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……やるしかない。

【~猫の気持ち~

 猫の気持ちが心身共に理解できるようになる。これを装備中、強制的に語尾が『にゃ』かこれを孕んだものになるので注意。恐らく黒歴史になるでしょうから(笑)


因みに――】


「ふ・ざ・け・る・ニャァ!!」


 『猫の気持ち』の説明を見ながら、握り拳を一声発する後とに机に叩き付ける。その音に店内の空気が一瞬固まり、周りの視線が一気に私に注がれるが、そんなことはどうでもいい。


「何でこんな地雷テスが存在するニャァァアア!! マジ運営鬼畜過ぎるニャァアア!! あとこの説明文完全におちょくってんだろニャァァアアア!!!!」


 あの時の安易な気持ちで選択したテスがこうも裏目に出るとは思わなかった。


 今私の頭、および腰の辺りから生えている耳と尻尾は、どうやらゲーム開始前に取ったネタテス『猫の気持ち』が原因だ。


 この『猫の気持ち』の説明は先ほど述べたとおり。どうやらこれは猫の意思疎通を可能とするモノではなく、自らが猫となりその生態や心情を、文字通り心身を持って理解することが出来るというものらしいのだ。しかも、これを装備中は頭に猫耳が腰に尻尾が生え、さらに言葉を言おうものならば強制的に語尾が『ニャ』やそれっぽいものに変換される始末。羞恥プレイでも何ものでもない。 


「ああ、死にたいニャ……」

「い、一旦落ち着け妹よ。店内で騒いだら余計周りの注目を集めるだけだから、な?」

「鼻血出しながら言える言葉かニャ!!」


 鼻血を垂れ流しながら諌める兄貴の顔面にパンチ(猫パンチではない)を喰らわせ、目の前に置かれたジョッキをチビりと飲んで、直ぐ様机にくっ伏す。その際、頭の耳と尻尾がヘタリと力なく垂れる。


 ここは西広場から少し外れた通りにポツリと立っている酒場。


 広場で合流した私は兄貴から驚愕の事実を突きつけられてその場で混乱。そんな私を兄貴はネトゲ仲間に断りを入れて、この酒場まで引っ張ってきてくれたのだ。


「と、取り敢えずこれからどうする? 狩りにでも行くか? 買い物でも行くか? 今日は初VRMMOのお祝いとして妹の願いを聞き届けてやろう」


 めり込んだ顔を修復させた兄貴が話題を振ってくるが、頭には早くログアウトしてこのアバターをこの世から抹殺したいと言う選択肢しか浮かんでこない。しかし、『HLO』において無料で作成できるアバターは一つまで。今このアバターを消したとしても、新たなアバターを作るのに料金が発生してしまう。


 一応ゲーム内で発生する料金は全て兄貴が負担してくれると言うことになっているが、兄貴もお金に余裕があるわけではない。ゲーム器とソフトだけで、ここ何ヵ月かのバイト代が吹き飛んでしまったはずだ。そこまでしてゲームに誘ってくれた兄貴に、これ以上負担をかけたくないと思うのは妹の心情だろう。


 ならば、残る道は一つのみ。


「今からフィールドに出てレベル上げたいニャ。さっさレベル10にして、こんなテス外してやるニャ」


 語尾のせいで間抜けな風にしか聞こえないが気にしない。兄貴がここまで引っ張ってきてくれたお礼として勘定を払い、フィールドに行こう。この忌々しい足枷を一秒でも早く取っ払ってやる。


「と、待つんだ妹よ」


 酒場を飛び出して早速フィールドにでようとしたら、速攻で兄貴に引き留められた。てか首根っこ掴んでプラーーンってするのやめろ。まんま猫じゃないの。


「兄貴、なにするのニャ」

「ごっ……ま、まずは露店などでアイテムを買うのが定石だ。我は長剣(これ)だから良いが、妹は弓であろう? 矢も買わずにモンスターと戦えるか? それに渇水度や空腹度用に食料アイテムも買わなければいけない。だから、いきなりフイールドに行くのは駄目だ」


 説明していなかったが、このゲームには空腹度と渇水度が存在する。


 時間が経ったり、何かしら行動するとそれらが減っていき、空腹度が0になるとHPが、渇水度が0になるとMPが減少していくらしい。因みに空腹度でHPがゼロになることはないが、その代わり様々なバットステータスがかかるらしい。それを回復するには食料アイテムを食べるしか方法が無いらしく、回復アイテムや装備と並んで生産の重要な一角を担っているのだ。


 因みに、私が料理と取った理由は、お金稼ぎとレシピ研究のため。ゲーム内だと後片付けも楽だし、狩りや採取で粗方の食材は手に入るので、研究にはもってこいだ。


「取り敢えず露店に行って必要なアイテムを購入し、それからフィールドに行こう」

「言い分は分かったニャ。取り敢えず降ろせニャ!!」


 頑なに掴み続ける兄貴を引っ掻きながら、取り敢えずフィールドへと続く門を離れ、露店でごった返す通り――通称『生産者通り』へと向かった。向かう途中、周りのプレイヤー達の視線が結構突き刺さってきた。どれだけ浮いてるんだよ、自分……。ちょっと気分が萎えた。


 そんな私の気持ちを露知らず、兄貴は生産通りを進み、様々なアイテムを買っていく。初級ポーション、解毒ポーション等の回復アイテム、矢、携帯食料、飲み水等の消耗品等々。残金1250Gが120Gまで減ってしまった。因みに、初期所持金は1500Gた,。

 まぁ必須出費なので仕方がないよ。それに兄貴曰くクエストを2、3回こなせば元に戻るらしいので、ちょっとの辛抱だ。


 因みに露店を回っている間に起きたことはあまりなかった。強いて言えば、私のSSを撮ろうとしてきた店主に兄貴共々お仕置きしたことかな? それで改心した店主は快く(・・)店の品を全て2割引きで提供してくれたくらいだ。取り上げる話でもないだろう。


 そんなこんなで準備を終え、いよいよフィールドだ。


 "パーク"の城壁を抜けると、そこには何処までも続く空と青々と茂った草原が見渡す限り広がっていた。


「凄い……ニャ」


 頬を撫でる風に草独特の青臭さを感じ、独りでにそんなことを漏らしてしまった。結構頑張ったが、最後の語尾を消すことは出来なかった。ちくしょう。


「改めて見ると凄いなぁ。これがゲームの世界だって疑いたくなるほどだ」


 傍らの兄貴も、この光景に素直に驚いている様子。無理もないか。これだけ自然豊かで広大な草原なんて現実(リアル)で御目にかかれることなんて数少ないのだから。

 そんな元風景に見とれていると、真後ろの草むらがガサガサと揺れた。兄貴は直ぐ様背中の長剣を抜き払い、後ろに下がるように指示を飛ばしてきた。それに従い後ろに下がる。草むらは私が下がって、数秒間ガサゴソしていたが、不意に黒い影がそこから飛び出してきた。


 現れたのは兎であった。見た目は普通の兎だが、脚と体長が一回りくらい大きいのが特徴だ。


【ラビットフット Lv2】


 そんな表示とHPバーが出る、ラビットフットが兄貴に突進していく。兄貴はそれを剣で受け流しながら、刃を返してその身体を斬りつける。斬りつけられたラビットフットは着地した場所で踞る。そのHPが7割まで削れている。


「妹!! 援護頼む!!」


 兄貴の怒号に我に帰り、あたふたと弓と先程雑貨屋で買った木矢(50本1セットで50G)を取り出し、狙いを澄まして放つ。が、放った矢はラビットフットから数m離れた木に突き刺さった。

 その間に体勢を立て直したラビットフットは、今度は私に向かって飛び掛かってきた。慌てて矢を掴もうと矢筒に手を伸ばすが、焦りから上手く掴めない。ようやく矢を掴んだとき、目の前にラビットフットが迫っていた。


「ニャァ!?」


 反射的にそう叫んで横に転がって蹴りを回避、ラビットフットは飛び蹴りの勢いのまま地面に激突。そのHPを六割弱まで減らした。

 横に転がって体勢を立て直し、落ち着いて放つ。今度はラビットフットの背中に矢が当たりに、そのHPを5割に食い込ませた。そして兄貴の追撃により空中に投げ出されたラビットフットに更に射かけるが、全て外してしまう。空中で体勢を立て直したラビットフットであったが、最後は地面に落ちる前に兄貴が剣を振り上げ、そのHPを0にした。


 こうして、私のVRMMO初戦闘は幕を閉じた。


「お、終わったニャ~……」


 勝てたことにより気が抜け、その場で座り込んでしまう。その横でお疲れさんと言いたげに兄貴が微笑み、動かなくなったラビットフットに近づいて剥ぎ取りを済ませる。

 剥ぎ取ると言っても、倒したMOBに近づいて『剥ぎ取りますか?』って画面から『はい』を押すだけの簡単なお仕事だけどね。兄貴の後に私も剥ぎ取ったら、ラビットフットの身体はポリゴンになって消えていった。どうやらパーティーメンバーが全員剥ぎ取ると消えるみたいだ。勿論、時間を置いても消える。


 取り敢えず初戦闘で分かったことは、弓は想像してたより断然難しいってことだね。『ゲームだから多少の補正がかかるでしょ』って楽観的に考えてたけど、まさかここまで難しいとは思わなかった。最後のあれは狙いも定めずに放ったヤツだから紛れ当たりだ。私の実力じゃない。


「まぁVRMMOで弓って結構不遇扱いだからな。リアルの器用さとか、射撃のセンスとかがないと難しいし、矢も使い捨てでコスパ最悪だし。なかなかめんどくさい武器(モン)選んでしまったなぁ~」


 長剣を納めながら、のん気にそんなことを言ってくる兄貴。分かってたのなら選ぶ前に教えて欲しかった。まぁ教えてもらっても、デメリットを考えて多分変えなかったと思うけど。


 と言うか、獣医志望が助けるべき動物を倒していいのだろうか……? うん、気にしたら負けだ。


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