の言葉に、微動だにしなかった的が微かに揺れ、横の丸太の右側――私たちで言う左腕を私に向けて高々と上げた。
私には、それが親指を立てたあのポーズに見えた。
◇◇◇
「ありがとうございました~」
ハイマさんの声を背に受け、私は訓練所を後にした。
アレから3時間程弓の間に籠って練習したおかげで、弓使いがLv7まで成長。射程も前と2倍以上広がり、命中率も10本中5本とかなり上がったり、アーツも何個か覚えることが出来た。個人的には大満足だ。
と言うか、あの的が良い奴過ぎた。
私が外したら近付いてきたり、当てたら離れてくれたりと私の歩調に合わせて難易度を変えてくれたし、一回全部外して心が折れそうになったとき、自ら矢に当たりに行ってくれたりしてくれた。
格好良すぎて惚れてしまいそうだ。
初恋が訓練所の的なんて人、ゲーム内で私だけかもしれない。いや、彼処に行けば誰だって惚れるハズだ!!
さて、次は生産のキットを買わないといけない。
所持金は1600G。昨日、不要な素材アイテムを大量に売り払ったのだが、やはり素材アイテムだけで稼ぐことは難しい。だから、生産でアイテムを作ってそれを売るのが生産職のセオリーなのだとか。
取り敢えず、狙うは製薬キットと調理キットだ。
「簡易製薬キットは800G、簡易調理キットは700Gだよ」
「高くないっすかニャ!?」
道具屋でNPCから値段を聞かされた私は思わず叫んでしまった。今持ってる所持金のほとんどを持っていかれる。しかもレシピが少ない簡易キットで、だ。
しかし、ここはNPCの道具屋。PLが営む露店でならぼったくり紛いの値段を付けることはあり得るが、NPCが経営する店の商品は運営側が設定した値段、つまりこれが最安値。
「これが普通だよ。大体、生産職の冒険者なら始めに5000G持ってるでしょうが」
生産職は戦闘職の3倍以上のお金をもらっていることが判明。まぁ確かにそれだけもらっていればこの値段でも問題ない。
それに、私たちはそこまでお金に縛られることはなく、必要になればクエストを受ければ簡単に稼げる。しかし、PL同士のお金のやり取りを基本とする生産職は、生産したアイテムをいかに高値で売りさばき、リピーターを増やすのか、と言ったゲームスキル以外の能力も必要とされる。この優遇も運営なりの配慮だろう。
「わ、私、戦闘と生産の両方なんですけど……もうちょっとお安くならないですかニャ?」
「知らん、あとワシ猫が嫌いなんだよ」
まさかの猫嫌いを暴露したNPCから、戦闘と生産の両側に片足突っ込んだ私に救済処置はなく、なけなしのお金をはたいて製薬キットと調理キットを購入。所持金は100Gとほぼスッカラかんだ。
道具屋からの帰り道、訓練所の上げ上げだった私のテンションはガタ落ちだ。それを表すように耳がペタンと倒れ、尻尾は力なく揺れている。当初の予定通りではあったが、何故か釈然としない。
取り敢えず、兄貴にフィールド上であんまりMOBが襲ってこない場所が無いかを聞こう。コールをしたら、二回ほどで繋がった。
『妹か? どうした?』
「あのさ~、パークから徒歩20分ぐらいの範囲で、安全に生産ができる場所ってないかニャ?」
『それなら【西の森】がいいんじゃないか? あそこ昼間はノンアクティブが多いし、採取ポイントもたくさんあるらしいからな。その分、夜はレベルが高いMOBがポップするから、暗くなる前には帰ってくるんだぞ。あと、ポップって言うのは、倒したMOBが新しく復活することな』
初心者の私に分かりやすい説明ありがとう。そしてあんたは私のお母さんか、と言う突っ込みを飲み込んで、マップを開いて【西の森】をさがしてみる。
見たところ、"パーク"から西に真っ直ぐ道なりに行けば着くみたい。道中に採取士ながらいけば30分ってところかな。
兄貴にお礼を言って通信を切り、西の森目指してフィールドに続く門に向かった。




